第54鮫 破風の鮫
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SIDE:セレデリナ・セレデーナ
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遡ること、彩華達が山頂でカニカマを食べていたぐらいの朝頃。
目的地の屋敷についてだが、実は日記に島の地図が挟まっていたようで、それを広げたおじいさん曰く、少し遠いが3時間も歩けば到着できる場所であることが判明した。
バーシャーケー王曰く、日が昇っている内はあのタコな魔獣や信徒も襲ってこないらしい。
昨日の上陸直後の異様な静けさにも辻褄が合うことから、真実と見ていい。
一晩経ったおかげで、サメへの変身も可能、心配の種も今はない。
出発するにはベストタイミングだ。
「3時間も歩くのは
「我輩が走る分には1時間もかからないぞォ」
「やれやれ、シャケとは
おじいさんがそう宣言すると、工具箱から取り出した植木バサミをサメに変換し、2本の剣を生み出した。
「今から造るサメは相当数の木を使う、伐採タイムじゃ」
そして、おじいさんは素材のために周囲の木々をバッサバッサと切り落としていった。
「サメ・ジョヴォヴィッチの鬼鮫化が如き乱舞をお見せできているようじゃな、しかしこれではまだまだ足りんぞい」
ズバババババッシャーク!
それから、気が付けば100本近い木が集まり、あとは一箇所に纏めおじいさんがサメにするだけにまで進んだ。
「ぬん!」
〈シャークゲージ〉が込めると、木々は粘液状に溶けて混ざりあっていき、新たな姿を形成していく。
そこから顕す姿は……。
幅だけでも3mはある窓の付いた木箱に足として車輪が生えているようにも見えるソレは、前方にサメの頭部! 側面に胸ヒレとエラ孔! 上部には背ビレ! 背中にも取ってつけたように尻尾が引っ付いている!
「異世界サメ32号"装甲鮫車両サメティマス"じゃ!」
「あの夜の改良型ね!」
「鮭王たるお偉いさんを乗せるんじゃ、スピードはある程度下がるがそれでも30分で目的地に着く上に、ご要人を載せるのに適した休憩部屋のような空間もご用意済みじゃぞい」
「これはすごいィ! まるで中の快適さはまるで要人用の移動馬車のようだァ!」
「馬車? チッチッ、サメ車じゃよ」
造るのにかかったのは材料集め含めて10分ぐらいと順調だ。
この車は屋根があるというよりは本当に箱の中の一室に座席が付いているような造りで、むしろおじいさんの世界ではこれこそが普通の車らしい、木製であること以外は。
4人乗りなのもあり、おじいさんは前部座席の運転席へ、私とバーシャーケー王は後部座席へと乗り込み目的の館に向かった。
***
サメ車の中で、バーシャーケー王は私に話しかけてきた。
おじいさんは運転席にいる、雑談をするなら私という事になったのだろう。
「セレデーナよォ、貴公はもしや使える魔法が限られているあの長耳単眼種であるなァ?」
「ええ、そうだけど? まあ、ラスト級の習得に至ってるから才能はある方ね」
何を聞いてくるのやら……と思ったものの、バーシャーケー王は続けてこう返した。
「我輩も種族的な問題とは別であるが、どうにもギガントという自己巨大化魔法しか使えない体質で四苦八苦していた過去があってなァ。似た境遇の努力家に会えるのは嬉しいぞオオオオオオ!」
別に私は努力家のつもりは無いし、ぶっちゃけアノマーノと付き合うこと以外考えていなかった。適当に流そう。
「他の理由はあったけど、頑張ってきたのは事実ね」
すると、バーシャーケー王はさっきの話から続けて私にとって実りのある話を広げだした。
「ふむゥ、その上でだがァ、貴公は何か武術を体得していたりするのかァ?」
「一応軍部で習った対人用の組技ぐらいね、魔法がメインだから専門家には数段劣るわ」
そういえば武術回りは疎いし、聞いておいて損は無いかもしれない。
「ほう、それなら島から帰り次第我輩のシャ拳法を教えてやろうゥ。あの巨大なサメ人間に変身できるというのに魔法使い向けの基礎武術だけでは勿体無い気がするゥ! 何より、ギガントに特化した我輩と近い条件で戦っている訳だからなァ! と言っても時間はそう作れんからァ、手合わせとして直接拳をぶつける形で覚えてもらうぞォ!」
「え、ほんと!?」
なんと、バーシャーケー王は私がひっそり気にしていた、
確かに、咬合力とアイレイを除けば限りなく私と同じ条件のバーシャーケー王は私の理想とする動きをしている。
そもそも、アイレイだけで戦おうなどというこだわりは無い。なら、サメとして強くなるのはとても興味深い考えだ。
あとはせめて、サメになることへの妙な自信のなさを改善出来ればいいのだが。
「面白そうね、お願いするわ」
ひとまずこちらも話に乗り、この話題も終わったかに見えた時、バーシャーケー王が私達にとって重要でしかない事を呟いた。
「いやぁ、お前達はサメを扱うサメ友みたいなものであるからなァ、もっとサメについて詳しくなりたい所だァ」
「「!?」」
なんと、バーシャーケー王が私達を友と、サメ友と言ったのだ。
まさか、私じゃあるまいし昨日の映画視聴だけでここまでサメに食いついてくれるなんて驚きを隠せない。
おじいさんだって目的地への移動で目を離せない中で私と同じような表情を見せている。
「何を驚いてるゥ、確かに我輩としてはいずれ手合わせしたい猛者としてサメが好きではあるがァ、同じものが好きな仲間などもはや友であろうゥ?」
「そ、そうね」
なんだか分からないけど、今回の目的にあったサメ仲間を作ることから飛んでサメ友が出来てしまった。
おじいさんは業者としてノーカウントにしたいから、まさしくサメ友なんで初めてになる。とても嬉しい。
それから、おじいさんも気合いで運転しながら雑談に加わり、到着まで3人でサメについて語り明かした。
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SIDE:鮫沢博士
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目的地に到着したので、屋敷の前で車を停めて皆車から降りたんじゃ。
屋敷は日記に書いてあった通り貴族が住んでいたであろう造形……というかセレデリナの家に似た雰囲気じゃ。
要するに誰も手入れしてないのか外装もツタまみれで典型的な廃墟なんじゃがな。
「なんじゃろう、妙な親近感があって全然緊張せんのう」
「ここは1週間かけても見つからなかったァ! 今度こそ国を救うぞォ!」
「元気でよろしいわね」
外にめぼしいものはなく、直ぐに屋敷へと入ったのじゃが、まあものの見事に汚い所じゃ。
埃まみれで廃れており、日記から135年も経っているのじゃから経年劣化は非常に激しい。
「とりあえず、日記に合わせて例の貴族長室に向かうべきじゃろう。何を持ってタコオックの奴が確信したのか手がかりがあるに違いない」
まずはと行動指針を提示したんじゃが、それに対してか鮭王が妙な話を広げてきよった。
「日記の通りならァ、その幽霊が出てきそうであるなァ」
「幽霊ねぇ、実在するのかしら、本当に」
「んゥ、知らんのかァ? 幽霊とは精霊の一種ゥ、上位精霊がいる神聖な土地で報われぬ死した魂が報いを受けるまで待つことを許されその場に留まっている神秘的な存在だァ。精霊そのものがそうなのだがァ、対霊術でなければあらゆる攻撃も通すことの出来ない存在であるゥ。とはいえェ、そういうのは襲われる側に問題があるゥ、我輩らは大丈夫だろうゥ」
「全然安心出来なくない!?」
サラムトロスには精霊がおり、基本的には攻撃も通じないとは。敵に回ったら嫌な話じゃのう。
それからは無駄な探索は避けようと、日記に沿って2階へと辿り着き、奥の方に貴族長室と記された部屋の扉が見つかったのじゃ。
サメもおらん島で何故このような探検ごっこをやらねばならんのかとため息が出そうになるが……機密資料が待っておる、我慢じゃ我慢。
「ここみたいじゃぞ」
「ほほう、早速開けようぞォ!」
中は日記の通り偉い人の書斎じゃった。
ここの持ち主の霊はタコオックの手によって除霊済みであり、鮭王の言うような幽霊は見当たらん。
強いて言うと、あからさまに1冊の本が机の上に堂々と置かれているのが気になるのう。
その本は、黄色いカラーで構成された装丁が特徴的で、表紙には『黄衣の蛸』と記されておる。
「罠よね」
「罠じゃな」
「ならば国を代表として我輩が読むとしようゥ!」
「「なんで」」
まずは他の所を探索してからにするべきじゃったが、鮭王は人の話を聞かないで勝手に本を読み始めた。
どうやら内容を理解できるようでいちいち「ふむゥ! ふむゥ!」とうるさく頷いておる。
更には、突然真剣な表情になりながら何かを呟いたのじゃ。
「いあァ! いあァ! はすたあァ! はすたあァ! くふあやくゥ! ぶるぐとむゥ!」
「何か呪文を唱えてない?」
「うるさく叫んでおるようにしか聞こえないかぞい?」
少なくとも、アレは鮭王らしくない言動じゃ。嫌な予感しかせんのう。
それに、さっきから窓に風がビュンビュンとぶつかるような音が激しくてこちらも彼の声とと重なって非常にうるさい。
いや、そんなことはどうだって良い、重要なことじゃない。
そう、ここには小規模ながら本が並んでるんじゃから、めぼしい生物に関する本を盗難して懐にしまい込んでおきたいのじゃ。もしサメが載っていたらラッキーな
「いあァ! いあァ! はすたあァ!」
「そろそろ黙らせて耳を守った方がよさそうじゃな。わしの鼓膜はサメの声を聞くためにあるんじゃ」
「……おじいさん、それより窓の外を見た方がいいわよ」
じゃが、そんな時間の余裕なんぞ無く、風が激しくなった辺りでセレデリナが何かを見たようじゃ。
フライングシャーク(フライングフィッシュのサメ版)がいると信じてわしも一緒に窓を覗いて見たぞい。
「オーノーじゃ!」
しかし、そんなサメ都合がいいようなことはなく、窓から見えたのはあの黄色い大きな布が屋敷の前にへばりついている光景じゃった。
布にはビリビリと穴が開いており、そこからタコの触手が無数に伸びておる。
しかも、このシチュエーションでサメじゃないということは「ああ! サメに! サメに!」と叫ぶチャンスを失った訳であり、残念極まりない。
こうなると、現状としては鮭王の顔をぶん殴って正気に戻しておくのが定石じゃな。
「ふん!」
「効かんゥ!」
じゃが、わしの拳は少し首を傾けただけの動作で回避されてしもうた。
カウンターが飛んでこなかっただけラッキーと見るべきじゃろう。
「おっとォ、気を失っていたァ! 無意識のうちに謎の呪文を唱えていたぞォ!」
「正気に戻ったのか、よかったわい」
「それよりここから出ないとまずいわよ!」
鮭王の問題もひとまず片付いた中、黄色い大きな布はついに窓を覆っていた。
確かに、この屋敷に長居するのは
「退くのも策の内ィ、我輩に任せろォ!」
わしはどんなサメで対処しようかと悩んでおったのじゃが、鮭王は本を投げ捨て左足で窓付近の側の壁を蹴って穴を開けた。
「まだまだァ!」
更に、その穴から隣接している部屋の窓側の壁を蹴って布から少しは離れた場所に脱出路を作ってくれたのじゃ。
余裕などない。それから直ぐ、3人共一斉に飛び下りた。
鮭王は両足を思いっきり地面に叩きつけるパワー型に、セレデリナは地面に向かってセカンド・アイレイを放ちながら落下衝撃を中和、わしは映画の真似をして左足と右膝を地面に当てながら右腕は広げた状態にして左手の拳を地面に叩きつける形で着地したのじゃ。
「これ、本当にやると膝が痛いんじゃな……」
「どうしてサメで工夫しなかったの!?」
「うむゥ、そこは減点であるゥ」
とりあえず、普段から鍛えているお陰か骨折箇所はなしで大丈夫そうじゃわい。
そうして、一旦敵から離れた訳なんじゃが、それぞれが落ち着いた瞬間にセレデリナが鮭王へ反省とばかりな指摘をはじめた。
「なんで勝手に読んだのよ! 話聞いてた!?」
「体が勝手に動き出したのであるゥ! そういう好奇心を大事にしても良いだろォ!」
正論に対する屁理屈、普段なら見るに堪えないが何となくサメ友とわしを呼んでくれた彼を庇いたくなってきた。庇うぞい。
「まあまあ、わしだって最終的にはサメがそこにある可能性を信じて読んでいた可能性が高い。340%はある。じゃからあそこで冷静に動けたのはセレデリナだけじゃろう、これはもう必然なのじゃ」
ここには嘘などひとつもない、真実じゃからな。
「……それもそうね」
呆れた顔は辞めるんじゃ、趣味が同じなのに妙にリアリストとして動けるのは何かと卑怯に思うぞい。
ただ、鮭王はこう返事してくれた。
「鮫沢よォ! こんな我輩の失態をフォローしてくれるとはありがたいぞォ!」
思いの外喜んでもらえたみたいじゃし、良しとするかのう。
しかし、ここからどうするべきじゃろうか。
とりあえず、現状はボスをおびき寄せたと考えて、黄色い大きな布を倒すために動くぞい。
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