第20鮫 キャプテン・サメリカ ファーストサメンジャー
「おい、またさっきの足音が聞こえてくるんだが……大量に」
しかも、彩華がそう言うように、ガシィン ガシィン とまた機械の駆動音が聞こえてきたのじゃ。
ガシィン ガシィン ガシィン ガシィン ガシィン ガシィン ガシィン ガシィン ガシィン ガシィン
更に続いて、駆動音はいくつも重なって聞こえ、穴の中に絶え間なく鳴り響く。
「あー、なんとなくこのパターン読めたぞ」
彩華の予想は当たり、目の前には何十機ものシャーチネーターが階段にぎゅうぎゅう詰めになって現れたのじゃ。
中には家に出てくるあの黒い虫の如く、壁に這い寄っているモノまでいる。
「「「「「モクヒョウ、サメザワ。コロス。コロス」」」」」
「お、多すぎるぞい!」
しかし、わしが狙いとは鯱一郎もこの短時間に調整を終わらせたということじゃろうか。
それなら、彩華達を巻き込まないように立ち回るべきじゃ。
これ以上の迷惑はかけたくないからのう。
「彩華は制限時間があり、セレデリナはまだサメになる条件がわかっていない以上こいつらはわしが倒すのがよさそうじゃわい。わしの活躍、サメ船に乗ったつもりで安心して見届けてくれると嬉しいぞい!」
「お前が消えて喜ぶ者、多そうだな」
「おじいさん、頑張ってね」
こうして、わしとシャーチネーター軍団の戦いが始まったのじゃ。
さっきのは牽制に過ぎんじゃろうから、ここからが本番じゃぞい。
「この辺りが良さそうじゃな」
それからすぐ、わしは岩壁に触れた。
そして、掴みながら、まるっと削り取って手に取ったのじゃ。
それは、半径三平方メートルの円盤型に整い、まさしく巨大な盾になったぞい。
更に、その盾は、表面に紅白色の円が交互に重なったようなデザインで、中央にサメのエンブレムを刻んでおるヒーローチックな感じに仕上がりに! 見た目のかっこよさもサメの華じゃ!
「異世界サメ9号"サメラニウム"じゃ! シャチ共にサメリカのエラを感じさせてやるぞい」
わしがそう叫び、盾を前に構えた直後にシャーチネーターは銃弾の雨を浴びせてきたのじゃ。
無論、サメの遺伝子を得た岩は銃弾ごときでは傷つかん。
しっかし、この世界に銃が普及している様子はないんじゃが、鯱一郎は銃弾の複製にでも成功したんじゃろうか。
そして、銃弾の雨が止んだその一瞬、今なら行けると確信し盾をフリスビーのように投げようとしたのじゃ。
「いや、これめっちゃくちゃ重いぞい……」
じゃが、軽く見積っても34㎏はあることに気が付き、そんなもの投げたらギックリ腰でそのまま死ぬ未来が見えた。
なので、恐怖のあまり作戦を切り替え、サメラニウムに追加で〈シャークゲージ〉を注入したのじゃ。
すると、サメラニウムだった岩はスライムの如き粘液状になりわしの体にまとわりついていく。
そして、岩は鎧のような形に造形されていき、わしの体は……シャープな線が強く鋭い刃のようなボディ! サメのかっこよさの象徴たる背ビレをあえて2本ずつアキレス腱の裏に生やしたスタイリッシュな脚部! その刃渡りは34cm、悪を切り裂く右手の鉤爪! 殴打にも転用可能、シンプルに人と同じ形をした左手! 頭部はそのまんまサメ! なシャークアーマーを着込んだ姿に変わったのじゃ!
「異世界サメ10号"アーマードシャーク・ロックフレームプロト"!」
「鮫沢博士がヒーロースーツを!?」
「ここから先は本格的に自衛せんと流れ弾を食らうぞい、注意するんじゃ!」
「魔法でも弾は溶かせるのよ、それぐらいは任せなさい!」
こうして、わしはサメなヒーロー姿になり、銃弾の雨の中でシャチ共に向かって走っていったのじゃ。
当然、この鎧は銃弾など通さないダイヤモンド――いや、サメヤモンド並の硬さでかすり傷一つ受けとらんぞ。
じゃがこの鎧は重く、走った場合ギックリ腰が来てシャレにならん。
故に、ものっそいゆっくりと牛歩ならぬ鮫歩で移動じゃ。
「見た目に反してすげぇのっそり歩くな……」
「技術屋の実情のわからん素人は黙っておれ!」
それに、作戦ならあるんじゃ。
さあ、ついにシャーチネーター軍団の目の前には来たぞい。
わしは叫びながら、目の前のシャーチネーターに向かって鉤爪を振り下ろしたのじゃ。
「シャークロー!」
スバッシャーク!
「グワシャーチ!」
気持ちのいい音をあげよるのう。
結果、その斬撃によってシャーチネーターの体はバラバラに斬り裂れその場で倒れた。
どうにもAIのルーチンとしてわしを狙って殺すように設計が為されておるのかわししか攻撃対象は存在せんようで、この作戦は効率が良さそうじゃわい。
「わしへの対抗心が仇になったのう、鯱一郎や」
そして、倒した1機のシャーチネーターに鉤爪の無い左腕で全力のストレートパンチをかましたのじゃ。
「どんな優秀なAIを積んでいる機械も、壊れれば命を持たないも同然……つまりはシャチだってサメにできるのじゃ」
振りかぶった左腕はシャーチネーターの内部にまで突き刺さり、そのまま左手だけ鎧のサメを解除した。
シャチの体内で石がバラバラと崩れる感覚が腕に強く響いたぞい。
そして、勢いを崩さずシャーチネーターにサメ遺伝子を注入じゃ。
「うむ、シャチの力、サメによく馴染むのう」
シャーチネーターはわしの左手を起点に、固まる寸前のはんだのように銀色の粘液と化しわしを覆う。
もちろん、サメパワーを得たシャーチネーターが元になった液体じゃから、銃弾など通しやせん。
わしを覆う液体はジワジワと岩の鎧を取り除いていき、左手の位置から排出していく。
少し時間をかけながらも、液体は個体となり、先程まで着ていた鎧に似た造形を型っていき、その姿を現す。
左半身が黒、右半身でグレーな左右非対称カラーリング! 加えて右目にはグレー、左目に黒色の丸いアイラインの入っている! その装甲の硬さは岩のサメをも超える! まさしくサメでシャチな鎧になったのじゃ!
「異世界サメ11号! シャチとサメがひとつになって、生まれいでる黒銀の鎧! "アーマードシャーク・オルカナイト"じゃ!」
しかし考えてみると、この世界でここまでディティールの凝った鎧を造るなら、ちょっとやそっとの鉄鋼類だけでは不可能じゃわい。今回ばかりはシャチ万歳といったところじゃ。
……おっと、頭をシャチに取り込まれるところじゃった。危ない危ない。
「シャチ、トリコム。ボウトクテキコウイ。ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ」
「今更そう言っても遅いわい!」
どうやらシャーチネーターは妙に軽い材質の鉄を使っておるようで、さっきの岩の鎧より軽やかに走れるわい。
それもそのはず、夏の軽装ぐらいには体が快適じゃった。
この軽さなら、走ってもぎっくり腰は怖くない。わしは、シャーチネーター集団に突っ走っていったのじゃ。
ズバババババッシャーク!
両手が鉤爪な上には身体が軽い。
それ故に右手で1機を斬り裂いてる間に左手でもう1機斬り裂くのも容易。
また1機、また1機と両手の鉤爪でシャーチネーター共を破壊していき、ものの1分でシャーチネーター軍団は全滅したのじゃ。
ホッホッホ、オートマシンのコンペで競い合い、わしのS-340を負かした時にゲラゲラ笑っていたあの時のやり返しができるとは異世界に来てみるのも悪くないのう!
「
「カナラズ、モドッテ、クルシャチ」
やはり、シャチなどサメの力の前では無力じゃ!
ん、でも素材はシャチを使っておって……細かいことはいいんじゃよ!
「おじいさんの造ったサメの中で一番カッコイイのを見れたわね!」
「鮫沢博士、サラムトロスに来てから一番楽しそうにしてるな……」
それからも、シャーチネーター軍団が幾度も襲撃してきたぞい。
じゃが、わしの鎧にかかればちょろいもんじゃわい。
「シャーチシャチシャチ! 弱すぎるぞーい!!!!!」
「乗っ取られてるじゃねーか!」
「き、気のせいじゃ」
そんなわけで、ついにゴール地点と思わしき扉の前に着いたのじゃ。
階段は本当に長く、最終的には30分近く歩かされて普通に体力を持っていかれたのう。
と言っても、もう立てなさそうでバテておる彩華の方が気になるが。
わしは元より、セレデリナなんてピンピンしておるというのに。
「待ってくれ……ハァ、ハァ、ちょっとここで扉を開けないで休憩にしようぜ……」
「これじゃから最近の若もんは。ちゃんと毎日運動するんじゃ」
「言われてみると歳にしては体格いいよな鮫沢博士。それじゃあ、肝に免じておくよ」
じゃが、少し会話しているうちに彩華も決心がついたようじゃ。
そして、休憩を取ることなく皆で鯱一郎がいると思わしき部屋の扉を皆で開けたのじゃった。
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