第57鮫 海遊武闘鮫Sガンザメ
「SHARK!? SHARK!?(い、今来て仕事は大丈夫なの!? 国際法で戦えないのよ!?)」
「何を言っているのか理解は出来ないが何となく分かったのだ。あんな魔法の使い方をするのはセレデリナぐらいで助けを求めている事など一目瞭然、隣国の島での仕事が終わって一段落付いていたところでタイミングが良かったから来たのである。それに、ここは地図にない島であろう? ならば、余が多少暴れてもバレやしないのだ!」
「SHA、SHARK?(そ、その理屈は無理がないかしら?)」
「……アレはバーシャーケー王ではないか!? あーもう相変わらず〈
少し言っていることがめちゃくちゃなものの、彼女は昔からずっとこんな性格だ。私も心で通じ合うように分かる。
なら、何がどうあれ最高の助っ人!
そして、彼女の登場に合わせるかのように、黄色い大きな布は触手を地面にボトボト落とし、あの痩せ細った触手の翼を持つ怪鳥が数多と現れる。
だが、今ここにいるのは、"最強の魔王"アノマーノと"異界の王"たるサメ使いの鮫沢悠一。
私がバーシャーケー王と戦う場所に邪魔者が立てないと約束されていると言っていい。
「鮫沢、地上の敵はもうちょっと気合いで頑張って欲しいのだ。空の敵は余がやる」
「ぐぬぬ、わしもサメ大工も頑張って食い止めるしかないようじゃのう」
「そういう事なのだ。セカンド・スカイ! 固有魔法、ディメンションポケット!」
おじいさんとの役割分担を終えた彼女は魔法で空へと飛び上がり、空中に時空の穴のようなものが現れ、そこに右手を突っ込むような動作をするとハルバードを2本取り出されそれぞれ両手で持って構えた。
「例のバリアは厄介であるが武器による攻撃は通じるであろう。全力の2割ぐらいしか出せないのは歯痒いが、あの巨大な黒幕と戦うのはセレデリナの役目、それなら無問題なのだ!」
恐れるものなど何も無いかの如く、2本のハルバードで空を駈け、ザックザックと怪鳥やタカ型のタコを屠っていく。
「マデウス流武術"ダブルハルバード・ハリケーン"!」
2本のハルバートを投げ斧のように回転させながら投擲すれば、触れる怪鳥は全て真っ二つ、英雄のやることは何をするにも豪快。
おじいさんも空の敵を対処するのは無理が出てくる場面だったが、アノマーノとの役割分担によりむしろ全てを地上優先にして戦えるようになったので少し余裕が出てきたみたいだ。
こうなれら、地上はおじいさんが、空もアノマーノが抑えてくれてる、後は私が王様と殴り合うだけ!
「SHARK!」
相手は雑魚の生成に行動力を使い切っているのか無防備だ、まずは作戦通りアイレイは封じて、組技を仕掛けるための牽制の右ストレートをかました。
「SHARK!?(何!?)」
しかし、バーシャーケー王はその拳を右手で掴みこちらを抑制する。
その一連の動きは、昨日見た彼の武術であると確信するのに十分だ。
「セレ……デーナよォ!」
更に、不可解なことが起きた。
黄色い大きな布に取り込まれ、邪神と化していたはずのバーシャーケー王が私の名前を発したのだ。
「我輩はァ……既に半分以上意識を乗っ取られているゥ。このままではあと2分が限度ォ。故にィ、例の手合わせをここで願いたいィ!!!!!!」
「SHARK!?(今!?)」
実際、布から突き出ている触手の部分は勝手に動いているみたいだが、バーシャーケー王の体はまだギリギリ自分の意思で動かせるようで、まるで自分が今から死ぬような口振りで勝負を挑んで来たようにも感じる。
せめて私にシャ拳法を見せてから死にたいのだろう。
直接拳をぶつけて技を教えてやると言っていたが、約束を守るためにここまでするかのか普通!?
彼を死なせはしないが、サメを好きだと言ってくれた信念を否定する気もない。
どうせ組み伏せて倒すつもりなのだ、この勝負、受けて立つとしよう!
「SHARK、SHARK!(わかったわ、フレヒカ兵団流マーシャルアーツだってサメの一部よ!)」
「そんな汎用的武術ごときではシャ拳法に敵わんぞォ!」
そうと決まれば、攻撃の手を緩めないだけでいい。
相手は同格の人型だ、特に要領が変わるわけでもない。
私はまず、組み付くための隙を作ることを目的に、掴まれた拳を思いっきり引いて振りほどき、左脚の膝を突き上げ相手の胴体を狙った。
「もっとサメらしい戦いを見せてみろォ!」
しかし、バーシャーケー王は私の左膝に向かって左腕で肘打ちをぶつけそれを抑制。
加えて右脚を大きく振りかぶって私の頭部に向かって蹴りを入れた。
「SHARK!(なら、見せてあげるわ!)」
私はサメ、そんな攻撃を恐れることは無い。
大きく口を開け、その脚に噛み付いた。
シャケにはシャケの、サメにはサメの戦い方がある。
そして今は、彼が望むとおりサメとして本気で答えるべき。ならば、本気で脚ごと噛み砕いてやろう。
「その程度なのかァ、サメはァ!」
「SHARK!?」
だが、左肘で攻撃を押さえつけ、右脚を噛み付かれていながらバーシャーケー王は残った右腕で私の右脚のふくらはぎをつかんだ。
彼は今、片足立ちの状態。
なにをするつもりなのだろうか。
そう疑問に思っていた中、彼が行った行動はあまりに予想外のもだった。
私の脚を掴んだ右腕に力を入れ、その片足立ちで残った左脚をブリッジするように曲げ……私の全身を掴んでスープレックスを掛けたのだ!
当然、私は頭部を思いっきり地面に殴打し、痛みもあってか必死に噛んでいた王様の右脚も離してしまう。
また、その巨体故に大地は少し揺れた。
上手く組み付くための隙を作る攻めが全て裏目に出た上に、こちらが投げ技を決められた状態に追い詰められた。
これで理解した。シャ拳法とは、四肢をひとつ残らず無駄遣いしないその器用な攻撃に加え、川の流れの如きしなやかさで動き、ギガントの魔法を用いて常に相手と同じサイズで戦い、その技をぶつける武術だ。
「シャ拳法を前に恐れ戦いたかァ!」
「SHA、SHARK!(まだ、まだ負けてないわ!)」
しかも、私と戦っている間も王様は邪神として纏った布からずっと怪鳥を生み出し続けている。
おそらく、彼自身の意思と布側の動きはそれぞれ乖離したものだろうが、あんなおぞましい動きをする布を纏いながら精神を保って戦える彼の強さは本物だ。
そんな中で、私の勝負を邪魔させまいと戦ってくれているアノマーノとおじいさんには感謝してもしきれない。
とはいえ、私と王様の勝負として見れば、これは同じ組技でも負けていると見ていい。
ならば同じ土俵に立とうとせず、私らしいやり方で改めて攻めなければ。
幸い、スープレックスの衝撃でお互い横に倒れている。
立ち上がればある程度距離を取れることは可能だ。
そこで私は、即座に判断を切り替えた。
「SHARK!(サード・アイレイ!)」
片腕を落とすぐらいなら死にはしない、あえて腕に向かっての射撃だ、当たれば確実に手数を奪え、しかも腕付近の布も焼くことが出来る。
「ぬゥんゥ!」
だが、バーシャーケー王はしなやかなブリッジをその場で行い、見事に避けた。
私はすかさず下に向けて射線を変えて首を下にずらしたが、王様はブリッジした位置からスライディングを行い回避、更にはそのまま私の足元にまで移動してきたのだ。
判断力もまた、相手の方が一枚上手と言えるだろう。
そうして私の前にまた肉薄したバーシャーケー王は、こう告げてきた。
「セレデーナよぉ、お前は何のためにサメとして戦っているのだァ? 我輩は民のためェ、そして己の信念を貫くために戦っているゥ! しかしィ、お前は目の前の火の粉を振り払うことしか考えていないようにも見えるゥ! 〈ビーストマーダー〉として仕事を全うするならそれでいいだろうがァ、今のお前はサメを背負い、サメとしてサラムトロスの為に戦っているのだァ! そんな己の立場を理解せずに振るう拳や魔法などォ、何の意味もないぞォ!」
「SHARK……(そ、それは……)」
その言葉は、サメとして戦う私に足りていないあらゆる心構えへの指摘だ。
確かに、好きなモノになりたいかは別で、そこに伴う自信のなさをアノマーノが救ったサラムトロスを守るためという大義名分で誤魔化して仕方なくサメになっていた。
今だって、サメとして戦う力があるから、それがないと戦えないから、無理矢理自分がサメだと認めて戦っている。
王様の言う通り、目の前の火の粉を振り払うために過ぎなかったわけだ。
でも本当は、あの日私はサメとして戦う宿命を受けたからサメになったのだと、私は自分が好きなサメを背負い、サラムトロスを巣食う
王様は自らの武術を私にぶつけることで、その意味の重さを教えてくれたのだ。
ただ信念を貫き通すための拳ではない、民を守るため、味方である私を強くするために己の拳でシャ拳法の何たるかを私に伝えてくれた。
なら、おじいさんには悪いけど、組み伏せてアイレイで布を焼くのは愚策。本当にするべきは、四肢を持つサメであるこの肉体を全力で活かすことだ!
「ハッハーァ! 我輩の意思が伝わったようだなァ!」
「SHARK、SHARK、SHARK! SHARK!(ええそうよ、見せてあげるわ、私のマーシャルシャークを! サード・アイレイ!)」
私はまず、地面に向けてアイレイを放ち大きな穴を開けてそこへ潜る形で王様の牽制の左フックを回避した。
「SHARK、SHARK。SHARK!(四肢を持つサメの全身を駆使した技、それはこの
そして、潜った地面の中で私は二つの前腕の側面に生えている"刃のようなヒレ"に向かってアイレイを放った。
すると、ヒレはとてつもない勢いで光の全てを吸収していく。
そう、私はただのサメじゃない、
この一つの
そんな、光を吸収したヒレは双刀の聖剣な如く黄金に輝く。
「SHA、SHARK! SHARK!(いくわよ、魔法と武術とサメを全て合わせたマーシャルシャーク! "オーバー・レイ・フリント!")」
私は穴の底を思いっきり蹴り上げて地面へと舞い上がり、光り輝くヒレを持つ両腕で全力のストレートを王様に向かって振るった。
それに答えるように王様は左ストレートで私の顔面に拳をぶつけようとするが、そもそも私の狙いは胴体でも頭部でも、ましてや布でもない。
私の両腕の光り輝くヒレはバーシャーケー王の両肩それぞれに見事命中してバッサリと切り裂く。
そして、勢いのまま地上へと上がった私は彼の背後へと立った。
結果、両腕に加えてそこにまとわりつく布も同時に切断することに成功。
加えて、切り裂いた腕は光に包まれるように輝くと、粒子を放ちながら消滅していく。
「よくやったぞォ、セレデーナァ! お前は人として……いや、サメとして強い事をここで証明できていたぞォ」
サメとして強い、か。
私が決めたサメを背負う覚悟、それに応えてくれるような言葉をもらえた気がする。
ただ、残り時間は20秒を切っており、このまま上手く組み伏せるにも王様を殺さないでそれをやるのは不可能に近い。緊急で変身を解除するしかないだろう。
また、近くで戦っていたアノマーノもその様子を目にした。
「おお、流石なのだ!」
彼女に戦場で褒められるのは嬉しい限りだ。
「残り時間的に私はここまでが限界。バーシャーケー王が強すぎるのがいけないのよ」
変身の解除が終わった直後にそう返事すると、アノマーノは疑問の言葉を返す。
「ぐぬぬ、増援が来てくれればいいのだが……あの少年はどうしてるのだ?」
……そうだ、彩華達がまだだ。
その一言を聞いて、私の
「アノマーノが見た光を同じタイミングで見ていたから、もう来るんじゃないかしら」
すると、その言葉に合わせてか2本の車輪が縦に連なるメタリックな乗り物に乗った彩華が飛び込んできた。
その乗り物も人型のハンチャンに変形した。
おそらく、ここに来るまでの間は2人で戦っていたのだろう。
「助けに来たぜ……ぇぇええええぐわあああああああ!!! 安全運転してくれよ!」
「こんな非常時に安全のあの字もあったもんじゃ、ありまセーン!」
そう、別に私とアノマーノにおじいさんの3人だけで戦っている訳では無い。
頭も体も使いすぎて少し休みたいのが本音だ、助かった。
何せ、彩華もハンチャンがこの場所に来てくれた、丁度いいバトンタッチだ。
「彩華、このままじゃ大工が持たないんじゃ、助けてくれぞい!」
「マジで100人ぐらい敵がいるじゃねぇか、良く保てていたな。ていうか予想はついてたけどまた変な木製サメに乗ってるのか……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます