第23鮫 サメノヨゾラ海遊班

「SHARK……!?」


 そんな時、私の体に魔力が蓄えられていくような感覚が響いてきた。

 つまり、使用したMR《マジック・リソース》がじわじわと回復しているのだ。

 結果、全快とは行かなかったが、最終的には先程撃ったサード・アイレイの分ぐらいは回復した。

 そうか、サメになった私には噛み付いた敵からMR《マジック・リソース》を吸収する特殊能力があるのか。

 よし、欲しかったあとひと押しのチャンスは得た。


「オールカッカッカ! オルカ・リヴァイアの……シャチの力を前に怖気付いたところでもう遅いオルカ! 逃げる暇もなく死んでゆくんだオルカ!」


 そんな私を前にオルカ・リヴァイアは全方位シャチレーザーとアクアブレスを同時に放った。

 まさに、一斉射撃の総攻撃だ。

 なら、私も負けていられない。

 死なば諸共、オルカ・リヴァイアに向かってさっきと同様に突進した。


「SHARK、SHAAAAAAAARK!!!!!(シャチなんかに、負けてたまるかああああああああ!!!!!!!!)」

「じ、自殺する気かオルカ!?」


 流石に直撃を避けたいアクアブレスだけは躱したが、幾度となく全方位シャチレーザーが身体中に被弾する。

 ただでさえ深い傷をさらに抉ることもあった。

 肉を貫き骨まで焼けていく。こんな痛みに耐えて戦うなら、死んだ方が楽かもしれない。

 だがそれでは、あの2人も、サメも、アノマーノも、全てを裏切ってしまう。

 それだけは嫌だから、私はやれる事をやる。

 空虚な私をどんな形でも埋めてくれている人達のために、死ぬギリギリまで戦ってみせる。


「SHAAAARK!!(ここからは私の番!)」


 あらゆる痛みに耐え、私はオルカ・リヴァイアの首筋に再度噛み付いた。

 今回は途中で離してしまわないように、四肢でガッチリと抱き抱えてホールド状態だ。


『SYAAACHI!?』


 向こうは悶えながらも攻撃を辞めない。

 噛み付けば噛み付くほど、全方位シャチレーザーの発射口に密着している私の体を抉り続ける。

 しかし、一度は同じ状況で押し負けたが、最善手が見えた今なら耐えることも容易だ。


「肉薄して至近距離からサード・アイレイを撃つつもりならそれは無意味オルカよ。何故ならオルカ・リヴァイアはサラムトロス・キャランセラーなど関係なくサード・アイレイまでは直撃しても耐えられるように設計してあるからオルカ! どうだ、兄上の技術に参ったかオルカ!!!」


 鯱二郎も焦ったのかべらべらと手の内を明かしている。

 話の限りだと鯱一郎の技術は明らかに規格外で、先程の作戦は非効率的だったことが分かる。

 なら、一歩下がって作戦を建て直したのは正解だった。


「それでも諦めないオルカか? そのダメージを負いながら首を噛み切るなど不可能だと言うのにオルカ」


 何を言われようがもはや関係ない。

 何故なら、私のMR《マジック・リソース》は丁度全快したからだ。

 ただ、吸収しているオルカ・リヴァイアはまだまだ攻撃をやめないようで、一体どれだけ本体にMR《マジック・リソース》があるのやらと羨ましくなってしまう。

 そうして、私はオルカ・リヴァイアに噛み付くのをやめ、また距離を離した。


「オールカッカッカ! 結局逃げるオルカか。どうせ死ぬというのにオルカ」

「SHARK。SHARK、SHARK(兄がすごいって話はよくわかったわ。なら、私も絆の……愛の力ってのを見せてあげる。アノマーノの恋人として認められるために行き着いた愛の魔法よ)」

「……ま、まさかアレをやる気かオルカ!?」

「SHARK、SHARK(そう、そのまさか)」


 そして私は、詠唱を始める。


「SHARK、SHARK SHARK。SHARK、SHARK SHARK!(『我が魔の力よ、自らの眼力で世界を滅せよ。そして、全てを照らし給え!』)」

「やめろ、それは本当にやめろオルカァ!! 対策を取るにもデータがなかったんだオルカー!」


 これは、私が使える4つの魔法の内、唯一詠唱を必要とする最強の魔法。

 未だ記録として扱えるのはアノマーノに勇者アールル、そして私だけのラスト級。

 天変地異をも引き起こす、その魔法は!


「SHARK SHARK!(ラスト・アイレイ!)」


 私のアイから、オルカ・リヴァイアに向けてそれは発射された。

 ――それは、海の中で奔る山をも砕く光の線。


「せめて俺だけでも生き残るオルカァ!」『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAACHI!!!!!!!!!!!』


 鯱二郎は跨っていたオルカ・リヴァイアから降りてすぐ様射線から離れたものの、肝心のオルカ・リヴァイアには直撃し、形もなく消し炭になった。

 自身の体をも覆い尽くす大きさだ、当然の結果だろう。

 ところで、アイレイの光はつまるところ熱の塊の円柱だが、この規模にでもなれば大きな海だろうと全体の水温はすぐさまに引き上がり、そして沸騰する。

 それが何を意味するかは、シンプルな帰結だ。


「水が、水が熱いオルカァァァァァァァァア!!!!」


 鯱二郎は、水温の熱さに悶え苦しむ羽目になった。

 そう、ラスト・アイレイそのものとは別に実質回避不能の超範囲攻撃が成立したのである。

 とはいえ、鯱二郎が高々100度程度の熱湯風呂も我慢できないのは驚きを隠せないが、ある意味滑稽でそれはそれで見ていて楽しいのでよしとしよう。

 もちろん私は、オルカ・リヴァイアのレーザーが推定でも1420度はあったので当然耐えられる、問題は無い。


「SHARK SHARK、SHARK?(シャチならシャチらしくその体を利用して接近戦も上手くやればいいものを、射撃しかしないせいで肉薄された時の対策が疎かになってたんじゃないの?)」

「それはお前がそんなに硬いサメとは想定していなかったからオルカア゙ア゙ア゙ア゙ヅイ!!」

「SHARK(なんのための私のデータだったのよ、それ)」


 こうして、ラスト・アイレイの発動時間は終わった。

 だが、勢いよく沸騰しすぎて海の水は一瞬で全て蒸発してしまったのだ。

 つまり、勝負は第2ラウンドに移ることとなる。



***


 この海は底が見えない程の深さ。

 もしその規模の海が蒸発すれば……への急速落下が起きる!

 ただ、この位置から底まで200mはあるようだ。

 それなら、いきなり地面に叩きつけられるということは無い。


「お、落ちるオルカー!!!!!!」


 鯱二郎はギリギリのところで生きているようだ。

 この不死身さなら、落下死を狙うのも悪手と考えるべき。

 故に、落下中も戦いは終わらない。

 残り変身時間は10秒、たったそれだけの時間でこの勝負は決まる。

 一瞬の判断が命取りの中、鯱二郎は私から距離を離そうと大の字のポーズになり空中抵抗を取り始めた。

 今は私の方が体重も遥かに重い。

 落下する速度ならこちらの方が早く、直ぐに高低差を取られてしまう。

 

「SHARK、SHARK!(だから、そんな行動は予想済みなのよ!)」


 私は、鯱二郎が空中抵抗を取った瞬間に左腕で鷲掴みした。

 これで落下速度は平等。トドメを刺すチャンスだ。


「やめろ、俺は美味しくないオルカ! サメがシャチを食うなど食物連鎖に反してるオルカ!」

「SHARK!(貴方の世界の節理はここサラムトロスでは通用しないのよ!)」


 左手を口元に近づけ、鯱二郎をがぶりと丸呑みにした。

 しかし、噛み砕く前の最初のひと噛みで変身時間が切れてしまった。

 体と顔を真っ二つに分断することしか出来なかったのは残念だ。

 それでも、ついに、ついに鯱二郎を倒すことが出来た!


「よし、勝ったわ!」


 だが、まだ問題がある。

 ラスト・アイレイによって全てのMR《マジック・リソース》を使い切ってしまったのだ。

 せめて着地寸前にセカンド・アイレイを撃つことができれば逆方向から力を加える形で落下衝撃を抑える手段があるものの、それができない。

 当然、無抵抗でこのまま地面に落ちれば肉塊になってしまう。サメに変身していた時の傷はそのまま体に反映されるのか全身血まみれで、体術を使って抵抗する体力もない。

 巻き添えでトドメを刺せるように鯱二郎の顔面を抱き抱えているが、こいつと死ぬのはなにか嫌だ。

 でも確かなモノが1つだけある。

 死ぬ前に趣味と言えるものに出会えて良かったという思いが。





 そう諦めていた時、目の前に縄紐の形で蛇のように動くサメが現れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る