1-4

山田は座っていた椅子から立ち上がり

 僕の方に向かってきた。

 

 山「あの女はいったいなんや?」

  

 先「あれは、僕の助手です。」

 

 山「ん??

   どういうことや?

   なんでここに??」

  

 先「あいつは3年前ここに来たんだ。

   お前が死んだとされた年に。

  まさか山田、生野の事知ってるのか?」

  

 山「いや、それは知らん

  俺はあいつと面識もない。」

 

 先「それもそうだよな、

  お前が死んだとされた後に助手はここに 

  来たんだから知らなくて当然だな。

  と言うかお前病人だろ?

  部屋に案内してやるから大人しくしてろ、

  因みにお前が生きてる事は、」 

 

 山「勿論誰も知らん、

   一部の人間を除いてわな」

 

 先「分かった、少し待ってろ

   部屋を用意する。」


 山「はいよ、宜しく」

 

僕は山田の部屋を作りに

さっき手術した男の部屋に向かった。

仕方ない山田はさっきの奴と相部屋にするか、

ついでにあの男の容態でも見ておこう。


先生が山田から離れた事を確認し

助手が早々、山田の元に現れた。

山田はさっきのような怯えた表情はしていなかった。


 助「山田さん、貴方は死んだはずでしたよね?

   何でここに居るのですか?」  


 山「ここに来る理由は一つだけやろ?

   病気やからや、

   病気には勝てんやろ?」

  

 助「病気なら治療も必要ですね。

   なるほど、分かりました。

  それなら他の病院に行けば良かったのでは?

    

 山「死んだ俺が病院なんて行ける訳ないやろ?

   だからここに来た。

   それだけや。」

   

 助「本当に病人ですか?  

   何か理由があって来たのではないん

   ですか?」

  

 山「そんな訳ないやろ

   俺は病気だ、

   あいつから聞いているだろ?

   それにカルテだってある」

   

 助「分かりました。

   信じましょう

  ですが私は何らかの理由で貴方がここに

   来てるんだと思っています。

   なのでさっきは殺すか迷いました。

   殺さなかっただけ感謝して下さい。」

 

 山「なんて奴や、お前はw

  まぁーいい、俺の事はお前には関係ないからな」

   

 助「そうですね、

  でも変な行動とか取れば分かってますね?」

   

 山「分かった、分かった。

   殺されるのだけはごめんや」

      

助手は山田の事を疑っていた。

山田は青龍会幹部の男、

やっぱりあの時、殺しておくべきだったか?

いや、今殺すと先生に迷惑がかかる、

今は様子を見よう。 

山田も今は動かないはず。

いざとなれば私が、殺すだけ。

沈黙が続き、山田はその場から立ち上がり

無言でその場を立ち去った。

 

生野は俺を殺すつもりだろう。

3年前は拳銃すら扱えなかった奴が、

今となっては、これも成長か。

仕方ない少し大人しくするか、

今殺されたら元も子もないからな。 

俺は先生の元に向かった。

先生がさっき話してた緊急手術をした奴を見に行くとするか。


一方、助手はと言うと椅子に座って考えていた。

なんで山田が生きている?

3年前に死んだはず...


(時は遡る程3年前、私は青龍会に拾われた。

ここに来る前は医者として病院に勤務していた。

自分で言うのも難だが私はかなり優秀だった。

 同僚の中では頭一つ、いや2つぐらい抜けて

いたと思う。

 そのため私に対する期待も当然、高かった。

 しかし一部の人間からは凄く嫌われていた。

 いわいる嫉妬だ。

 

 妬み、嫉妬、人間の最も醜い部分、

 それは皆んな1度は必ず思う事、

 私もそんな感情経験はある。

 自尊心が低い、自分に自信が持てない、

 相手の事が羨ましい、

 自分も良い物を持っているはずなのに

 それに気づかない。

 相手の事ばかり考えたり

 誰かに認めてもらいたいと言う承認欲求、

 凄いと言われたい、

 もう何のために医者をしているんだ?

 って思った。

 私達がすべき事は、患者を助ける事、

 ここは芸術大会ではない。

 そんなに相手の事が羨ましいなら努力すれば良

い、

 自分で自分を褒めれるぐらい努力すれば良い

だけの事。

 自信がないのは実力がないから。

 実力があるのに自尊心が低いのは

 経験がないから、だと私は思う。

 何より一番大切なのは気持ちだ。

 そんな嫉妬心を抱いている奴の取る行動は、

 イジメ、だ。    

 私はイジメの標的にされた。

最初は物が無くなるなどの初歩的な事だった。

 それらが段々とエスカレートして行き

 業務にまで支障を来すようになっていた。


 1、診察前の患者のカルテが無くなる

 

 2、診察中、レントゲン写真が届かない

 

 3、薬は間違えて処方されたりなど

   もはや犯罪レベル、


しかも誰がやっているのか分からない。


 皆んな、普段は普通に接するが、

 もしかしたらこの人が、と思うと

 私はだんだん、誰も信用できなくなっていた。

 それに伴って私の味方をしてくれる人も段々と

減っていった。

 人の事を信用しない人間が自分のことを信用

してくれる訳がないからだ。

 信頼関係で一番大事なコミュニケーションの

拒絶、これは致命的だった。

私に接触しようとする者は冷たくあしらった。 

 その結果、

 最終的には私は1人になってしまい誰も居なか

 った。

 私の事を心配してくれる人も居るが

 余計なお節介、

 職場の人達は全員敵だった。

 

『だが業務中は仕方なく通常対応した。』


さらに私は外科医、当然手術もする事もある。

 だが私が手術室に入った途端、

 かなり空気が悪くなる。

 さらに皆んな最低限の仕事しかしない。

 恐らく私がミスを起こしたら誰も手伝って

 くれない事は明白。

 もう最悪な状態。

 そんな事、分かっていたのに...

 まさか私が人を死なせる事になるとは...

 私はある手術でミスを起こしてしまった。

 傷つけてはいけない血管を破綻させてしまい

患者を死なせてしまった。

完全に私のミス、だがあの時、私のサポート、

 いや患者を助けようとする者はいなかった。


 だが、病院側は、全力を尽くした結果、

 死因は執刀医の手術ミス、と言うことにして

 責任は全て私に押し付けられた。

 その結果、病院を辞めさせられる事になり、

 さらに病院側が遺族側に多額の賠償金を支払

ったことで表沙汰にならないで済んだ。

 だがこの事件は色んな病院にも知られ

 いつの間に勝手に私が手術をして

 殺したと言う事になっていた。

 私は医師免許を剥奪され

 残ったのは借金だけだった。

 賠償金は病院側が立て替え、支払いをしてくれ

 た。

 その請求は後に私に来ると言うことだった。

 私は全てを失った。 

 私の物は全て借金返済に当てられた。

 差し押さえというやつだ。 

 地位も名誉も全てなくなり

 ホームレス生活を余儀なくされた。

 幸い季節は9月、少し暑いぐらいだった。

 生活する所は、河川敷、高架下、といった

 人の影に隠れた所だ。

 水商売で金を稼ぐなどの方法はあったが

 私はそんな所では働きたくなかった。

 人と接したくないからだ。

 そんな気持ちとは裏腹に取り立ては続いた。

 私は意味が分からなかった。 

 全てを失いホームレスになった私に

 お金を払えと、取り立てに来たのだ。

 確かに請求は後に私に来る予定だったが、

 今、来られても金はない...

 私は逃げた、全力で逃げた。

 だが、ホームレスな事には変わりなかった。

 ある街で私は疲れ果て、座っていた時の事。

 人生の転機というか、なんというか

 私は山田に話しかけられた。

この男に助けられたと言うのも過言ではない。

 その時は命の恩人だった。

なんで話かけて来たのかは今でも分からない。

 

 顔が好みだったから?

 ホームレスの若い女の人が珍しいから?

 ぐらいしか思い当たらなかった。


『確かに私はそれなりに容姿は整っている方 だと思う、

 顔も可愛いと言うより

 綺麗な方だと思うし、

 身長は少し高いし

 化粧はナチュラルメイクだし

 着飾らないし。

 パーフェクト、自分で言ってしまった

 けど、まぁ、いいか。』

 

 山田は私を組の事務所に案内してくれた。 

 私は事務所に連れてこられ何をされるのかと思

っていたら

 まさかの寝床や最低限の生活の面倒を見てくれ

ると言う事だった。

 その条件として青龍会、実際は、

 青龍会、白龍会の医療部門として働くと言う

ことだったが、

 その前に、拳銃の撃ち方など

 雑用、犯罪の一部の見学、

 学校か!! と言う事をした。

その時山田は違う事件、暗殺業務を行っていた

その業務が終わるのと同時に私は先生の所に来。)

 

私が知っているのは、

山田は暗殺業務中、命を落としたと言う事。

誰を暗殺しようとしていたかまでは分からないが、

死んだ扱いにしなければならない程の相手を殺そうとしていた、と言うことだけ分かる。

そんなこと私が知っても意味がない。

それより私を助けくれた山田が、

まさかのヤクザ、

皮肉にも医療部門への配属、

たまたまなのか、知っていて配属になったのか分からないが、

感謝する一面、怒りもあった。

もう医療とは無縁の世界で生きたかった

からだ。

なのに何故、又この世界に...

しかも医師免許を持っていないのに、


私は悩んだ。

自分のミスで患者を死なせ

医師免許を剥奪された人間が、

たとえ裏社会といえ医療の世界に戻ってもいいのか?

だが、仮にここから逃げたとしても

私には帰る場所もましては助けてくれる仲間もいない。

そうなれば残るのは返す当てのない借金だけ....

けどここに残れば借金を無利子で肩代わりしてくれるらしい、

医者として働いて返していけということだ。

そうなれば返す当てのない借金に追われることもなくなり、

少しずつ借金を返していくことができるようになるだろう。

医者に戻るのは少し思うところがあるがこんな好条件断れるはずがない....


そして私はまた医者となった。


早速医者として仕事をするのかと思ったらどうやら違うみたいだ。

まず私は拳銃の打ち方や襲われた際の対処法について学んだ。

なぜこんなことが必要なのかと思ったが、万が一襲撃されたりしたときのためらしい....

ハハ....さすがは裏社会....


そんなこんなで射撃練習や筋トレなどが当分の間続いた。

そのおかげで銃の扱いにもだいぶ慣れてきた。

これを使う時が来なければいいんだけど....

私は出来るだけ救う側でいたい。

だがもし、これを使わなければならない状況になったとき、相手はためらうだろうか....

多分確実に殺される....なら私も覚悟を決めよう。

そのために拳銃に慣れないといけない.....でないと殺される。

誰も助けてくれない状況なら自分の身は自分で守る必要がある。

私は嫌々ながらも耐え抜いた。

一週間後私は久しぶりに外に出ることになった

外に出れた時は心が弾けるように嬉しかった。

まるで子供のように心が踊った。


その後は先生の所で働き、今に至るがここに来て直ぐのこと....

聞いた話では

私は山田が死んだと聞かされた。

暗殺業務中に死んだらしい。

私にはそれぐらいの情報しか教えられなかった。

最初は驚いたが人はいつか死ぬ

それが早いか遅いか、

いつか来る未来がたまたま早く来てしまっただけの事だと私は思った。

恩人だとか、救ってくれた救世主、だとかは思わない、

こうなったのも私の悪運、とでも言っておこうか。

私がここに来た事も因果。

あの人が死んだ事も因果、

私の中でもうあの人は死んだと思っていた。

しかし生存していると聞かされ

正直「はぁ?」って口から出そうになった。

組織内での事、色々首を突っ込んでもロクな事しか起こらない。

秘密を握れば握る程、

面倒事も増え気になる事も増える。

人間の知りたい欲求を抑えることは難しい。

人間は強欲なのだから。

だから私は時間をかけて徐々に聞き出そうと考えていた。


もし口を割らない時は強行手段に乗り切る!

どんな手を使っても吐かせる。

それが私のやり方。

どんな手で吐かせるか考えただけで私はニヤニヤし、笑みを浮かべながら先生の所に戻った。



その頃、山田は先生を探していた。

元々あまり落ち着きがない性格なのだろう。

本人は普通にしているつもりだろうがどうも慌ただしい。


さらに普段来ることのない場所に

山田のテンションも上がっていたのだろう。

しかし今は先生を見つけることが優先。

山田は慌ただしく部屋を見て周り

先生を探した。

先生に対して色々と不満を言いながら探すが先生は見つからない。 



用事がある時に居ないのが腹立つのだろう。

山田は少しイライラしていた

それに山田は助手がここにいることに対してどうやら思うとこがあるみたいだ

助手は知らないが、実のところ助手がここに来るように山田が仕向けたのだった...

山田は本意ではないにしろ”助手の人生を壊したのだ”

それを助手が知ったらどうなるなることか....


組織に必要なことだと命令されて、その命令を遂行したとしても気分のいいものではない。

組織に必要なことだと命令されて、その命令を遂行したとしても気分のいいものではない。

山田は人の人生を壊しもて何も思わないような人間ではなかった

胸の鬱憤がたまりつつある。


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漆黒の空 D @241166

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