第26鮫 鮫鮫鮫世

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SIDE:鮫川彩華

***


 だいぶ適当なことを言ってしまったが、鮫沢博士がサメを造るまでの時間稼ぎ、しっかりやるしかない。

 ただ、鯱一郎に殴られ蹴られで何本か骨が折れてるのかとてつもない痛みが身体中に響いており、口の中も鉄の味が染み渡って気持ち悪い。

 正直立つのもやっとだが、俺は今決めたんだ。

 生き残るために戦うんじゃなく、相棒である鮫沢博士と一緒に悪と戦うと。

 じゃあ後は、理不尽に飛ばされたこの異世界で生き残って、シャイニーズのライブに行くのだけだ!



***


 殴られた瞬間にペンライトセイバーのスイッチを切っておいたお陰か、タイマーも残り1分30秒と少しだけ余裕がある。

 鮫沢博士次第でしかないが、何となく上手くいく可能性に賭けてやろうという気分になってきた。

 そして、俺と鯱一郎の一騎打ちが始まった。


「マーメイドアームズ、再装備だシャチ!」


 奴は俺から少し距離を取ると、地面に落ちていた銃火器などの武装が動き出し、磁石のようにひっついて脱ぎ捨てる前と同じ姿に戻った。

 

「では早速、全弾発射だシャーチッチッチ!」


 そして、すぐ様にガトリングを回転させながらミサイルランチャーを展開し、死の雨を俺へと向けて発射してきたのだ。

 こんなもの、防ぐ手段はあるのだろうかと思ってしまう。

 だが、しょぼくれていてもしょうがないと言わんばかりに、脳へ指令のようなものが飛んできて体が勝手に動き出す。


「こ、こうか!」


 俺は、ペンライトセイバーを離して地面に落すような動作を行った。

 続けて右手を握り、人差し指を伸ばして剣を拾い上げると、そのまま柄を軸にして遠心力でぐるぐると回していく。

 ペンライトセイバーから出る光の刃は綺麗な円を描いていき、その円はどんどん大きくなっていった。

 すると、その刃は俺を守る盾となり、こちらに飛んできていた銃弾&ミサイルの雨を全て斬り裂いていき防ぎ切る事ができた。


「ば、バリアみたいなやつかこれは!?」


 この武器、本当にハイテクだ。

 ……なんていうか、脳への司令は妙に心地いいんだが、頭の中をサメに支配されていくような感覚というか、自分がサメになっていくような気持ち悪さもある。

 よくもまあ、ペンライトをこんなとんでもない武器に改造できたな鮫沢博士。

 しかし、守ってばかりもいられない。

 俺は、街中での戦いと同じように左スイッチを長押しし、刃を巨大化させ、くうを突いた。

 すると、ペンライトセイバーの刃は巨大なサメとなり鯱一郎に向かって伸びていく。


「とっととこいつに喰われろ!」

「そんなもの食らうかアホん誰シャチ!」


 だが、鯱一郎は身体の至る所に隠していたジェットエンジンのようなものを横方向に吹かし、刃を躱した。


「真の力を見せてやるシャチ! まずはお約束のシャチパージだシャチ!」

 

 躱した直後、鯱一郎は博士を追い詰めた時のように武装を全てを脱ぎ捨てていく。


「どうせお前のようなド素人相手にスピードを取るメリットはないシャチ。アーマーチェンジ、サメ殺し《シャーク・マーダー》!」


 そして、鯱一郎の鎧は宙に浮いて一箇所に塊った。

 すると、大きな光を放ち、刃幅3mはある大剣へと変形したのだ。

 剣の鍔の中央部にはシャチが泳ぐスノードーム型の水晶が埋め込まれており、刃には回転する鎖のようなノコギリ……チェーンソーが付いてる。

 なんというか、普通にかっこいい見た目で自分の武器がペンライトの改造品なのが寂しい。


「サメは昔からチェーンソーに弱いのがお約束シャチ。この剣はもし鮫沢と戦う時が来たらと思って造った決戦形態シャチよ!」

「俺が昔観た名作映画だと空気ボンベが弱点だったが……」


 とはいえ、が相手だ。

 何なら、今までの鯱一郎の姿で最も強く脅威的だと予測がつく。


「覚悟だシャチ、てやシャチ!」


 そして、鯱一郎は大きく飛び上がり、俺の頭上から落ちるように剣を振り下ろしてきた。

 どうにもペンライトセイバーの刃は真っ直ぐ伸びて相手を捕食するというのが限界で、鞭のように変幻自在に曲がったりできない。

 結局、都合のいい機能ほど脳に伝ってこないのが現実だ。

 つまり、守るなら俺の自身の剣術で戦えということなのだろう。


「いいぜ、素人でも武器次第だ!」


 ならばと、剣を横向きに構えて攻撃を受け止める姿勢を取った。

 同じ大剣で戦うなら、受け止める分には互角の勝負を狙えるはずだ。


 ブウォォン!

 ギュイイイイイン!

 ガン!


 結果、鯱一郎の大剣を鍔迫り合いの状態に持ち込んで受け止めることに成功した。


「間一髪!」

「そんな、急造品の剣でそこまでできるとは思えないシャチ……」


 確かに、普通なら10年と2日の差でこの勝負は違和感がある。

 だが、その原因はわかりきっている事だ。


「俺は、お前の弟みたいにサメとの相性がいい鮫の乗り手シャーク・ライダーなんだよ。その差を埋めるのが俺の役割って訳だ」


 鍔迫り合いの中、俺はそう答えてやった。


「やはりそうだったシャチか……。その強さにもうなずけるシャチ! しかし、正式名称は百年の担い手ハンドレッド・マスターシャチ。騙されてるシャチよ」

「それぐらいは何となく知ってたよ!」

「お前もお前で相当に鮫沢に甘いシャチね」


 結果、なんとも言えない会話が続く。

 それなら、時間稼ぎついでにこっちからも何か聞いてみていいかもしれない。


「ところで、お前らどうしてサラムトロスが嫌いなんだ? 俺としてはまだまだ2日目でしっくり来ないんだよ」


 実際、最初に知り合った異世界人がセレデリナだったりと、スタートダッシュのおかげか悪い部分が見えてこない。

 改めてこいつなりの理由があるなら、俺も考え方を改めなければいけないだろう。

 同じ日本人ということを考えても、10年先の先輩の意見は大事だ。


「厳密にはこの世界が特別俺達がいた世界より秀でているとも、ましてや劣っているとも思ってはいないシャチ。しかし、シャチが生態系に存在し得ない世界にいるという現実が不愉快極まりないんだシャチ。理由などそれで十分シャチ」


 ……あーあ。

 こんなバカに教えを請うてもらおうとした俺もバカだったよ。

 それなら、鮫沢博士の方がよっぽどまともな神経をしている。


「あのサメバカクソジジイはサメがないなら造ればいいと開き直ってたぞ? それすらも出来ないお前らはってことで納得した。最高の比較対象だな!」

「なんだとシャチィ!? お前まで造るだけで満足すると押し付けてくるシャチか!? ぶっ殺してやるシャチ!」


 俺は気がつくと、鮫沢博士の考えに同意してしまっていた。まあ、こういうのも悪くないかも知れない。

 ただ、煽りすぎたか鯱一郎が本格的に怒りを抑えきれなくなっていた。


 ギュイイイイイン!!!


 それもそのはず、鯱一郎の刃の回転はとてつもない速度にまで加速していき、ペンライトセイバーの刃を削り取り始めたのだ。

 このまま鍔迫り合いを続けていたら刃を折られ、体ごとバッサリと持っていかれるのは目に見えている。

 更に、俺の力もどうやら残り時間も40秒しか作用しないみたいだ。

 無理に煽りさえしなければ、ここまで追い詰められることもなかったのだろうか。

 その結果、焦りに焦って無意識に叫んでしまった。


「あー、もう! いい加減来てくれよサメバカ博士!」


 なんて、他力本願な叫びだろうか。


「鯱一郎よ。そこまでじゃ、残念じゃったな」


 そんな情けない言葉を吐いた時、聞き覚えしかないあの声が聞こえた。

 変なクリーチャーと共に。


『フランスシャーク!』

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