第29鮫 鮫考察

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SIDE:鮫沢博士

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 鯱崎兄弟との死闘から翌日の朝。

 あの後も、眠る時間がないままわしは働かされているのじゃ。

 具体的には、彩華をセレデリナの屋敷に送ってもらいつつ、サメリアンに兵士の一人を乗せて魔王城まで道案内をしてもらった。

 彼もまた酔いで嘔吐したがそれは自己責任じゃろう。

 それから、色々巡り巡って偉そうな3mの巨漢から普段尋問に使ってそうな部屋を借り、鯱崎兄弟から〈破壊者達〉や女神についての情報を引き出す尋問をしておる。

 しかしあの巨漢、絶対に奴隷を鞭打ちしながらぐるぐる回す棒の管理をしておるぞ。

 それで、流石に首だけなら無理矢理洗脳する装置を作って〈破壊者達〉についての情報を聞き出してやろうと目論んでいたのじゃが、彼らの生首は突如として目を開き喋り始めたのじゃ。


「シャーチシャチのシャチシャチ! あれで殺せたと思ったのなら大間違いシャチ!」

「俺達は魔獣になるにあたり、脳を機械化してそれを移植した状態オルカ! 既に生物の常識など通じず、首になった程度では死なないオルカよ!」


 生きている気はしたが、それどころか生命力に溢れておる!?

 〈シャークゲージ〉を使い切っての徹夜な以上サメも造れん。戦いは避けたいところじゃ。


「だが、俺達は頭部だけでは移動すら出来ないシャチ!」

「完全な詰みオルカ!」


 ……こいつらは元の世界の頃から嘘だけは絶対につかんピュア兄弟、反撃されることはなさそうじゃな。

 わしは都合のいい嘘を平気でついてしまうがのう。

 それなら、とりあえずは尋問しておくべきじゃ。


「お前さんらは〈破壊者達〉という言葉を聞いてなにかピンとくることがあるかのう? あと鮫神様についても」

「そもそも俺達は気付いたらこの世界にいたんだシャチ! 〈破壊者達〉とかなんの事シャチ!? それにお前の言う鮫神……というか女神を言い換えただけの謎の生命体はなんなんだシャチ!」


 うーむ、何にも知らなそうじゃし、しばらくここに放置して魔王の機嫌が悪くなった時にでも処刑してもらえばいいんじゃろう。

 尋問してもなーにも知らないと言うんじゃ、わしもそろそろ寝たいわい。

 こうして、1日目の尋問は終了したのじゃ。



***


 1日目と言うように、この仕事は翌日以降も続いた。

 結局、女神像粉砕の件の責任を取ることとなり、普通なら重要文化財破壊の罪で罰せられるところを尋問に協力する限りは見逃すと言われてしまい断るに断れんかった。

 アンラッキーシャークじゃのう。

 しかし、今日は朝からから魔王がセレデリナの屋敷から帰ってきて尋問に参加してくれたのじゃ。

 魔王は鯱崎兄弟の顔を見るやいなや親の仇を見るかのような憎悪の表情を見せておる。


「お前らは余の統治するこの王都で大量虐殺したテロリストなのだ。本当は今すぐにでも公開処刑にしたい」

「やめろシャチー!」

「お慈悲をくださいオルカー!」


 兄弟揃って命乞いとは最高の光景じゃな。

 魔王も家事をしている時の雰囲気と違って、サメのようなバイオレンスさで責め立てているから爽快じゃわい。


「落ち着くのだ。おまえらは本当に生きていて欲しくないのだが、その力を利用しないには惜しい人材である。なので、表向きには処刑したことにしつつ対〈破壊者達〉周りで今後の相談係になってもらいたい」


 じゃが、魔王もすぐさま処刑するような短絡さはなく、聞いてるだけですごく重要そうな役職を与えたのじゃ。

 表情は相変わらず変わらんが、慈悲としてはこれ以上のものなどないじゃろう。


「ありがとうオルカー!」

「しかし、いつかここを抜け出してやるからなシャチ!」

「そうはさせないから安心して欲しいのだ」


 結果、生きることだけは許され未だ脱走成功者のいない地下牢獄に生首のまま投獄する形になったが、やった事はやったことなので当然の報いと言える。



***


 そうしていくらか日が経ち、ちょうど1週間が経過したのじゃ。

 災害により倒壊した建物の修復目処が立っていき、王都に平和がもどりつつある。

 また、あれだけの傷を負ったセレデリナと彩華も、医療魔法とやらで傷一つ残っておらんぐらいには元気になった。

 わしはと言うと、本当はセレデリナのサメ変身能力について研究したい中、鯱崎兄弟のいる牢獄の前で魔王と共に会議をしている。

 

「鯱崎兄弟も公開処刑だけは嫌じゃったのかボロボロ情報を吐きおったな」

「いや、余はそこに追い討ちをかけろとは命令していないのだ!?」

「そうシャチサメ! 変な薬の副作用で自己がめちゃくちゃになってきているんたぞシャチサメ!!!」

「解毒剤を早く作るんだオルカシャーク!」


 最終的には、異世界サメ16号"自白サメ剤"を飲ませて出していない情報がないかを絞り出そうとしたのじゃが、口調がめちゃくちゃになる副作用だけが残ってしもうた。

 と言っても、鯱崎兄弟じゃし問題は無いじゃろう。副作用も3日ぐらいで抜けるんじゃから。

 それで2人の話を纏めると、なんとなく〈破壊者達〉とは何なのかについて答えが見えてきたんじゃぞい。



***


 曰く、この世界には他にも〈指示者オーダー〉がいる可能性は高く、彼らでなければ造れないようなものが10年間のサラムトロスの中で見つかったそうじゃ。

 これを明確な証拠と考えるといろいろ見えて来て、あの教会にあった彫刻のうちサメとカニの2種にまつわる〈指示者オーダー〉は決してこのサラムトロスの敵にならない存在であり、それ以外は全て敵になりうる宿命を背負っているサラムトロスの破壊者ともいうべき存在であると考えるのが妥当……というのが有力な説となったんじゃわい。

 何より、あの教会にあった彫刻の中から生物だけをリストアップし、つい先日知り合った生物学者に確認してもらったところ、その全てが未観測になると答えたのじゃ。

 そうなれば、あの彫刻はサラムトロスにいない生物が世界を襲うが、それを守るのはこれまたサラムトロスにいない生物であるということの表しと見ていいじゃろう。

 以前の説を少し補強した程度の話でしかないが、わし以外の〈指示者オーダー〉が共に戦ってくれるならば頼りになるはずじゃ。


 ただ、鯱崎兄弟があの教会を拠点に選んだのは、都合のいい未開の隠れ蓑が王都にあったからに過ぎないと断言した。何分、都会故に研究資材に多い、理想の立地なのじゃろう。

 それもあってか、〈女神教〉も鮫神様そのものも、国の調査では何一つ掴むことができんかった。

 一応、あの彫刻群は〈破壊者達〉とカウンターである鮫神様という構図になっていることだけはわかったが。

 ちなみに、シャーチネードが突然消えたという話については、あの海自体がオルカ・リヴァイアの実験用水槽だったみたいなんじゃが、その海の底に魔獣についての様々な管理や製造をする設備があったのじゃ。

 そこで、セレデリナが海の水ごと枯らす温度上昇を巻き起こした事により冷却装置のバランスが壊れて設備が全壊したのが原因とわかったぞい。


「とまあ、これでシャーチネード事件周りのまとめ作業は終わりになるかのう」

「しかし、魔獣製造が独学なのは信じるしかなさそうなのだ。アレに関する資料は禁書としてあらかた焼き捨てられている」

「せめて身体を造らせろシャチサメ!」

「自分の手でご飯を食べたいオルカシャーク!」

「こいつらの証言は一周まわって信じるしかないじゃろう」


 こうして、サラムトロスに来て直ぐに起きたシャーチネード事件は事後処理を含めて全て解決したのじゃ。

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