第24鮫 サメの姿はシャチに似ている

***

SIDE:鮫沢博士

***


 わしらの相手は、あの憎き鯱崎鯱一郎しゃちざき しゃちいちろうじゃ。

 同じ〈百年の指示者ハンドレッド・オーダー〉として見て、一筋縄ではないのは一目同然じゃろう。

 現状、わしはアーマードシャーク・オルカナイトを着込んでおる状態で、彩華はペンライトセイバーを持っておる。

 近距離戦でのチームワークが大事な場面じゃな。


「さて、どうやって攻めるかのう」

「なら、俺が食い止とめてる間に鮫沢博士が上手く急所を潰していくってのはどうだ?」

「おお、いい作戦じゃな、それで行くぞい」


 作戦も定まり、まずは彩華がペンライトセイバーを起動しながら突撃していったのじゃ。


「こいつはあんたのカジキマグロもどきすら喰った剣なんだぜ、なんだか負ける気がしねぇ!」

「異世界モノの主人公みたいな立ち位置していると思っていたシャチが、妙にチンピラ臭いシャチね……」

「うるせぇ、推しがヤンキーになりがちなだけだ! それに、生まれてこの方鮫沢博士の首を絞めた以外まともに暴力を振るったことがないんだよ!」


 そう言いながら、彩華は ブォォォン! とペンライトセイバーを振り下ろした。

 対し、鯱一郎は後ろに下がって回避しておる。

 なら、わしはそこで生まれた隙を狙うだけじゃ。


「ツインシャークロー!」


 わしは、飛び上がってから鯱一郎に向かって落ちるように両手を振るったのじゃ。


「鮫沢のやつ、落ちながら戦うつもりシャチか!?」


 更に、空中で回転を加えることで鮫力さめりきは1700!(※馬力のサメバージョン)

 加えて、両手の甲を合わて大きく口を開けるサメの顔に見立てた状態で突進することで鮫力は1700+1700=3400じゃ!


「ここで食い止めれば、その変な攻撃は直撃するって訳だな!」


 彩華もわしをフォローするように、鯱一郎の足元を狙ってペンライトセイバーを振り回しておる。

 まさに、必殺の一撃を決める準備は整ったのじゃ。


「その隙が命取り! 地獄へ落ちるのじゃ!」


 ドリルのように回転するわしは、ついに鯱一郎と衝突した。

 これで勝負は決まったと思ったのじゃが……。


「1つ質問をしたいシャチ、お前らはこの世界に来て何日シャチ?」


 なんと、鯱一郎は右手でわしの両腕を束ねるように掴み攻撃を止めた。

 加えて、ペンライトセイバーが脚に触れる前に左手で彩華を殴り飛ばしたのじゃ。


「ゴハァッ!」

「彩華ー!!!!!!」


 わしは両腕を掴まれたまま宙に持ち上げられておる状態、鯱一郎は全くもって離そうとはせん。

 これはまずいぞい。


「答えればそこのガキの命ぐらいは助けてやるシャチ」


 彩華はわしの人生の半分もまだ生きておらん若人わこうどじゃ。

 こんな所で死なせる訳にもいかん、その程度なら答えてもいいじゃろう。


「今日で2日目じゃ」

「2日? たったの2日シャチか?」

「な、何がおかしいんじゃ!」

「シャチッチ。俺はサラムトロスに飛ばされてからの10年目シャチ。そこで、世界を滅ぼすために禁忌の技術である魔獣製造について研究に研究を重ねてきたんだシャチ。今では己を魔獣にすることすら容易くこの姿なんだシャチよ? たかだか2日、人のものをパクって造った異世界サメが研究し尽くされた異世界シャチに勝てる道理は無いんだシャチ」

「10年……じゃと」


 なんと、鯱一郎はそんな前からサラムトロスに居たというのか!?

 確かに、わしより前に飛ばされたのじゃろうとは思っておったが、いくらなんでも時差が激しすぎるわい。

 奴とて〈指示者オーダー〉、元々生物を由来とした兵器開発をしているのじゃから、魔獣とやらに手をつければ本来の更に上を行くのは当然。

 シャチのいない世界で、鯱一郎が抱えている怒りは相当なんじゃろうな。


「よし、満足したシャチ!」


 こうして、自分語りを終えた鯱一郎はわしを彩華のいる位置に目掛けて投げ飛ばしたのじゃ。


「い、痛いぞい!」

「では、今からお前らを2人まとめて処刑してやるシャチ。どうせセレデリナ・セレデーナもそろそろオルカ・リヴァイアのエサ、全員仲良く地獄行きシャーチ!」

「約束が違うじゃろ!」


 何たる外道じゃ。

 この状況、せめて彩華だけでも守らねばならん。

 彼の命が危ぶまれたこの瞬間、彼がわしに何を与えてくれたのかを理解した。

 サメを好きでいてくれるセレデリナですら妙に距離を感じる中、彩華は唯一わしを怪物ではなく面倒なじいさんとして扱ってくれる。

 悪いことをしたらその分叱ってくれる。

 思い返せば、弟でも言葉はもう少し選んでくれた中で甘やかさなかった。

 今まで生きてきて、そんな者は初めてじゃ。

 だからわしは、んじゃ。


「……」


 彩華は息こそあるが気絶しておるようで状況も見えておらんじゃろう。

 当然じゃ、戦いというものに縁すら無いんじゃからな。


鯱人オルカマン戦鬼フルアームズ形態モード!」


 そうして、鯱一郎はわしらにトドメを刺すための姿に変形した。

 鯱人オルカマンとしての肉体が裏返っていくように変質。

 体のいたるところに機械的な装甲や武装が装備され、それぞれの腕部に2門のガトリングが、左肩にはロケットランチャー、右肩には8門のミサイルポットまで装備したまさしく戦鬼と言える姿に。


「シャチのいない世界での10年が、どれだけ苦痛だったのか分かるかシャチ?」


 攻撃する直前、鯱一郎が投げかけた質問はわしとしても重たい。

 じゃが、わしはわしであって、鯱一郎は鯱一郎じゃ。

 返す答えはこれしかなかろう。


「さっき言った通り、2日目なのでちょっとしかわからん!」


 そう、そんなもんわからんのじゃ!

 大体こっちは初日に豪運を発揮してこの世界で最も偉い人間とコネクションを得ることができたんじゃぞ、恵まれた側と恵まれなかった側で話が平行線にならんわけがないわい!


「そういう変に正直な所が前から気に入らなかったんだシャチ!!!!」


 こいつ、せっかく答えてやったのにケチつけおって。


「それに、わしはサメがないなら造ればいいと考えておる。お前もシャチ製造は続けていて、自分自身すらシャチにまでしたんじゃからそれで十分じゃろ?」

「やっぱりお前は自己中心的で無神経なクズシャチね。絶対に殺してやるシャチ」


 返事を間違えてしまったか、鯱一郎の奴はわしへの怒りと殺意に充ちておる。

 まさしくアングリーな狂戦鯱バーシャーチーと言った感じじゃ。

 うむ、この鎧を着ているとどんどん頭をシャチに支配されていくのう。


回転式機関鯱砲四門シャチガトリング!」


 そして、鯱一郎は両腕のガトリングを斉射してきたのじゃ。

 わしは、せめて彩華だけでも守らねばならん!


「シャークシールド!」


 そう、先を見すえて長話になっておった隙に、わしもわしで両手の爪を大きな盾に変形させておいたのじゃな。

 あくまでその場しのぎにしかならんが、彩華を守れるなら今は十分じゃ。


「やはりこれでは厳しいぞい……」


 じゃが、現実は予想以上に厳しく、ガトリングの弾丸は全てわしの盾を貫通したのじゃ。

 弾丸は全身に直撃していく。

 一発一発の被弾がアーマードシャークの装甲を破壊していき、鎧はバラバラに粉砕されてしもうた。

 何とかわし自身の身体や、それこそ彩華には傷一つ付いておらんがこれはまずいぞい。


「わしの鎧が見るも無残に!」

「シャチッチッチ、お前がシャーチネーターを素材にサメを造ることなどと見通しシャチ。サメの素材として有用なものはできる限りこの地下に置かないようにしておいたんだシャチよ。そうなると後は、シャーチネーターが一番有用な素材になるシャチからねぇ」

「これが10年と2日の中にある時間の差……そう簡単に埋められる穴ではないのう……」

「そしてこの回転式機関鯱砲四門シャチガトリングは、シャーチネーターが万が一暴走した時のためのシャチ殺し武装シャチ! 繁華街から帰ってきた間の一瞬でも、この程度の罠は問題なく仕掛けられるんだシャチね」


 つまり、わしはこやつの掌海てのひらかいで泳がされていたに過ぎないということじゃな。

 彩華は倒れたままで、鎧も壊れた。

 わしの周囲のサメ素材なんぞ砂場になっている床ぐらいじゃ。

 敵の力を目の当たりにしている以上、そこまで頼りにならん。

 この状況はまさしく背鮫の陣はいさめのじんと言えるじゃろう。

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