第17鮫 シャークロップス

「待って待って、どういうこと!? なんで私サメになってるの!? しかも眼に限ってちゃんと単眼なのも意味がわからない! そもそも、私はサメが推しなのであって私自身がサメになるのは解釈と違うわ!」


 1人で叫んでも答えは出てこない。

 考え付くことがあるとすれば、あのサメエナに実はサメへ変身する作用があると解釈するのが今一番有力な推理になるだろうが、それならおじいさんの方でなにか注意があったはずで、確信には至れない。

 だけど、サメがこの世界に本来いないのならば、シャチと同じ土俵に立って戦える好機であると見るべき。

 今は深いことを考えなくていい。

 視界に3分40秒からカウントダウンされたタイマーが見えるのが気になるが、この姿でいられる制限時間だと考え、急いでクワレンヌ・エッサーを倒すことにした。


「……シャチィ……シャチィ」


 先程の投げ技から立ち上がった彼女は、また剣を取る。

 そのまま私に向かって振りかぶってきたが、水没した地面に潜り込んで避けることに成功した。

 次は、私が反撃する番だ。


「セカンド・アイレイ!」


 水中に潜む単眼のサメは、その大きなアイから光線を発射した。

 狙いは脚部だ。脚を奪ってしまえば、あとはサメの餌なのだから。


「シャチィ!?」


 魔法が効かないからと油断したのか、彼女は避けようとはしなかった。

 だが、サメアイから放たれる光線は見事に彼女の脚を焼き尽くし、消し去る。


「残念、今の私はサメよ! わ!」


 どうして私がサメになったのかは分からないが、チャンスは全部生かすしかない。

 それに、あとはとどめを刺すだけだ。

 左腕に加えて脚を失い上半身だけのクワレンヌ・エッサーは当然自重を持たせられず、水没する。

 すかさず私は彼女に向かって前進し、反り返っていてしなやかに見える鱗の性質(つまり鮫肌)は水中での速度を加速させ、一瞬で肉薄した。

 しかし、ただでやられるような〈ビーストマーダー〉などおらず、彼女も当然その1人だ。

 まるで右腕以外の四肢を失った痛みなど感じていないかのように、水中でも剣を握り応戦する姿勢を取っている。


「うおおおおおおおおおお!!!!」


 私は勢いにまかせて彼女の両腕を掴み、サメ特有の怪力でそのまま腕を水底に叩きつけた。

 その衝撃で武器を手放したのも確認すれば、自由を奪ったこの瞬間を逃さずに大きく口を開け、顔から一気に丸呑みにする。

 そこから、ガブッと全身を噛み砕いて咀嚼。

 昨日の映画で見たサメのように、彼女を味わってやった。

 

「お、美味しかった……」


 こうして、私はシャチと化したクワレンヌ・エッサーに勝利した。

 とはいえ、思ったよりあっさりした勝負になったのは違和感が強い。

 剣術も読みやすかった上に、何よりもあの時は油断しているような動作でセカンド・アイレイを避けなかった。

 彼女程の猛者がそのような油断をするとは考えられず、やはり死体とシャチを混ぜ込んで無理やり動かしてるだけだったと見るべきだろう。

 しかし……これでまたフレヒカ1位の〈ビーストマーダー〉に戻ったのに、嬉しいという気持ちが湧いてこない。

 やはり、私という人間が空虚だという事実からは逃れられないのだろうか。


「あれっ、戻ってるわ」


 話は変わり、戦いが終わると、サメになっていた私の姿は服や手荷物も含めて元に戻った。

 まだあのタイマーは2分半程残っていたのだが、脅威が去れば変身は解除されるということだろうか。

 私は、ひとまず戦いが終わったと大きくため息をついた。


「ん? あれって!」


 直後、おじいさん達が私の前に近づいてきている姿が視界に映る。

 どうやら2人共、目立った怪我は無さそうで安心だ。



***

SIDE:鮫沢博士

***

 

 鯱二郎とソードフィッシュ(シャチ)を退けたわしらは、二人三脚になりながらも上手く建物などを遮蔽物にしながら空から降るシャチを避け、セレデリナの元へと向かっていたのじゃ。

 流石にあの位置からは離れているじゃろうが、付近にはいるはずじゃ。

 現状に鑑みながらあたりを付けた場所を見渡していた所、そこにはセレデリナの単眼に似た大きな眼を持ち、人の肉体と四肢が生えたサメを見つけたのじゃ。

 こ、これは奇跡じゃ! 鮫神様の祝福じゃ!


「おい彩華、アレを見るんじゃ! サメじゃぞ! サメがいないはずのこの世界に単眼のまさしく異世界サメがいるぞ!」

「え、そんなはず……って本当だ!」

「興奮していたら酔いが消え去ったわい。走るぞ彩華!」


 興奮のあまり、2人ではしゃぎならサメの元へと走っていったのじゃが、その途中で問題は起きた。

 問題のサメが青白く全身を発光させ……セレデリナになったのじゃ。


「そんな……嘘じゃろ……」


 いや、落ち着くのじゃ。

 セレデリナは自分がサメであることを隠して生きてきた神秘的サメという可能性がある。

 会話をしていれば自ずと答えは見えてくるじゃろう。


「ね、ねぇ、おじいさん……あのサメエナに変身作用とかってあったりするのかしら……?」

「鮫沢博士、やっぱりあんた……」


 いや、悲しいが話の内容から察するにセレデリナがこの世界に元から居たサメということは無さそうじゃな。

 とはいえ、いろいろと纏まらないので具体的に何があったのかの確認を取るべきじゃろう。

 セレデリナに鯱一郎との戦いで何があったのかをしっかりと聞き、こちらも鯱二郎との戦いで起きた話をまとめて伝えた。

 

「「かくかくしかじか!」」

「そ、そんなことが!? 鯱一郎には逃げられたとはいえ、例のクワレンヌにも勝てて今生きてるならそれで充分と見るべきだな。サメになった件については不安が募るばかりだが」

「〈サラムトロス・キャンセラー〉……鯱一郎め、厄介な技術を生み出しよったのう」

「彩華にそんな力があったなんて、何か安心してきたわ」


 さて、状況整理をした訳じゃが、おかげである程度推理は整った。

 せっかくじゃ、このまま今分かることをまとめて話しておこう。


「セレデリナや、ひとまずわしの話を聞いてほしいのじゃ」

「ええ、わかったわ」

「その言い方だと、今回ばかりは鮫沢博士にもちゃんとした言い分がありそうだな」

「うむ。正直この世界に来てからサメを造るだけでも想定外のことが沢山起きておる。まず、サメエナはわしの世界のヒト種の為のものであって、それ以外の種族に同じ効果を与えるわけではないという事は理解して欲しい」

「じゃあ、私はヒト種じゃなくて長耳単眼種だから異常が起きたってこと……?」

「それが、わしの推理になるのう。ただ、何がどうあれ、サメになる能力を得たというは事実じゃ」


 また変身できるかは分からんが、サメが仲間にいるも同然。ある意味、わしにとっては全てプラスと言っても過言ではない。

 正直な話をすると、セレデリナがサメ変身能力を得た現象を境にサラムトロスの人々にサメ薬品を投与して実験もしたいという感情も少々発生してしまっている。

 ただ、この部門に関しては人体実験になる上に反倫理的すぎて最終的に国に援助して貰えない貧乏科学者になりかねない。

 美味しいものを食べたい! 良いお酒も沢山飲みたい! その人間的欲望に従うためにも、一旦はサメ製のモノをサラムトロス人の体に入れることはないから安心して欲しいぞい。


「とは言っても、サメにならないとシャチに対抗できないのよね、サメに変身する条件は急いで見つけるわ」

「セレデリナがそう受け止めるなら、鮫沢博士を責める理由もないな」


 こうして、セレデリナとの合流も状況整理も済んだ。

 そして、次はこのシャーチネードに対してどう立ち回るべきかの話になってきたのじゃが、そんなわしらの前に空から何かが降臨するように着地したのじゃ。

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