第11話 師匠の過去

船場に着くも漁師達はまだ帰ってきておらず、辺りは妙に静かであった。


「……」

「どうしたマーブル?浮かない顔してるな」

「思い出しちゃいました、ここに着いた日の事を」

「そうか……」

「はい」

「ここに来るとよ、別れの日の事……思い出すんだよな〜」

「!」

「実はおらも家猫だったんだ。ちょっと複雑でよ、おらの場合」

「どう……複雑なんです?」

「おらはこの島で生まれたんだがよ、赤ん坊の時に観光客がポケットに入れて持ち帰ったんだ」

「!」

「その頃はまだ佐伯さん家に母猫達は集まってなくてな。みんなそれぞれ好きな場所で産んでたわい」

「そうだったんですか」

「おらの誘拐事件が母猫達に伝わってからだ、みんなで協力して子育てするようになったのは」

「師匠きっかけなんですね〜」

「ま、まあな。3年くらい一緒に暮らしたのかな?理由は知らんがおらを連れて帰ったのにな、またこの島に戻しにきたんだわ、ぶったまげるだろ?」

「はい、ぶったまげますね!」

「だからおらはよ、どっちも知ってるんだな。外の世界も中の世界も」

「すご〜い」

「すごいってお前も同じだろ?」

「あっ、そっか!そうでした!」

「もう1つお前さんとは共通点があるんだわ」

「何ですか?」

「実はな、おら、お前と同じレオって名前だったんだ」

「!」

「奇遇だろ〜?有名な白いライオンのアニメからとったみたいだ。多分お前の主人もそうだろう」

「いえ、ご主人様はレオナルド・ディカプリオからとっていました」

「なんだそりゃ?まぁ、そんな事はいいわい」

「すみません」

「今じゃあよ、グレーに近い色になっちまったけどよ、若い頃は真っ白くてな、綺麗な毛並みでモテモテだったんだぞ。1日3回のブラッシングがあってよ、3か月に1回はシャンプーもしてくれて。

ご自慢の毛だったさ」

「そんな時が……あったんですね〜」

「夏はクーラーがあって、冬はコタツがあってよ、腹が減ったら飯が用意されてよ、新鮮な水にネズミのおもちゃ。いたせりつくせりよ。短い間だったけどいい思い出だ」

「はい、とっても快適でした」

「でもな……、俺はここへ帰って来て自由ってもんを手に入れたぞ。俺は所詮猫だからよ、当たり前だけどな、だんだん猫らしくなっていったんだ。自分に自信を取り戻した気分で誇らしかったぞ。お前は自分のこと猫だと思っているか?」

「猫?」

「猫っていうのはすごいんだぞ!お前はまだ本当の自分を知らないだろ?」

「そうかもしれません」

「まだ若造だもんな」

「はい」

「なぁ、いい加減腹へらねぇか?」

「はい」

「久しぶりにやるかな〜」

「な、何をですか?」


そういうと師匠は観光客を見つけて甘い声ですり寄っていった。


「いや~ん。かわいい~」

「お腹空いてるのかな~?」


師匠は後ろを振り返り僕にこっちへ来いと合図した。僕は恥ずかしくて、少し怖かったけど勇気を出してついて行った。


「この猫、すごい綺麗じゃない?」

「なんか、のらちゃんっぽくないよね〜」

女の人に優しく撫でてもらうのは久しぶりで嬉しくて、ドキドキで気がつけばゴロゴロを鳴らしてしまっていた。


おなかが空いていた僕は差し出されたおやつを我武者羅に食べた。もっともっと、とねだってもみた。


「お前、やるな~」

「あ、つい」

「猫ってのはやる気になったらなんでもできるんだ!」

「はい!」


お腹は満たされたが、なにかがやっぱり満たされない。


「ご主人様に……会いたいな」


つい、ポロッとでてしまった。


「……」

師匠はジロっと僕を睨んだ。

「だって……」

「お前を捨てたやつだぞ」

「でも、優しかったです。いつも僕の事を可愛がってくれたし、愛してくれました。」

「愛してたやつが捨てるのか?」

「……」

「愛するってのはよ、簡単なことじゃねんだ」

「はぁ」

「上っ面な愛には条件が付きまとうもんよ。見返りを求めてみたりな」

「……」

「邪魔になったとか、病気してお金がかかるとか、老いて介護が必要になったとか、自分に都合が悪くなったらこの島にポイって置いてっちまうんだ。

置いてかれた奴らをたっくさん見てきたわぃ」

「そうなんですか?!」

「猫界のルールを知らないやつは標的にされていじめられたり、喧嘩の仕方をしらないから大怪我したり、捨てられたショックでなにも食べずに弱って死んでくのもいた」

「……」

「忘れるんだ。時間はかかるだろうがな。お前には友達がいるし、優しい島民もいる、おらだってついてるんだから!なっ!」

「……はい」

「甘えたくなったら観光客に甘えろ、ほんでついでにおねだりしてよ〜美味しいもん食え!」

「……はい」

「マーブル、お前には可愛がられる才能があるんだから、その才能使ってけぇ!」

「才能ですか?」

「そうだ、みんなな、それぞれ持って生まれた才能ってもんがあるんだ、狩りが上手い才能や、メスへのアプローチが上手い才能、毛づくろいが上手い才能」

「はぃ」

「お前さんはどうやら、愛嬌が才能かもしれんな〜」

「愛嬌……」

「その愛嬌を武器に強く生きていくんだ!」

「は、はい!」





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