第42鮫 サメに乗りて歩むモノ
なんということじゃろうか、わしらがちまちま倒していたタコ天使はカニ軍艦が一撃で全て粉砕してしまった!
「黄色い布はどうにも熱源反応が無くて狙えませんデシタガ、あとはハサミで細切れにするだけデース」
悔しいが、あの状況と目的から考えてアレが最適な行動じゃったと言えよう。
「カ、カニってすごいんじゃなー」
「おじいさん、棒読みで何言ってるの?」
それから、一旦シャークルーザーをタダノサメモードへ再変形させて水上で船の状態に戻し、海をさまよっておった生き残り達も船上へ引き上げていった。
また、シャークルーザーの変形に合わせてシャーク・ゼロは甲板の上にある機体待機エリアに着陸させて彩華を下ろし、セレデリナも一旦変身を解除したのじゃ。
戦える時間は有限じゃがらな。
ただ、さっきと同じようにシャーク・ゼロが壊れないままなのは不安の種ではあるのう。
その後、カニ軍艦の脚の爪先が分離して小型のカニ型船に変形、そこへ傭兵達を乗せてゼンチーエに返した。
わしから見てもこの異世界でその技術力を発揮するのはハイテクに見えるが、これは決して負けを認めた訳では無いぞい。
「〈ビーストマーダー〉としての勘が先手必勝と叫んでるわ、
ここまでくれば、後はあの布を粉砕するのみ。
さっきからぐるぐる宙の上で回転しておるだけで何もしておらんからのう。
間髪入れずにセレデリナはまた
何故か黄色い布に合わせた巨大化はなく等身のままによる変身じゃが、
「オオウ、勝手な行動は控えて欲しいデース」
……そう思っておったのじゃが、黄色い布を中心に目に見える大きな風が巻き起こった。
その風はサード・アイレイをかき消しながらどんどんと形を整えていく。
風というのは本来、色のない透明なモノであるはずじゃが、そんな常識は通用しないのじゃろう。
風はビュンビュンと吹き荒れ、全身を視界に収めることすら容易ではない、60mはある人の姿を形成していく。
そして、タコの触手を幾千本と束ねて絡ませて人の形にした"何か"になったのじゃ。
色を持つ風は消えたように見えるが、あの巨人こそが風そのものと言えるじゃろう。
足も海に浸かっておらず、つま先から地面を踏み付けるように立っており、触手の数だけ存在するその吸盤は不気味な点の集合体にすら見える。
更に、何かの出現に合わせて、黄色い布は透明になるようにその場から消え去ていった。
不安の種だけを残していくのは腹立つのう。
「オウノウ、黄色い布には逃げられましタ!?」
「アレはタコ巨人と言った所じゃな」
「呑気に名前を付けてる場合か? まだ島にすら着いてないんだぞ!?」
「サメの魔法も通じないとなると、ラスト・アイレイも安易には撃てなさそうね……」
どういう原理か分からんが、ウチのサメ主砲が通じないタコとは恐ろしいわい。
ただ、島の周囲を円形のドーム状の風で覆い始めておるものの、こちらに反撃するような素振りは見せておらん。
しかも。よく見れば不思議と水中にまで風が吹いている不気味な状態である事を目視できた。
その異常すぎる光景は、海陸空とどの移動手段だろうとヒョウモン島へと進むことは不可能な状況である事を表しておる。
あのタコ巨人は、わしらを島へと通さないための壁なんじゃろうか?
そして、壁でしかないからこそ、セレデリナが等身大サイズでの変身になった……本当にそういうことなのかもしれん。
「これはもしかしてなのデスガ、あの
「あ、それはわたしも思った」
「なら、それこそ全身に対して同時に攻撃すれば、もしかすると倒せるかもしれまセーン」
「つまり、私が下半身に向けてラスト・アイレイを撃って、他のみんなは工夫して上半身を攻撃って訳ね!」
「ベリーグット!」
じゃが、ハンチャンはこんな状況でもあっさり打開策を提案してきた。
確かにそれなら行けるかもしれん。
言われているうちにシャークアイデアもひとつ湧いたぞい!
なので、わしはハンチャンの作戦に合わせ、懐からある物を取り出した。
それは、昨日街に売っておった乾燥ワカメじゃ。
彩華が「異世界にもあったのか」と呟きながら衝動買いしておったのをよく覚えておる。
サメにしたら面白そうと思い、昨日ひっそり部屋に侵入してパクっておいたのじゃ。
「まて、それ俺の乾燥ワカメ!」
彩華本人からクレームが来たが、こう返すしかなかろう。
「サメの上なら無礼講!」
「天丼やめろ、今回は非常時だしものがものだから許すけどさ!?」
許されたし早速使おう。
まず、乾燥したままのワカメに〈シャークゲージ〉を注入する。
しかし、厳密にはワカメそのものに注入するのではない、乾燥ワカメの増えるという概念に注入するのじゃ。
これは水に浸してからが本番のサメじゃが、連携するためにもタイミングは皆に合わせるとするかのう。
「意外とこの羽根は独特の弾力があっていけるわね」
「日本のサメクレイジーデース」
なお、わしがワカメで遊んでいた頃、セレデリナは
どうやら、噛み付いて
そして、セレデリナの準備が終わったタイミングに合わせて彩華はシャーク・ゼロに改めて搭乗し、空へと舞い上がって行った。
「さて、そろそろ準備はOKみたいだな。今回は王子カニモードで、"剣聖蟹乱舞"」
更に、ハンチャンの歌声は朝に聞いた男声へと変わり、カニ軍艦は和ロックな曲を流しながらタコ巨人に向かって全力で突っ走る! 風に抵抗するように全速力で横走りじゃ!
こうして、皆準備が完了した。ならば、わしも海にワカメを投入じゃわい。
「異世界サメ31号"増えるワサメ"、海を泳ぎまくるのじゃ!」
海に浸かった乾燥ワカメは色合いをそのままに一個一個が34cmのコバンザメに変質していった。数にして3400匹はおるじゃろう。
この"ワサメ"は互いにひっ付き合う能力も兼ね揃えており、まずは準備がてらに100匹程が連携してお互いのしっぽを噛んで支え合い、海にふたつの柱を作り上げた。
「セレデリナよ、この上に2つの足をそれぞれの乗せるのじゃ、船の上より狙いやすいはずじゃぞい」
「これほんとにワカメなの!? 凄いじゃない!」
「ふっふっふ、ワカメじゃなくて"ワサメ"じゃぞ」
今回は下手にシャーク・ゼロの上に乗せるより固定の台で高度を上げて放った方がいいじゃろう。
何より、セレデリナのラスト・アイレイは発射と同時に周囲へとんでもない風圧が発生するという問題点があり、シャークルーザーの上で撃たれて破損箇所が出るのも嫌なのじゃ。
「まずは私から…… 『我が魔の力よ、自らの眼力で世界を滅せよ。そして、全てを照らし給え!』ラスト・アイレイ!」
そうして彼女の
およそ半径30mの円形が縦に伸び続ける
「ほげえええええええ!!!!!」
20mほど離れた場所に移動してもなお、立っているのがやっとな程の風圧が襲いかかってわしとしてはシャレにならん!
しかし、予想通りというべきか、タコ巨人の風はバリアのように作用し、足元に触れているようで着弾した位置から先へ柱は伸びず食い止められている。
「磨かれた二枚の刃〜 まさに剣豪
そんな中、合わせてカニ軍艦が凄い勢いで飛び上がった。
カニってジャンプ出来るんじゃなぁ。高さにして100mは飛んでおる。
そして、爪を突き出して落下の勢いで胴体付近の障壁に刺突攻撃を行ったぞい。
「魔法の効果時間が途切れる前にこっちも……ってなんか変なボタンが浮き上がってきた!? まあいい、押すか!」
それと同時に、タコ巨人の頭部付近を飛んでいた彩華のシャーク・ゼロもカニ軍艦に合わせて攻撃する直前だったのじゃが、突然機体が水泳のクロールのようなポーズを取りだした。
すると、機体全体が発光し光が消え……シャーク・ゼロと同サイズのホオジロザメになっていたのじゃ!
よく見ると皮膚がゴテゴテした鉄製! まさしく"ザ・サメ"とも言うべき姿! 加えて、サメ特有の7つあるヒレの細部にはシャーク・ゼロのブースターだったものが搭載されており、空を泳ぐ能力も健在!
これは、シャーク・ゼロが彩華の〈
「相変わらずこの力はよく分からないが……時間もないしとっとと決めよう!」
そうして彩華は、"ザ・サメ"の力で右肩付近の障壁に突撃していった。
さて、あとはわしだけになるが、この大量に増えたワサメの質量をもってすれば2人と同じダメージを期待できるので問題は無い。
わしは、セレデリナの
ワサメ達はお互いを噛み付き合い合体していき……34m大のとぐろを巻く巨大なサメの頭部を持つ竜になったのじゃ!
「異世界サメ31.5号"
集合体であり1匹の
この
そうして、
この四点同時攻撃により、風の障壁はガラスのように割れていき
「これでわしらの勝ちじゃぞい!」
……そう、確かにこれ以上の攻撃手段はなく、わしらは最適解を取っていた。
敵が予想の範囲内だけで動いてくれるような楽な存在であるならばの話じゃが。
「これで
「効いてる……けど、断定するには様子がおかしいよ」
タコ巨人は体がボロボロと崩れ始め、これで勝ったと誰もが確信した。
「ってことは自爆する気か!?」
しかし、それと同時に島を覆っていた色を持つ風をどんどん体内に取り込み始めて一点に圧縮させていき……爆発する。
「うむ、そう簡単に倒せる相手ではなかったみたいじゃ。恥ずかしいったらありゃせんのう」
結果、タコ巨人を中心に、ほんの一瞬だけ大きな爆風が巻き起こったのじゃ。
「なんだこのすさまじい風圧は!」
「アーレーって感じだね」
「自爆なんて聞いてないわよー!」
「あの規模の風を圧縮させた爆発じゃぞ、当然の結末じゃな」
その風は少し遠くに停めている状態のシャークルーザーすら巻き込み、皆が大きな空へと飛ばされた。
そうして、皆はバラバラにヒョウモン島の陸地へと不時着していった。
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