第5話 マーブル

この島の朝はとても早くて驚いた。

薄暗い中、漁師達は出港の準備で忙しそうだ。


昨日は長く刺激的な1日で疲れ果て、屋根の上でぐっすり寝てしまった。

僕は上から港を見下ろすと、若い漁師が船の点検をしていて、その傍にはジャスティン・ビーバーがいた。

船が出港すると「いってらっしゃ~い」と手を振るみたいにしっぽを左右に振っている。


今日も新しい一日が始まる。

僕は師匠に会いにいく為、恐る恐る来た道を降りていく事にした。

ジャンプで登っていく時より降りていく時の方が時間がかかって、普段使わない筋肉を使う。


「師匠~!」

「おぅ、一人で降りられたか」

「はい、なんとか」

「慣れれば簡単さ」

「はい」

「でもよくここがわかったな?」

「はい、屋根の上から見えました」

「そっか、そっか」

「はい」

「なんかここに来ると、不思議と若返った気になるんだよな」

「ジャスティン・ビーバー効果ですかね!」

「あ、それはあるかもな〜。なんだか知らんけど」

「ジャスティン・ビーバーってカナダ人のミュージシャンですよ」

「カ、カナダ人?!」

「はい。ご主人様がファンでした。入れ墨がたくさん入ってるんですよね〜」

「い、入れ墨が?!」

「はい」

「なんでおらはジャスティン・ビーバーになったんだ?」

「……」

「……」

しばらく沈黙の時間が続いた。

考えてもきっと永久にわからないと悟り、師匠は諦め口を開いた。


「今日はな、お前と同じ年位の奴がいるから、紹介するぞ」

「本当ですか!」

「あぁ、奴は島育ちだからな、頼りになるぞ〜」

「友達になれたらいいな」

「大丈夫」

「はい」


嬉しさと緊張を交えながら師匠の後を付いて行く。


「おい!シマ!」

「あっ!先輩!おはようございます」

「おはよう、おはよう」

二人は鼻と鼻をくっつけて挨拶を交わした。

「この新入り、紹介するよ」

「あの、初めまして、新入りです。宜しくお願いします」

「新入りって事は・・・・・・先輩、例のパターンですか?」

「あぁ、そうなんだ。悪い奴じゃないからな、いろいろ教えってやってくれ。お前達、年も近いし何かと気が合うだろ」

「よろしく、僕はシマ。縞々がはっきりしたキジトラだからシマって呼ばれてるんだけど、君も縞々加減が……結構凄いな〜。キジトラ?なのか?」

「僕はアメリカンショートヘアーって言うらしいです」

「あ~あのよくキャットフードの表紙にいる猫か!」

「そうなんですか?」

「よ〜く見ると俺のは縞々模様で、君のはマーブル模様って感じだよな。雑種とブランドの違いがはっきり出てるわ……」

「まぁ、シマよ、外見なんて気にするな。男なら中身で勝負だろ!」

「はい、先輩」

「おらぁ、ちょっと斎藤さん家に行ってくるからよ、こいつ宜しく頼むわ。大体は島の中案内してやったけど、子育てゾーンと、テレサゾーンはまだ行ってねぇ・・・・・・まぁ、適当に宜しく!」

「はい」

「師匠!」

つい心細くなって呼び止めてしまった。

「大丈夫、シマはいい奴だ。おらだと年で行き辛いとこもあっから、若いシマにいろいろ連れてってもらえ!ジャンプは腰にくるからよ〜」

「はい」


そう言うと、師匠はてくてくと斎藤さん家に向かった。


「斎藤さんは高齢だから、先輩が毎日家に行って倒れてないかとかパトロールしにいくんだ。斎藤さんはよく怪我した猫の手当てをしてくれた人なんだ。先輩も昔はよく喧嘩してたらしくて、お世話になったって言ってたな〜」

「良い人ですね、斎藤さん」

「そうだな。良い人もいれば・・・・・・だよな。先輩から聞いてるだろ?」

「はい」

「先輩のお父さんは人間の罠で大怪我したらしいんだ」

「罠?」

「とらばさみって言う、恐ろしい罠だよ。それにやられると、足一本なくなるんだ。下手したら命ももっていかれるんだ」

「え!」

「今じゃあ使用禁止になったらしいけど、昔はよく動物に対して罠を仕掛けてたんだ」

「怖いですね」

「先輩のお父さんを助けてくれたのが斎藤さんなんだ。三本足になったけど、斎藤さんが立派な義足を作ってくれて、元気に走り回ってたらしい。明るくて世話好きな島の人気者だったって。

ま、そういう事もあって、先輩は新入りが来る度に必ず人間の話をするんだ」

「そうだったのか……」


「年が近いのに、君の事『新入り』なんて偉そうに呼べないな~」

「そうですか?」

「そうだ!『マーブル』って呼ぼう」

「いいですね〜。じゃあ僕、マーブルで!」

「よし!まずは子育てゾーンから行くか!」

「はい!」


シマシマ模様とマーブル模様は朝日と共に元気よく走りだした。

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