第19鮫 天使にサメソングを

 こうして、問題の廃教会前にたどり着いたのじゃ。

 妙に人気の無い路地裏で居心地が悪いのう。

 廃教会付近は川外れで豪雨に晒されておらんのじゃが、それでもパラパラ雨な程度には雨が降っておる。


「何となく予想はついてたが、治安の悪そうな場所にあるな……」

「いろいろごたごたしてて、戦後から都市開発が進んでなかった地域だからしょうがないわ」

「1000年近く都市開発が放置される区域が繁華街のすぐ近くにあるとは、流石異世界じゃな」


 そうやってダラダラ喋りながらも、廃教会に入ったのじゃ。

 なお、異世界の教会となるとどういうものなのか彩華はワクワクしている様子じゃった。

 じゃが、実際に視界に入ったものは……鬼のような風貌の人間がシャチに丸呑みにされている彫刻、大きな蜘蛛の糸に巻き付けられ今にも捕食されそうになっている鳥人と蜘蛛の彫刻、ゾウに踏みつけられ内蔵がとび出ている爬虫類顔の人の彫刻……etc.

 そこは教会というより、様々な生き物が巨大化し人間を襲っている彫刻が何十と並ぶ禍々しい雰囲気の博物館のような場所じゃった。

 

「シャチに限らず、見たことの無い怪物ばっかりね……見てるだけで吐きそうだわ」

「なんだよこれ……サラムトロスの教会ってこんなのばっかりなのか?」

「いや、それだけはないはずよ。少なくともフレヒカにある代表的な宗教はどれもこんな悪趣味な博物館なんて作るはずがないもの」


 しかしじゃ、1つだけ全く違う雰囲気の彫刻があった。

 それは、巨大なサメとカニが人々を背にして何かと戦っている彫刻で、非常に綺麗なものに見えたのじゃ。

 よりにもよってその中にサメが選ばれているとは嬉しい限りじゃわい。


「おお、サメじゃぞサメ! サメとその他が人々を守っておるぞ!」

「確かに、これは鮫沢博士が好きそうな彫刻だな」


 モノの価値がわからんやつは本当にわからんのじゃなぁ。


「すっごい! サメじゃないこれ! あ、アレアレ、写真に残したいわ」


 ただ、セレデリナにはとても好評みたいで、タブレットのカメラ機能で彼女とサメとその他の彫刻を撮影した。


「推しのPOPとツーショットを撮るのは楽しいから、こればかりは何も言えない」



***


 それから、本格的に教会を探索したのじゃが、何かの非常用なのか壁に巻かれた縄が掛けてあるのが気になったぞい。


「おお、こんな所に縄が。ツイてるのう」

「盗難じゃないのかそれ……何回目だなんだよ怪盗沢博士かいとうざわはかせ?」

「ま、まだ4回目じゃ!」

「常習犯じゃねぇかよ……」


 何がともあれ、いろいろと使えそうじゃし回収しておいたぞい。

 そして、引き続き探索をしておると、部屋の一番奥で大きな穴を発見したのじゃ。

 

「この穴、どう見ても怪しいのう」

「行方不明になった調査隊員はクワレンヌ・エッサーだけじゃなくて考古学者もいたはず。彼らはこういう穴を好むって話はよく聞くわね、そう考えると、この先に行ったのが原因で行方不明……というのが自然なんじゃない?」

「すごい名前だなその人」


 ふむ、悪くない推理じゃ、信じるに値するというもの。


「それなら、この穴を潜っていくいこうかのう」

「ここまで怪しい穴、逆に通らない方が失礼な気がするしなぁ」

「私も賛成ね」


 ということで、わしらはこの怪しい穴を潜って行ったのじゃ。



***


「うわっ真っ暗!?」


 穴の中は光が通っておらず、暗黒の世界とも言えるほど黒一色じゃった。

 こういう時はたいまつや現代機器だと懐中電灯が欲しくなるんじゃが、緊急すぎて誰も持っておらんという不測の事態が起きたのじゃ。

 しかし、彩華がこんな時のためのひみつ道具を取り出し状況は一変する。


「ふっふっふ、こういう時のために俺はペンライトを常に携帯しているのさ! 筒を外してからライトをつけると……ほら、このとおり!」


 彼の言う通り、筒を外したペンライトの光はまるで懐中電灯のように辺りを照らしたのじゃ。

 懐中電灯ほどの見えやすさとは言い難いが、ないよりはよっぽどマシじゃろう。

 しっかし、筒を外しただけでは剣の媒介にしか見えんかったようなわしにはないペンライトセンスじゃのう。

 そうして穴を潜っていったのじゃが、その先はとても長い階段じゃった。

 構造もとてもシンプルなもので、ただただ下へと降りるだけの一本道に見える。


「いざ潜ってみれば、シンプルですぐに飽きちゃいそうな階段ね……」


 それもそのはず、単調な一本道の階段を延々と降りるだけというのは皆退屈で、雑談混じりの会話が増えてきたのじゃ。


「ねぇ、私がサメになった時、視界の左上辺りに数字がカウントダウンされていたんだけどおじいさんは何か知ってたりするかしら?」

「そういえば俺も同じようなカウントダウンが見えていたな」


 なんと、そんな共通点があったとは。

 ひとまず、わしとしてもその話に疑問がある。整理しておこう。


「うーん、例えばどういう数字からカウントダウンが始まった覚えておるかのう?」

「「3分40秒」」

「なるほどのう。ちなみに2人とも残り時間がいくらぐらいで止まったのじゃ?」

「カウント通りなら後2分半といった所ね」

「俺も2分半だな」


 となると、セレデリナのサメ変身能力にも彩華とほぼ同じ鮫因果律による時間制限があることは間違いない。

 この共通点から考えると、セレデリナもまた鮫の乗り手シャーク・ライダーであると見るべきじゃが、それならわしが作ったサメエナの効果そのものが変わるはずじゃ。

 ならば、鮫の乗り手シャーク・ライダーとサメ変身能力は近しいがまた違うものが根源にあると考えるべきじゃろう。

 しかし、現状では確信に至るための判断材料がない、今は2人を安心させてやることを意識すべきじゃな。


「正直、今の段階じゃとわしにもわからん事が多い。じゃが、セレデリナもまた制限時間がある分強力なサメになれると思っておけば良いじゃろう」

「それもそうね。ただ、正しい変身方法も見つけないといけないけど」

「鮫沢博士でも分からないことがあるのはなんか不安だな……」



***


 しばらくワイワイガヤガヤしながら階段を降りていったのじゃが、突然物音が聞こえてきたのじゃ。


 ガシィン ガシィン


 機械の駆動音にも聞こえてくるのう。


「なんの音かしら?」


 彩華も気付いたのか、足元のペンライトの光を奥の方へと向けた。


「何がいようと警戒して進んで行くに越したことはない、ひとまず光を当てるぞ」


 すると、そこには全身が鋼鉄で出来ており、形は人と同じようで両手がガトリングめいて回転させることで連続して銃弾を放つ造形になっている。顔は白と黒を混ざり合わせた陰陽やパンダを連想するカラーリングの、サメにも似ているが……明らかにサメではない哺乳類の顔、つまり、シャチの顔とカラーリングが施された人型殺戮ロボットがいたのじゃ!


「なんじゃこりゃあああああああ」

「シャチじゃな」

「いや、冷静に答えられても……」


 これは見た事があるわい。

 そもそも鯱一郎はドローン並びにオートマシン産業における競争でわしに勝利しており、シャチをモチーフにして様々な軍用オートマシンを造っておる。

 このオートマシンはその中でも最高傑作と言われ、日本の歩兵戦力に革命を起こした名作……その名も。


「シャーチネーターじゃ」

「お前らの界隈は本当に映画ネタ好きだな!?」

「あれはもしかして、おじいさん達の世界における魔獣のようなものなの?」

「戦争のために生まれた兵器という点で見れば同じようなものじゃな」


 よりにもよって、日本の軍事兵器を異世界に持ち出してくるとは性格の悪い男じゃわい。


「あー、こっちに気付いたみたいよ?」


 おっと、何も考えずべらべら話していたらそうなるのは当然じゃな。

 シャーチネーターは両腕のガトリングを駆動させ、わしらに射撃を始めたのじゃ。


「セカンド・アイレイ!」


 じゃが、発砲と同時にセレデリナはわしらの前に立ち、アイから光線を出したのじゃ。

 こちらに降り掛かる銃弾を全て溶かし、シャーチネーターはそれに直撃。

 脅威はすぐ様に去ったと思ったのじゃが……。


「シャチニマホウハツウジナイシャチ」


 シャーチネーターはまるで魔法によるダメージを受けておらんかった。

 こんな人型オートマシンにまで〈サラムトロス・キャンセラー〉とやらが搭載されておるとは、中々に厄介じゃ。

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