第27鮫 サメギン・ハイウェイ

***

SIDE:鮫沢博士

***


 彩華が時間稼ぎをしてくれている今、急いで鮫神像をサメにしなければならない。

 問題は、鮫神像からここまで500mはあることじゃ。

 体力に自信はあっても実際のところがスタミナがあまり残っておらん、後のことを考えて素足での移動は避けたい。

 ならば、新たなサメを造るためにも、中繋ぎのサメを作らなければならないわけじゃ。

 幸いここは海の近く、サー(メ)フィンするにもピッタリ。

 こうしてわしは、鯱一郎らから少し離れた海面に手を突っ込んだのじゃ。

 お、中をよく見るとセレデリナは単眼鮫魚人シャークロップスになっておるな。

 かっこいいのう。


「って熱い!? この水、沸騰しておる!? 早くサメを造らねばわしの手が大惨事になるわい!」


 海水がなぜ沸騰しておるのか分からんが、ええじゃろう。

 わしは勢いに任せて海水を100㍑ほど抽出し、サメを生成していったのじゃ。

 ちなみに、海をまるごとサメにすると1日に生成できるシャークゲージが限度量を余裕で超えてしまうので、これでも割とギリギリじゃぞい。


「ということで、異世界サメ13号"シャーク・ハイウェイ"よ、わしを石像まで運ぶのじゃ!」


 そのサメは海水で出来た何十匹ものサメで、海水を鮫神像まで垂らしながらその全てが伸び続ける水溜まりの如き道に乗せて駆けていく。

 わしはそのうちの1匹の上に乗って、最高のサー(メ)フィンをさせてもらえるわけじゃわい。

 ……この水が沸騰真っ最中でさえなければのう。


「あっつ! あっつ! 早く、早く鮫神像に辿り着かねばわしに限界が来きそうじゃ! やけどで死んでしまうぞい!」


 苦しい時って時間がスローモーションで流れていくから、例え34秒もない移動時間も10分ぐらいに感じてしまうんじゃぞい。

 彩華の方は鯱一郎とシリアスな会話でもしとるんじゃろうが、わしは生まれてこの方ずっとこのテンションじゃい!

 こうして、サー(メ)フィンを終えて鮫神像の前に到着したのじゃ。

 完全に体中が火傷まみれでヒリヒリするが、もうひと踏ん張り。

 負けるなわし、今こそ勝利するんじゃわし。


「ふむふむ、彩華のシャークセンスは相当じゃな。この石像なら、今までにないすごいサメを造れるのう」


 流れるように、わしは2つある破壊者像?と鮫神像のうち、前者は無視し鮫神像にそっと手を触れたのじゃ。

 15mもある巨大な石像じゃ、今日の間に生成したほとんどシャークゲージは使い切ってしまうのう。

 わしが今から造るサメはただ一つ、女神でサメな守護鮫シャーディアン

 イメージに集中しながらシャークゲージを注入していき、鮫神像をサメへと変質させていった。

 それによって完全にサメと化した鮫神像は本来の造型に加え、頭部がサメへと変形! 衣服から露出したあらゆる素肌が青白く滑らかな鱗に覆われる! 天使のような美しい翼が生えた背中からは追加で大きな背ビレが生えた!


「ここに君臨するは最強の鮫神さめがみ、異世界サメ14号"ラグナロック・ゴッデス・シャークガーディアン"! さあ、今こそサメによる黄昏の時じゃ!」


 うむ、これはとても奥がフカいサメになってしまったのう。

 ちなみに、カニは要らんので羽根の材料にとりこんだぞい。

 その姿はまさに"鮫神様"じゃ!

 そして、巨大な鮫神様は手のひらを上に向けながら地面まで右腕を降ろし、わしをすくいあげたのじゃ。

 手のひらにわしを乗せ、常時腕を90°に曲げておる鮫神様はまるで大仏……鮫仏……サメフランスじゃわい!

 こうして、わしの回収が終わった鮫神様は二つの足を使い、鯱一郎と彩華の元へ駆けていった。

 


***


「鯱一郎よ。そこまでじゃ、残念じゃったな」

『フランスシャーク!』


 彩華は鯱一郎と鍔迫り合いをしているようじゃが、このままだと押し負けそうじゃな。

 早速加勢するぞい。


「これは偉い人との飲み会でサメをdisるラップを披露してきた時の分! 放て、サメの怒り!」


 鍔迫り合い中の2人の上に雲が発生し、鯱一郎に目掛けて雷が落ちたのじゃ。

 フォッフォ、いい気味じゃわい。


「いやお前も同じようにアンサー返してただろシャ……ギャーシャチ!」


 そんな背景なぞ知ったことではない! サメを蔑む者には死あるのみなのじゃ!

 雷に直撃した鯱一郎は、怯んで動けなくなっておった。

 普通なら丸焦げになって死ぬ威力の中で、よく耐えておるわい。


「鮫沢博士、もう時間は30秒しかないんだ。早く乗せてくれ」


 おお、彩華もこのサメに乗りたくなったのじゃな。

 これには鮫神様も大喜びじゃわい。

 流れるように同じ右手の上に乗せてやったぞい。


「まさかあの女神がこんな姿になるなんてな……魔王様が知ったらどうなる事やら」

「あんまり関係は良くなかったみたいじゃし、大丈夫じゃろ」

「そういう問題じゃねぇよ!」


 そして、彩華が何かを念じるような動作をすると、鮫神様は宙に浮き出し脚部が体育座りをするように折りたたまれ、顔を上げた状態で横に向いた。

 変形した姿はまるで鳥……いや、違う! 羽根の生えたサメそのものじゃ!

 これはもう"神々の黄昏ラグナロック"を超えておる。

 わしは今からこのサメを"不死鳥フェニックス"と呼ぶ!

 つまりは、"フェニックス・ゴッデス・シャークガーディアン"じゃ!


「うわぁ鮫沢の造ったクリーチャーが、とんでもないことになってるシャチ!?」


 おお、あまりの凄さに倒れておった鯱一郎も起きよった。

 

「いや、なんか変形できるって電波が流れてきたから試してみたけど……やっつけにも程があるだろこれ!?」

「変形できるロボットはこういうパターンも割とあるから気にせんでよいぞ」

「は?」


 普通に威圧してくるのは怖いからやめて欲しいぞい。

 一方、鯱一郎は大剣を掲げて啖呵を切り始めたのじゃ。


「普通に戦えば鯱阿弥陀仏シャチアミダブツだシャチ。だが、この剣はサメ殺しシャーク・マーダー! 神なら尚更チェーンソーで鮫阿弥陀仏サメアミダブツだシャチッ!!!!」


 鯱一郎は、この不死鳥フェニックスと化した鮫神様を相手にしながら恐れる姿を見せず、鮫神様よりも高く天井付近にまで飛び上がった。奴はこの状況でも勝つ気なんじゃろう。

 

「能あるシャチは牙を隠す……俺には飛行能力もあるんだシャチよ! 海陸空全てに対応した究極のシャチ魔獣が俺なんだシャチ!」

「このサメ相手に逃げないその覚悟、流石わしの好敵手と言えるのう鯱一郎!」

「49戦16勝33敗だが、ここで勝てばボーナス50勝分ぐらいにはなるシャチ。まさに俺達の最終決戦だシャチ!」


 命の奪い合いなら永遠の勝利者という訳じゃな。

 それなら、わしもそれに答えてやるしかないのう。


「面白い、これがわしらの最終決戦! 法も政治もわしらを拘束しない異世界という平等の土台に立った今、お互いの人生にケリをつける時じゃ!」

「ここに来て俺を置いてけぼりにして盛り上がってないか!?」


 程なくして、鯱一郎は真っ向唐竹割りの如く剣を振りかぶってきたのじゃ。


「な、なんかガード手段は無いのか!?」


 その攻撃を前に、鮫神様は鮫の怒りの雷を鯱一郎に向かって幾度となく落とすが、雷一つ一つを正確に見ているかのように全て避けたのじゃ。


「さっきは不意打ちだったが二度も当たらないシャチ!」

「バケモンかコイツ!」

「わしらも負けてられんぞい!」


 そして、流れるように鯱一郎の剣は鮫神様の片翼を真っ二つに斬り裂いたのじゃ。

 

「まずは片翼! もう片方も翼の折れたサメンジェルにして地面へたたき落としてやるシャチ!」


 しかし、わしらとてこのまま押し切られることはないぞい。


「あーもう、ピンチな上にあと10秒! 何か手は!?」

「そうじゃな……。なら、サメらしく口を使うのがわしらの流儀じゃろう」

「OK、なんか電波が飛んできたぜ! シャークロス!」


 逆転の手段が見つかったのか、彩華は鮫神様に指示を出した。

 すると、鯱一郎の周囲に異空間のような穴が無数に浮かび上がっていったのじゃ。


「どうせ射撃攻撃ぐらいなら気合で避けられるシャ……なにシャチ!?」


 その穴からは、海藻が何十と出現し、鯱一郎の手足顔その他可動部位すべてを拘束していったのじゃ。

 飛行能力がある相手じゃろうと、こうして手足を塞がれてしまえば身動きを取れん。まるで神の鎖じゃな。


「このサメの潜在能力はすごいのう」

「逆にこれぐらいしか攻撃を当てる手段もないみたいだけどな。トドメだ、あいつを喰え!」


 こうして、狙いを定めた鮫神様は、残った片翼を広げて宙を駆けた。


「剣も足も直接封じるとは卑怯シャチよ!」


 そして、拘束された鯱一郎を一口でバクッ! と捕食したのじゃ。


「うぎゃあああああシャチイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!」

『モグモグ、フランスシャーク!』


 鮫神様が鯱一郎を捕食していると、制限時間が切れたのか器用に変形しながら口を動かしつつ地面に着地。

 不死鳥フェニックス神々の黄昏ラグナロックへと姿を戻したのじゃ。


『モグモグ、ペ!』


 最後に、鮫神様は何かを吐き出した。

 それは、鯱一郎の頭部じゃった。

 どうにも頭部だけは非常に硬く、タイミングも悪かったか彩華の力の加護が消えたせいで噛み砕ききれなかったようじゃな。

 まあ、元々オナワザメにして色々聞き出すつもりじゃったし、顔だけでも残っておるなら万々歳じゃ。


「元々命を奪うつもりは無かったが、生きてしまった以上は50戦34勝16敗でわしらの勝負は続いていくみたいじゃな」

「結局、あんたらの勝負に部外者の俺が混じってよかったのか?」

「お前さんわしの相棒なんじゃろ? それなら2人で1人じゃからノーカンじゃノーカン」

「あんたに2人で1人ってまで言われると気持ち悪いな……」

 

 何にせよ、彩華もこれでひと段落着いたと安心しておる。


「うっ」


 ……じゃがそんな時、彩華が突然倒れたのじゃ。

 何となくの推理じゃが、〈鮫の乗り手シャーク・ライダー〉の制限時間が切れると気絶してしまうのかもしれんな。

 ここはゆっくり休ませてやるべきじゃろう。

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