第44鮫 無鮫の村で発見された手記

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SIDE:ジード・メッシーの島探索日記

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・3日目

 空き家を一時的な拠点代わりにさせてもらい、この島の探索に役立てることにした。

 タコオックも「拠点が手に入る、それも住居となると有難いものだ」と喜んでたぜ。

 そして、今日の探索の成果なんだが、なんとまた原住民がいる集落にたどり着いた。

 森の中で住宅を構えた小さな村で、狩猟によって営みを築いているみたいだ。

 相変わらず魚人種しかいなかったが、それ自体がこの島の真実に近付いている証拠な気がするぜ。


 それで、比較的話がスムーズに進んだおかげで色々わかったんだが、この島は集落事の規模が決めれおり、集落同士の干渉はしないってルールで人間が生活しているらしい。

 ただ、島外部からの人間が入ってきたことは数百年なく、未知なモノに興味津々な奴が多いのか俺らはあからさまに邪険に扱われることは無い様子。

 それからも、色々話を聞いたり子供と触れ合っていたが、気付けば日も暮れてきたので今日はまた最初の集落に戻って休んだ。

 タコオックは「ここは探索し甲斐もある上になんでも許される。お前にとっての楽園じゃないか?」と聞かれたので、「当たり前だぜ!」と返して眠りについたぜ。



***


「あーすごい、わたしも大昔こんな日記書いてたわ……」

「夏休みの日記を思い出すのう。わしの国の教育だと必ず長期休暇期間に日記をつける宿題があったのじゃ」

「そう」

「サメの話をすべきじゃったな」



***


・3日目

 昨日の集落の子供が山には不思議がいっぱいと言っていたので、行くことにしたぜ。

 タコオックに「行動原理が幼すぎないか!?」と突っ込まれたが、余計なお世話だぜ。

 山は最初の集落の近くにあるみたいで、オクラフトン山っていうらしい。

 オクラなのか布団なのかどっちなんだぜ。

 同じことをタコオックに言ったら首を絞められたぜ。

 それで、山は自然に溢れた木々に囲まれいてたんだが、その反面、絵面があんまり森と変わらなくて寂しかった。

 せっかくなら高い岩山をフリークライミングしたいんだぜ。


 そう考えながら登山を続けていると、偶然にも大きな洞窟へと続く穴を見つけた。

 タコオックとグータッチしながら「「ビンゴ!」」と叫んだぜ。

 こんな穴を見つけちまうと、メッシー家特有の冒険家の血をうずうずしちまう。

 早く入りたい、その衝動を抑えきれず洞窟へと潜っていった。



***


 中は相変わらず魔獣はおらず、せいぜい感染症が怖い吸血コウモリに注意して進むぐらいの道だったが、いくらかの分かれ道があって、印をつけたり地図を作りながらマッピングを徹底して対処した。

 実際、入り組んだ道ではあったが最後まで通ってなかった道を導き出しながら進んでいくと、大きな宝箱を発見できたぜ。

 あからさまな宝箱とくれば、開けない冒険家はいない。

 またしてもタコオックとグータッチし、勢いのまま開けたぜ。


 そしたらなんと、中にはこの島の地図が入っていた!

 丁寧にそれぞれの集落の位置まで印が付けられており、一昨日と昨日の集落の両方共、山から辿って正確な位置に印が付いている。

 なら、島の立地はわかったも同然。この地図を頼りにすれば真のお宝が見つかるに違いないぜ。

 ただ、裏面にラッターバ語で、


『俺は集落で狩猟暮らしをするのが嫌で、島から出るための冒険をしていた。明らかにこの島はおかしい、バツ印の場所にある屋敷に真実がある。それを知って尚も立ち向かえる者に祝福があらんことを』


 と記されていた。

 こんなの、真のお宝が眠っている話に違いないぜ!

 またまたタコオックとグータッチすると、今日はまた最初の集落で休んで、明日屋敷へ向かうために備えたんだぜ。



***


「こいつら、仲良すぎやせんか」

「まるでおじいさんと彩華ね」

「わしらはここまでなかよくはないぞい」


***


・4日目

 今日は地図に記された屋敷を探索したんだぜ。

 木々を掻き分け進んだ先にあったその屋敷は、貴族が住んでたのかってぐらい大きかった。

 中に人がいたら不法侵入扱いされないかと不安になったが、「そもそも冒険家なんて泥棒みたいなもんだろ、気にするな」とタコオックが緊張をほぐしてくれたぜ。

 それから、用意していたランタンに灯りを付けて手に取り中へと入っていくと、そこは真っ暗で何も見えなかった。

 明らかに光が通っていない、ランタン様々な気持ちだ。

 ひとまずは屋敷にある部屋を虱潰しで探索してお宝探しと行くんだぜ。

 そして、最初に入った部屋は食料保存庫で臭いがやばかった。タコオックが数百年は経ってると教えてくれたぜ。

 でもやっぱりめちゃくちゃ臭いぜ。腐乱臭とか特にやばいぜ。


 タコオックに「この悪臭もお宝の臭いと割り切れば行けるんじゃないか?」と言われて何とか割り切れたものの、続けて他の部屋も探索していったんだが、ちょっと触っただけでバラバラになるような経年劣化しまくりの家具ばかりでこれといったものは見当たらない。

 結果、最後に1つだけ手を出していなかった、貴族長室なる部屋へ入った。

 部屋の作りは、豪華な机が奥にあり、何かの資料と思われる本の数々が周囲に保管されている書斎のようなレイアウトだったぜ。


 早速、豪華な机の中に何かないかと慎重に机棚を調べたようとしたのだが……突如として目の前に煌びやかな衣装を纏った魚人種イワシ科が現れた。

 よく見ると体が透けている、幽霊だとでも言うのかぜ!?

 幽霊は、「あの地図を見たな」と質問をしてきたので俺は「当たり前だぜ」と返した。

 すると、「見ている限りお前達はこの島の者ではないのだろうが、それでもいい、この島の真実を教えよう。そして、皆に教えてやって欲しい」なんて言ってきた。

 改めて、「当たり前だぜ」と返してやると、向こうは何かホッとしたような様子で島の真実とやらを教えてくれたぜ。



***

(ここからはしばらく熊王が教えてくれた島の話の通りじゃから飛ばすぞい)

***


 つまり、この島は統合戦争後に無かったことになった島みたいだ。面白い話だぜ。

 そういえば魔族主義なんて昔はあったらしいが、未だに人間を名乗りたくない奴なんて見た事聞いたことも無いな。

 でも話には続きがあって、


「そして、私はこの島に皆が移り住んだ時、代表者をしていた一族の末裔……だった。この屋敷も代表者らしくいい家に住むべきという情勢によって建てられたものだ。島は元々ひとつの国として運営されており、三代目である私の時点で島の外に反逆すべきか否かの話が上がってきた。もう当時の者もおらず、論議の末に内乱が起き……その結果この島は文明レベルも下がり、集落ごとに閉鎖した暮らしをするある種の共産社会になったのだ。魔族という言葉にこだわらず、人間を名乗っておいた方が今後のためにもなるだろうと」


 なんてことを語った。おかげであの集落の社会の謎が解けたぜ。

 けど、幽霊のおっさんは最後に「つまり、としては島外の人間を生かしておきたくないのだ! 死ねぇ!」と叫んで襲いかかってきた。

 あの地図は生前の間に作っておいた回りくどい殺人トラップみたいだぜ。


 まあ、「危ない! タコ破ぁーーー!」とタコオックが手から触手を出して、それに搦め取られた幽霊は「そ、そんなはずはー!」と叫びながら祓われたけどな!

 相変わらず、タコオックのタコ科学魔法は便利だぜ。



***


「除霊……わしも学生時代の肝試しでやったのう」

「そもそも幽霊って実在するのね……どうやったの?」

「サメを飼っていた水槽の中の海水を塩にして携帯しておったので、それを撒いたらなんか祓えたのじゃ。その幽霊もくねくね動いておったことしか覚えとらんが、こうして生きているのはサメのおかげなのかもしれんな」

「話の通りなら〈指示者オーダー〉の自覚がない時から色々サメでやってたのね、すごいわ!」

「おっと、そろそろ最後のページみたいじゃぞ」


***


・100日目

 久しぶりだが、せめてこのだけは日記を残そうと思う。

 実は5日目からタコオックの様子がおかしくなった。


「この島はいいぞ、俺が異世界に求めていた理想郷と言っていい!」


 と朝から叫びだし、手始めにと村の人間に訳の分からない事が記された本を配り出したんだ。

 本の名は"黄衣のたこ"というらしい。

 俺も試しに読んでみたんだが、内容はさっぱり分からなかった。

 『いあ いあ はすたあ』という呪詛かなにかにも見える文字列が印象的だったが、有難い言葉とでも言うのだろうか?

 そして、本を読んだ集落の住民はこぞって"はすたあ"なる謎の神を崇め始めた。

 タコオックは一体何を考えているんだ? と疑問にこそ思ったものの、この時はなにかまずいことが起きていることぐらいしか分からず、また一夜更けてしまった。


 翌日以降、洞窟で見つけた地図を頼りに、集落を一つ一つ虱潰しするかの如くタコオックは黄衣の蛸を配っていた。

 俺は何故だが、止めたいとは思えなかった。

 結果としてわかったことだが、この島には宗教なんてなく、かといってそれが求められているような社会でもないようだ。

 だが、そもそも識字率が低いはずのこの島で、誰もが本の内容を理解できていた上に、読んだ者全てが"はすたあ"なる神を崇める信徒へと変貌していったのは事実だ。

 起きる全ての事象が理解不能と言える。


 そもそも、その本を何冊持ち歩いているんだ。

 "はすたあ"とは何者なんだ。

 タコオック、お前は一体なんなんだ。

 そう思っていた時期も直ぐに過ぎ去り、一日一日と、彼の隣で彼が作り上げる世界を見ている内に、気が付けば、島の全ての人間がはすたあの信徒と化した。

 布教活動の正体も、この島の人間は全て信じるべきものを持たず、外界に興味があれど外に出る勇気もない停止した思考は支配しやすかった、それにより成し得ることの出来た事象と見ていい。


 今思えば、幽霊の存在自体が何かに確信するきっかけだったのかもしれない。

 あいつは、俺と出会うよりずっと前から"はすたあ"という神を信仰していた。

 俺と一緒にいるようで、孤独だったんだ。

 そんな彼は、こうして救われた。

 どうやら、次はこの信徒を媒介に、135イタコ年後は世界を"はすたあ"色に染めるみたいだ。

 面白い、俺達の冒険はそうやって世界へと広がっていくんだ。

 それより楽しいことなんて、無いんだぜ。


・日付

 統合歴865年

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