第21鮫 シャークボーイビーチサイド

 扉の先には、岩の壁に囲まれた丸っこく1キロ平方メートルはあろう大きな空間で、砂の陸地と綺麗な海が広がっていたのじゃ。

 大きさの割合となると、陸地と海で大体1:3じゃろうか。

 そこはまるで、サメ映画に出てくるようなビーチそのものじゃった。


「海?」

「まんま南の方にあるビーチね。何故だか、無性に泳ぎたくなってきちゃうわ」

「既にサメの影響が出てるな……」


 どうやら、サラムトロスにもここと似たようなビーチはあるみたいじゃな。

 今後のサメ製造を考えると、それは安心じゃわい。

 しかしこのビーチは最奥部に岩壁が見受けられる事から、わしの感性としてはむしろプールのような施設であると考えた方がいいかもしれんのう。

 ふむ、となると本当に何かありそうじゃ。

 今見渡せる範囲――早い話は陸地の方にめぼしいものがないか探索する必要がある。

 そうして、みんなと探索を続けたのじゃが、わしの予想通り何かが見つかったみたいじゃな。


「何だこの石像……またサメだ」


 彩華が見つけた石像は2つ並んだもので、それぞれ全高15mはある非常に大きいものじゃった。

 それこそ、メガロドンが目の前にいるかのような威圧感がある。

 左には不定形で雲のような物体に睨みつけるような眼がついており、その雲の下に教会で見たサメとカニ以外の生物が隣の石像に向かって吠えている造形。

 右は対照的で、鮫神様にも似た神々しい女性の背後にサメとカニが並んでおる造形じゃな。

 2つの石像はお互いに睨み合っているというか、対抗しあっているようにも見える。

 まるで神話における神々の黄昏ラグナロックじゃ。

 とはいえ、なぜこのような場所に石像があるかの究明は専門家に任せるしかないんじゃろうな。


「ここに来て女神の顔を拝まされることになるなんてな……」

「へぇ、アールル・エンシェルは今こういう姿なのね。覚えておくわ」

「鮫神様の石像、神々しいのう」

 

 とりあえず、もしもの時のために写真に残しておいたぞい。

 相変わらず、鮫神像にはサメがいるからか、セレデリナとのツーショットになったのじゃが。

 そんな修学旅行のようなムードになっていた所、聞き覚えのあるあの声が響いてきたぞい。


「シャーチシャチシャチ!」

「そ、その声は!?」


 それからすぐ、鯱一郎が海から飛び上がってきたのじゃ。

 正直会いたくなかったのじゃが、そもそもこやつを追いかけてここまで来た以上諦めて戦うしかないのう。


「お前ら、よくも俺特製異世界鯱剣豪いせかいしゃちけんごうたるセイバーフィッシュ(シャチ)を殺したシャチね! 結構気に入ってたんだからなシャチ!」

「自分を殺しにかかってきたクリーチャーを倒して何が悪いんだよ!」

「シャチ憲法的には自己防衛もアウトなんだシャチ!」

「ただの俺ルールだろそれ!」


 シャチ憲法、そういえば昔から困ったら自我を通すために使っておる言葉じゃったのう。

 異世界に来たところで人は本質的に変わることなどできんのじゃな。

 

「それよりも、セレデリナ・セレデーナが何故ここにいるんだシャチ……あの劣勢でクワレンヌ・エッサーを倒したとでも言うのかシャチ!?」

「ええ、サメの力があればシャチなんて弱小生物よ。それに、本物の力は何一つ再現できてなかったわ」

「俺の研究を侮辱するのは許さんシャチよ!」


 そんな鯱一郎本人は、計算を外したからか頭を抱えておる。

 この顔は意外に見れるもんじゃないぞい!

 ……といったところで、彩華から何か話があるみたいじゃ。

 ちゃんと聞いてやらねばなるまい。


「鮫沢博士、俺はどうしたらいい? 今のところサメはこのペンライトセイバーしかない」


 ほう、ここで判断をわしに委ねるとは成長したもんじゃ。

 

「何やかんやペンライト自体現代機器が元なだけあって、今すぐにそれより優れたサメを造るのは難しいのう。じゃが、お前さんも戦う覚悟がついてきたようじゃな」

「生き残るのも大事だが、こいつらを倒さないと元の世界にも帰れないんだ。そうなれば当然ライブにも行けない。なら、やることはシャチ漁だろ?」

「うむ、一緒に奴をオナワザメにしてやるのじゃ」

「オ、オナワザメ!?」


 さて、こちらの準備はバッチリじゃ。

 鯱二郎の方はまだかのう。


「レディオルカースエンシャチトルメン! 今宵はお待ちかね、俺の造った最強のシャチ魔獣を見せる時が来たシャチ!」


 おお、ついに来るようじゃ!

 ……シャチを纏っているせいか、じわじわとシャチそのものに期待を寄せてしまうのは辛いのう。

 

「さあ、鯱二郎よ、出番シャッチ」


 そして、鯱一郎が叫んですぐに海からシャチらしき巨大な魔獣が飛び上がってきたのじゃ。

 身体中に点で紡がれた線が刻まれ、その全ての点から常に青い光が放たれている。

 そのシャチ魔獣は、大きさにして15mはある巨大な怪物だったのじゃ! 当然、頭部に鯱二郎が跨っておる!


「これぞ俺の異世界シャチ最高傑作! リヴァイサンとシャチを掛け合わせた究極にして至高のシャチ魔獣! "オルカ・リヴァイア"だシャチィ! 〈サラムトロス・キャンセラー〉は当然搭載! この世界では無敵のシャチなんだシャチ!」

「オールカッカッカ! 鮫沢悠一ィ、ここがお前の墓場オルカ!」

「SYAAAAACHI!!!!」

「あーもう、また変なシャチがきやがったな!?」


 確かに変なシャチじゃな。

 しかし、それがどれだけ脅威じゃろうと、わしにはサメの力を持つ仲間達がおる。


「魔獣っていうなら〈ビーストマーダー〉である私におまかせね。2人揃ってオナワザメよ」

「セレデリナまで!? オナワザメってなんだよ本当に……」

「ん、お縄についてもらってその後サメで拷問って意味だと思っているのだけれど」

「そういうことじゃ」

「はいはい、殺さないように言われてるからオナワザメは正しいのかもな」


 本当に、頼もしいわい。


「そうなると、わしに鯱一郎を倒す権利を譲ってくれるわけなんじゃな。弟の方は特に恨みも無く殴り甲斐がないから嬉しいのう」

「ええ、存分にやっちゃいなさい」


 こうして、わしは鯱一郎と一騎打ち、セレデリナは鯱二郎と乗り物のシャチ魔獣討伐で別れたのじゃ。

 いやぁ、暴力沙汰は暴力でしか解決できないとはよく言ったものじゃわい。

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