第15鮫 SAMERO
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SIDE:鮫川彩華
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鮫沢博士は俺の大切なペンライトを原型がないぐらいに改造してしまった。
おそらく、サメについて何か思い浮かんだ瞬間にあらゆる制御が効かなくなるのだろう。
そういう意味では倫理観も怪しい、ただただ信用できない人物なことだけが浮き彫りになっていく。
けど、それでもこの現状で生き残るには鮫沢博士を信じ、俺自身もまた彼の期待に応えて戦うしかない。
そう考えながら、あのシャチへ向かって走る。
「……」
正直に言えば怖い。何せ俺は凡人だ。
ハイテクな武器を持ったところで剣の道などに縁はなく、適切に扱える自信もない。
しかも、この剣を持ってから俺の視界の左上辺りにカウントダウンしていく数字が見える。
3分40秒から始まったが、これはこの武器を使える制限時間なのだろうか。
凡人なだけに飽き足らず、武器にまでこういう制限まで付いてるのは嫌な状況だ。
「クソ、シャチが来やがった!」
敵へと向かって走る途中、目の前にシャチが降ってきた。
噛みつかれるのが怖くてかとっさに手が動く。
すると、俺のペンライトだったモノは、ブォォォン! と音を立て、シャチを真っ二つに斬り伏せた。
「せめて死なないぐらいの結果は残せそうな武器だな!」
……何となくだが、この武器を扱いこなせる気がしてきた。
そして、あっという間にソードフィッシュ(シャチ)へ刃のリーチまで接近。
走る勢いのまま、俺は剣を縦に振りかぶった。
「サムライ相手に接近戦を仕掛けるとは愚かそのものオルカ! 死ねぇオルカ!」
鯱二郎がそう言い返すとソードフィッシュ(シャチ)は刀を振るい、俺の剣を弾き返した。
サムライ……彼がそう言うように、このシャチの剣術は相当なものだろう。
そして、こちらの剣を弾き返したシャチは、流れるように斬りかかってきた。
いつもの俺ならここでお陀仏だろう。
たが、今日の俺にはサメがついている。
その自信に答えてくれたかのごとく、剣の方から俺の脳にどう反撃したらいいのか指示が伝ってきたのだ。
おかげで、俺はその指示に従うがままに相手の刀を切り払うことに成功した。
これもこの剣の機能なのだろうか、それなら嬉しい限りだ!
「なぜだか分からないが使い方がわかる。これはどういうことだ!?」
「あのハゲなら変な機能を仕込みかねないオルカ……厄介オルカねぇ」
そうして、次の反撃として横に剣を振った。
もちろん向こうの刃で防がれたが、これも悪くない勝負になっている。
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SIDE:鮫沢博士
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このBARの名前は『ミートネード』と言うみたいじゃな。
繁華街に行く途中、セレデリナが行く予定だと言っておった店名に似ておるが今は気にしている場合ではない。
急ぐ中BARを見渡すと、四つ腕の筋肉質な巨漢がカウンター前に立ち片っ端から陳列されている酒を飲んでいる光景が目に入った。
「ギャーハッハッハ! どうせ死ぬなら飲みたかったあの酒もこの酒もゴウ・ユー様が飲み放題してやるぜぇ!」
楽しそうでなによりじゃな。状況が状況でなければ混ざりたかったぞい。
じゃが、今はその酒が必要なのじゃ。
「すまん、お前さんの酒を半分ほど譲ってくれんか?」
「なんだジジイ? 俺と同じ考えなら早い者勝ちだ。俺を倒さない限り酒は寄越さんぞ!」
面倒臭い奴じゃのう。まだまだ酔いは覚めないもののピークが過ぎたのか多少のサメなら造れそうじゃ、暴力で奪い取ってやろう。
そうして、わしはふと閃くとBARの壁に飾ってあった槍を取り出し、巨漢相手に投げつけたのじゃ。
「げ、このジジイめちゃくちゃ好戦的だ!」
その槍は、回転しながら刃がサメの顔になり、巨漢の肩に噛み付いたのじゃ。
「異世界サメ6号"サメ・ボルグ"!」
「ぎゃああああああああああああ!!!!」
巨漢が痛みに悶絶しておる隙に、残っていた酒を片っ端から回収し両手で抱き締めるように抱えたぞい。
そう、今の酔った状況だからこそ造れるサメがあるのじゃ。
「さあ、落ち着いて、冷静に今から作るサメをイメージするぞい」
わしは今の今まで、集中力が下がるからと酒そのものはサメに出来ないと勘違いしておった。
じゃが、それは間違いじゃった。
今だからこそ造れる、唯一無二のサメがあるのじゃから。
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SIDE:鮫川彩華
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あれからも剣戟は続き、向こうの刃が通らない分、こちらの刃もまた一切通らない。
「オールカッカッカ! 確かにソードフィッシュ(シャチ)の攻撃に喰らいつけているようだオルカが、お前は所詮剣の道では素人筋で棒を振っているだけオルカ。その差はどうあっても埋められないオルカよ!」
「こちとら死にたくない一心なんだよ。剣の道なんて今更指摘された所でどうしようもねぇ!」
幾度となく剣を振りかぶり、それを切り払って反撃する。その繰り返しだ。
ここで一撃でも与えられるなら勝算が見えてくるのだが、現実はそう甘くない。
「そろそろお前のスタミナも限界が来ているんじゃないオルカ?」
「くっ……」
そう、彼の指摘された通り、相手の剣を切り払う事に自分の体幹が崩れつつあったのだ。
このままだと、すっ転んでその隙に真っ二つにされてしまう。
駄目だ、やはり凡人の俺は真剣勝負というものに向いていない。
……そう、諦めかけていたその時だった。
「異世界サメ7号"カクテル・シャーク/
ソードフィッシュ(シャチ)の横から、ドブ水のような色合いの液体で出来た3mはあるサメが現れ噛み付いた。
「な、何だこのサメはオルカ!?」
すると、後ろからのっそのっそと鮫沢博士も歩いてこちらに向かってきた。
「片っ端から酒を混ぜ合わせたらとんでもないサメになってしまったわい」
彼が喋っている間に、噛み付かれたシャチは顔が赤くなりはじめ、呼吸が荒くなった。
なるほど、これは酒を混ぜ合わせた鮫で、噛み付いた相手を酔わせる能力があるんだな!
「不意打ちな上に毒とは卑怯オルカ!」
「予想通りの展開じゃ。彩華、その隙にシャチなんぞ殺してしまえ」
「お、おう!」
せっかく鮫沢博士が頑張ってくれたんだ。
このチャンスを逃す訳にはいかない。
今なら死なないなんて小さな目標にこだわらず、勝ちを狙える!
そう考えて行動に移そうとした時、俺は無意識のうちに剣の右スイッチを長押ししていた。
すると、剣の刃がどんどん巨大化していく……。
「な、なんだこれは!」
「いや、そんな機能はわしも知らんぞ!?」
「知らねぇのかよ!」
状況に驚いている間にも、ペンライトセイバーの刃は巨大シャチの倍程のサイズにまで大きくなっていった。
「なるほどな、俺のペンライトにはこういう使い方もある!」
「オルカカカカ、ソードフィッシュ(シャチ)が酒の酔いで咥えていた刀を落としてしまったオルカぁ!?」
……ちょうど相手も隙を見せた。
ならばと俺は、剣を振りかぶるのではなく一度後ろに走って距離をとった後、改めてソードフィッシュ(シャチ)にめがけて突いた。
すると、サメ状の刃はブォォォォォン! と大きな音を鳴らし刃そのものがソードフィッシュ(シャチ)を丸呑みするように喰らったのだ。
「こ、これはまずいオルカ!」
その攻撃に対して、鯱二郎は賢く判断したのか跨る背中から飛び上がって攻撃を回避していた。
だが、肝心のソードフィッシュ(シャチ)はペンライトセイバーの餌となり、一片も残らずこの世から消え去ったようだ。
「こんな機能まで……。あと、助けてくれてありがとう、さっきのサメはかっこよかったぜ」
今の戦いで確信できた。
確かに許せないことは増え続け言動も相まって信用しきれない人物であるが、鮫沢博士は俺にとって"唯一無二の相棒"なんだと。
俺達にしか成せないことがこの世界にあるから飛ばされてきた、そういう宿命であると。
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SIDE鮫沢博士
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……ペンライトセイバーが付けた覚えのない機能でシャチを喰らった。
もしや、彩華は触れているサメを強化する、わしにとっての
きっとそうじゃ。冷静に考えれば、凡人を自称する彩華がわしと一緒にサラムトロスへ飛ばされてきた理由としてこれ以上のものは考えられない。
遡って考えてみると、ウッド・シャークが投げてから自動的にサメになる仕組み故にその性質が発揮されていなかったなど、色々な運の流れによって今になるまでは気付ける機会もなかったんじゃ。
この事は、彩華にちゃんと伝えておくべきじゃろう。
「彩華や、お前さんは〈
すると、彼は左スイッチを長押しして刃を仕舞い、わしに返事をした。
「なるほどな、さっきの話と繋がってきた。鯱二郎の異能のサメ版って所か?」
「うむ、わしの推測では、触れているサメの力は本来の3.4倍の性能が発揮されると見ていい」
「そこまで!?」
おお、納得してくれたみたいで助かったわい。
それはそうと、〈サメ因果律〉から考えて効力に相応する制限時間があるはずじゃ。しっかり伝えてやらんとな。
「ただし、1日あたり3分40秒の制限時間があるはずじゃ。いざと言う時以外は使わんようにして欲しい」
「つまり、その僅かな時間以外は凡人のままってことか……」
「諦め時は肝心じゃぞ」
これで伝えるべきことは伝えたじゃろう。
そう油断してしまったのじゃが、話が落ち着いた途端に彩華は別に首を絞めた時からそこまで機嫌が良くなったわけではないことを表情に出し始めた。
「それはそうと、俺にとっては一番大切な元の世界の形見を盗難したことは許されないからな?」
完全に怒っておる。本気で怒っておる。めちゃくちゃ怖いぞい。
しかも、言っていることはド正論じゃ! これは、謝るしかない!
「本当に、申し訳ない」
「……ちゃんと謝ってくれたな。今回はチャラにしてやるよ」
な、何とか許されたぞい。
***
何がともあれ、鯱二郎も退けた。
ただ、カクテル・シャークを造るのに酒を使ったせいか酔いも悪化してきている。
しかし、そんなわしに対して彩華は不機嫌な溜息をつきながらもスッと肩を持ってくれたのじゃ。
「さて、武器で立ち向かう余裕もできた。セレデリナの元へ向かおうか」
「そうじゃな。敵は鯱一郎だけでなく鯱二郎までいる鯱崎兄弟じゃ、まだまだ勝負は終わらんぞい」
こうして、わしらは二人三脚状態で空から見える竜巻の位置を確認して避けつつ、逃げてきた道を戻って行った。
あ、最初から武器があるなら戦えたとか言わんで欲しいぞい。
酒の酔いで忘れていたんじゃ。
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