第41鮫 計鰭瞬喰鮫(けいひれしゅんぐいざめ)
タコ天使達は、その触手で形成された羽根を羽ばたかせてどんどんこちら側に近付いてくる。
流石に船を止めたままじゃと一方的に攻撃されるのは間違いなく、前は見えんが対策しつつ戦うしかないようじゃ。
「ヤバ、結構待ちぼうけしちまった、さっきの船が追いついてきたりとかはないといいな……」
「ちょっと、不穏なこと言わないでよ」
彩華は少し不安が出てきているようじゃが、構ってられる範囲にも限界がある。
それに、問題は直ぐに起きた。
「クソ、自分でフラグ回収するなんて嘘だろ……」
シャークルーザーとカニ軍艦を追い越して横切るように、海守達の船がタコ天使のいる方向に向かって突っ走っていったのじゃ。
「王の命は俺らのもんだ!」
「こんなヤツらを前に待ちぼうけしてるなら先に行かせてもらうぜー!」
わしらがテンパっているウチに彼らはタコ天使が飛ぶ真下まで進んでいった。
困ったヤツらじゃのう。
「ひとまず彼らの勇姿を見届けまショー、敵の特性がわかるチャンスかもしれまセーン」
ハンチャンもそう言っておるし、少し高みの見物をさせてもらおうかのう。
「あんな怪鳥如き何年も魔獣と戦っている海守にとって脅威ではないわー!」
「魔法で一斉殲滅だ!」
「『我が魔の力よ、敵をその炎で消しさり給え!』セカンド・ファイアシュート!」
「『我が魔の力よ、氷の刃で敵を引き裂き給え!』セカンド・アイスシュート」
「『我が魔の力よ、そのイカヅチで敵を撃ち落とし給え!』セカンド・ショットサンダー」
「『我が魔の力よ、敵を自らの眼力で滅し給え!』セカンド・アイレイ!」
大きな火炎やら氷塊やら雷やら、彼らは様々な魔法を飛ばして上空におるタコ天使を攻撃しておる。
「どうしてだ、なんで傷一つ付いてねぇんだよ!」
「まずい、襲ってくる!」
しかし、タコ天使もどうやら〈サラムトロス・キャンセラー〉を搭載しておるようで魔法が通じないようじゃ。
せめてもと砲弾を放ったり、弓で打ち落とそうとしたみたいじゃがそれもさらりと避けられておる。滑稽じゃな。
「く、喰われるゥゥゥゥゥゥゥ!」
「アレが鳥だって言うのかよ! そんな魔獣聞いた事も見た事もなボァアベ!」
そんなタコ天使は、羽根の触手の一部を海へと伸ばし一人一人捕食していく。
その動きはどれも空を飛ぶ生物としてはイメージに反するもので気味が悪い。
「俺は代表としてみんなを守らねば……ぎゃああああ!!!」
また、一部のタコ天使は海上まで急速落下しながらその鉤爪で船を引き裂いて真っ二つにしていき、どの船も続けて沈没していった。
イカもマグロもイワシも何もかも、タコの餌になっていく死屍累々な光景が拡がっておるわい。
「アレはまずいデスネー、流石にこのレベルの虐殺になるとは予想出来ませんでしタ、これ以上見殺しにしたくないデース」
「わしはそう思わん」
「いやいやいや、確かに自己責任かもしれないがこの光景をずっと見ているわけには行かないだろ。ハンチャンに賛成して俺は出るぞ」
「それもそうね、私もサメになるわ」
「く、彩華がそう言うなら仕方ない」
「ミスターサメザワも変わりましたネー」
正直、身をもって敵の特性を教えてくれた優しい奴らじゃと思って見ておったが、こうなるとやるしか無いじゃろう。
さて、こうなれば
ひとまず、セレデリナにはその場に待機してもらいつつ彩華は格納庫へ移動、わしは即席で船上に置き場ごと設置してあったフカヒーレ・ロッドに〈シャークゲージ〉を注入し、窓に貼り付く霧だけを貪り食う小さい一本の
「異世界サメ30号"ウィンカー・シャーク"じゃ」
これで視界良好な操縦が約束された。
安心して操縦室へと戻って行ったぞい。
後は、『押しちゃサメ!』と注意書きが刻まれたボタンを押せば準備は完了じゃ。
「グルっと回ってシャークに変形!
わしがそう叫ぶと、シャークルーザーの左右側面にある胸ヒレをイメージしたウィングが複雑な線を光らせながら ガシャーク! ガシャーク! と変形を始め、
こうして、翼を得たシャークルーザーは空を飛び、〈ガレオス・サメオス〉と愉快な蟹達は空を覆い尽くす80匹の怪鳥に立ち向かっていった。
「すっごい、このサメって空も飛べたのね!」
「空も海も……宇宙だってサメにとってはただの泳ぎ場じゃからな」
「なら私も負けてはいられないわね、
更に、船上に立つセレデリナも
今回のサイズは相手に合わせて3m程度みたいじゃな。
であれば、シャークルーザーをタコ天使達に出来るだけ近い高度まで飛行させ、セレデリナに
「こちらとしては大仕掛けな技を使いたいので、準備している間に1人でも多く助けて上げてくだサーイ!」
ハンチャンはなにか企みがあるようで待機状態になった。
つまりは、わしらが頑張らなければ全滅も必死ということになる。
気を抜く訳にはいかんのう。
「狙いやすくなったとはいえ、一気に焼くと巻き込んじゃう可能性もあるから1匹ずつ焼けるように……セカンド・アイレイ!」
こうして放たれた半径1m程の光の線は1匹の手ぶらなタコ天使の胴体を中心に命中。物の見事に胴体はまるごと灰になり、首と手足がバラバラになって海へと落ちていった。
「こうしないと既に誰かを捉えた怪鳥は狙えなくて、そのせいで魔法のランクを上げられないのが困りどころね……。ええい、連射よ連射! セカンド・アイレイ! セカンド・アイレイ!」
そう言いながらも、また1匹、また1匹とタコ天使を撃ち落としていく。
セレデリナは本当に頼りになるサメじゃのう。
「さて、手先の器用さこそ飛行可能人型サメの強み、出番じゃ彩華よ」
「拡声器でお前の声がガンガンに響いてうるせぇんだよ! 鮫川彩華、シャーク・ゼロで出撃するぜ」
続くように、シャークルーザーの口部が展開し、そこから繋がるカタパルトを通してシャーク・ゼロが出撃し空を舞い上がっていったのじゃ。
言ってなかったが、ウィンカー・シャークは2匹造っており、それがコックピットの窓ガラスに飛びかかって張り付く霧を喰っていくぞい。
カメラ越しの映像を見るのではなくコックピットの窓ガラスが直接的な視界になる故、こうでもしないと身動きが一切取れんのじゃ。
「何だこのヘビみたいなの……うわこれもサメかよ! だが、それはそれとして視界は良好、武器があるみたいだしそいつで戦うとするか!」
シャーク・ゼロはまずタコ天使の頭部に蹴りをかますと、その衝撃で手から離れた海守を左手に抱えて回収した。
そして、勢いを落とさず右手の拳を振るったのじゃ。
「シャーク・バンカー!」
すると、右手を中心に2m大のサメの頭部を模した光線状の巨大な刃が現れ、怪鳥を丸呑みにした。
彩華の扱うペンライトセイバーが肥大化して敵を喰らう動きを参考に、その現象が起きることを前提に設計したまさしく彩華専用サメ武装じゃ。
音声入力にしておいたことで、それっぽい雰囲気も出るじゃろう。
「やり方はわかったぜ、喰われる前に救出して、シャーク・バンカー! シャーク・バンカー!」
この様子なら5人ぐらいは左腕で抱えられそうじゃな。
実際、その運搬性能を活用し、船上に彼らを下ろしてはまた戦線に戻っておる。
***
そして、少し時間が経つと傭兵達を掴んでいるタコ天使は全て全滅したぞい。
おかげで、わしは安心してシャークルーザーをタコ天使の元へと進めていったのじゃ。
速度こそ水上での移動に劣るが、これでも全速力なら100kmぐらいは出る。
飛行機ほどでは無いが、十分じゃろう。
言っている間に敵陣へ飛び込み、次の捕食対象を選んで待ちぼうけておったタコ天使がおったのでそれをシャークルーザーは丸呑みしたのじゃ。
「これで射線も調整しやすいからまとめて焼けるわね、サード・アイレイ!」
セレデリナも同じようなタコ天使を10匹程まとめて消し灰にしておる。
また、彩華もシャーク・ゼロで正しく一騎当千状態。
〈ガレオス・サメオス〉のコンビネーションは完璧じゃな!
「ウーン、やっぱり日本のサメはチマチマしててダメダメデース」
しかし、それを見て良しとしない者が一人だけおった。
その声の主はハンチャンじゃ。
「そうするように指示したのはお前じゃろうて!」
「いえいえ、もうちょっと手際よくやってくれると思ってたんデスヨー。それと、準備はもう完了デース」
腹立たしいことこの上ないが、件の大掛かりな技はすぐ様に状況は一変させる。
「テクニカニミサイル、全門発射!」
ハンチャンがそう叫んだ途端、カニ軍艦の背の甲羅がパカッと開き、そこから赤色に塗装された52cm程のミサイルが52発同時に発射されたのじゃ。
そのミサイルは水上まで高度を下ろしたタコ天使まで捉えて全ての敵に着弾し、空を支配した天使たちは一瞬にして全滅した。
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