第39鮫 右肩の鮫
続けて、わしは彩華と共に船の中に内蔵されたサメ格納庫へ移動した。
そこには、とっておきの
「これが例のキャビアか……」
「そう、これこそ本当にこんなこともあろうかと船に詰め込んでおいた魔導兵器!」
大きさにして3.4m! シルエットはヒトに限りなく近いがその姿はまさしくロボット! 四角い箱を繋げたような手足に加え、腰の両端にはサメの胸ヒレめいたジェットブースターが搭載! 背中に搭載されたウイングブースターは尻尾のV字型をイメージした2本の刃が羽根として機能する! 頭部にはサメ同様黒い目の形をしたカメラがあり、ヘルメットのように頭の上と顎にサメの口が上下別れて張り付いたデザイン! あとは人が胴体のコックピットに乗り込めば精神操作であらゆる動きを自在にコントロールできる! なお、手持ち用の全て武器は未完成!
「異世界サメ23号"対指示者製作兵器用人型試作鮫機シャーク・ゼロ"じゃ!」
これは、30cmしか背がない小人種が種族格差を埋めるために作ったというゴーレムなるものを知り、再現出来ると確信して造り上げた日本自衛隊で配備されているサメの試作機じゃ。
なお、このゴーレムというのモノは、それ自体が希少なものではないが日常生活どころか個人が戦闘に応用できる程の調整も効かず、その癖膨大な魔力を貯蔵している"魔石"を活用出来る唯一の手段である人型重機で、内部も電気部品を繋ぎ合わせたものではなく削って形を整えた岩石の各中央に穴を開けて魔力を伝達させる物質をハイプ上に繋げて外見を人の形に整えた造りになっておる、まさしくファンタジックロボットじゃな。
そして、そのゴーレムをわし流にアレンジし、素材を岩石から船の素材として貰ったオリハルコンの余りに替えて造ったのがこのシャーク・ゼロとなる。
このシャークルーザーの燃料機関も、この魔石を使ったものじゃったりするぞい。
「これなら彩華も喜んでくれると思ってな、こっそり造ったんじゃよ。こういうの好きじゃろ?」
「男は絶対にこういうの好きって偏見やめな!?」
「くっ、わしもサメじゃなきゃ燃えんしこればかりは反論せんでおく。ただこのサメは今の日本の兵器のベースになっておるんじゃぞ」
「てか、これを血税で量産してるのか俺の国……。ただ、デザインがいつものキメラに比べて悪くない。嫌いってことは無いからそれは安心してくれ」
ちなみにサラムトロスの戦争はこういう兵器ばっかりということも無く、セレデリナのような魔法使いや噂のクワレンヌ・エッサークラスの剣士相手に10秒も持たないそうで、対魔獣にすら使われておらん。
本当に工業や農業にしか活用されん重機と言ったところじゃな。
「それで、こいつに乗って何かをすればいいんだな。俺が乗るってことは壊れることになるが本当にいいのか?」
じゃが、彩華はシャーク・ゼロを稀少的に見ておるようじゃ。
使えるリソースは使える時にさっさと使うべきであることをわからせねばなるまい。
「ならば想像してみて欲しいのじゃ、ハンチャンが〈ガレオス・サメオス〉の旅に同行するとして、もしも仮にこの勝負で圧倒的敗北をしたことによりサメ全体のヒエラルキーが下がりわしとセレデリナのモチベーションが無くなる情景を」
「相変わらずみみっちいよ!? そもそも最初から売られた喧嘩を無理に買わなかったら良かった話じゃん!」
まずい、それを言われてしまうと反論できん!
とはいえ、その言葉には続きがあるようじゃ。
「つっても、俺だってこの船を選んだから同罪だ。付き合うぜ」
「ツ、ツンデレヒロインじゃあ……」
「前言撤回していい?」
***
そんなこんなで、ボートレース逆転作戦が始まったのじゃ。
まずはわしがシャークルーザーの最後部に大鮫の盾を強く握りしめながら立ち、彩華が乗り込んだシャーク・ゼロの右肩の上にはセレデリナが立っておる状態じゃ。
落下防止も兼ねて、右手で足を固定させいるぞい。
なお、彼女は作戦上あえて変身しておらん。
シャーク・ゼロは海陸空全対応のスーパーマシンで、シャークルーザーと同じ速度で飛行できる。故に、〈
そこで、右肩のセレデリナの出番なのじゃ。
まずはシャークルーザーの後部100mぐらいまでシャーク・ゼロが移動する。
その位置に来ればシャークルーザーと同速で海に密着する高度で低空飛行を継続して同じ進路を前進する状態になってもらうのじゃ。
「まさか異世界に来てロボットを操縦することになるとはな」
「人型のサメの肩の上に乗れる体験は貴重ね!」
ただ、この作戦には問題がある。
まだ通信機器なんぞ造れておらず、シャーク・ゼロには拡声器を積める場所がないのじゃ。
つまり、彩華らの声が聞こえるのは読者サービスじゃぞい。何なら2人も打ち合わせしているだけで会話は不可能じゃ。
それはそうと準備は整った、あとは実行に移すまで。
「発射オーケーじゃ!」
わしは盾を握り締めながら拡声器に向かって叫んだ。
「サード・アイレイ!」
すると、セレデリナは
そして、シャークルーザーの後部に向かって放たれるそのビームをわしは大鮫の盾を両手で握りしめ必死に受け止める!
そう、セレデリナが
「ぐおおおおお、目が眩しいぞーイイぃぃぃぃぃぃぃぃさめさめさめめめめめめめ」
「拡声器で海上中にお前がバグった声が響いてるぞおい!」
サメマーの最終定理すら解いたわしの頭脳で弾き出した計算によりサード・アイレイ程の質量をシャークルーザーに直接ぶつけられるなら一瞬だけじゃがあのカニ走りしておる蟹軍艦を遥かに超える速度を出せる事がわかった。
これによって追い越すことが出来たという結果だけでも出せれば、このボートレースに負けてしまったとしてもハンチャンが生み出すであろうカニラルキー>サメヒエラルキー(ヒレラルキーと言ったほうがいいかもしれない)はマシになるはず。
そういう訳で、大鮫の盾で受け止めて得られる加速力を確保するのがわしの作戦なのじゃ!
「おっと、そろそろ加速させないと!」
肩からビームを放つそのサメは、シャークルーザーが超加速を始めても勢いを止めないために最大スピードまで加速し、
この位置関係は、〈ガレオス・サメオス〉の3人同時で行わなければ出来ないチームシャーク(チームワークのサメ版)が光る作戦じゃわい。
「横走りは止まらない〜 その道行がカニなんデース……ってなんですかあのサメの速度は!?」
……ついにシャークルーザーはカニ軍艦を差し切って追い越した。
「もらったぞい!」
確かにその後は、10秒ほどでセレデリナの
それに、また盾で受け止められるほどわしの体力も残ってはおらん。
「そろそろスピードを落としマース。こんなレースに勝ったところで試合に勝って勝負に負けた気分にしかなりまセーン」
「わしらの勝ちじゃ!」
「サメの勝利よ!」
「シャチと合わせて2勝0敗ってところか」
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