第3鮫 サメVSドラゴン 最強生物決定戦

 彼はその言葉を伝えながら、馬車から飛び降り火球の目の前に立った。

 よく見ると、俺のリュックサックに入っていたはずのペットボトル水を右手に持っている。

 一体何をするつもりなのだろうか。


「異世界サメ第2号、ウォーター・シャーク!」


 鮫沢博士がそう叫ぶと、右手に持っていたペットボトルが弾け、中の水が螺旋状に宙へと舞い、そのまま火球に激突した。


「一体何が起きているの!?」


 そして、火球に激突した水は本来の質量を遥かに凌駕した大きさに膨張し、炎を丸呑みにしたのだ。

 更に、もう1匹のドラゴンが追い討ちするように火球を吐き出したがそれも丸呑みにしていく。


「Gyao!?!?」

「鮫沢博士……そんなの凄かったのか……」


 だが、まだまだ鮫沢博士のサメ劇場は終わらない。


「何を言っとるんじゃ、10分の睡眠は馬鹿にならんぞい。お楽しみはこれからじゃ」


 鮫沢博士がそう言うと、ウォーター・シャークは体から水で出来た触手のようなモノを無数に出した。

 その触手でウッド・シャークに噛み付かれて気を失っている盗賊達の着ていた鎧を剥ぎ取り鮫沢博士の手元へと送っていき、流れるように盗賊達の鎧を一箇所に固め、ソレらを直接抱きしめる。

 すると、鎧だったものはひとつの鉄の塊に変質し、ウォーター・シャークもそこに吸収されていく。

 鉄の塊はすぐ様スライムのようなネバネバの粘液状になり、そのままサメを形どって……鎧から変質したサメは完成した。


 その姿は、岩を砕けるであろう鋼の歯! 悪を切り裂く背ビレ! 排気ガスらしきものを排出しているヒレ孔! 尻尾は太く、背面に飛行を想定したジェットエンジンのようなものが付いている!

 これは、全高2m大の機械で出来たサメだ!


「完成! 異世界サメ第3号"アーマード・シャーク"じゃ!」

「なんだ……それは……」


 所詮コバンザメだったウッド・シャークとも、水製のアオザメとも訳が違う。

 あらゆる生物の常識を逸脱した機械のサメだ。


「それは一体なんなの……なんていうか、かっこいい」

「おお、わしらを助けてくれた人じゃな。眠っておったが何となくは気づいておったぞい。それはそうとこのサメを見てくれんか、今からこれであのドラゴンを倒すんじゃからのう」


 サメを見つめるセレデリナは、どうにもサメそのものに感化されたかのような表情だ。

 そして、俺達へ見せつけんばかりに、鮫沢博士はアーマード・シャークの背へと跨がり、ビューン! と空へ超高速で飛んでいった。


「アイキャンフライじゃぞーい!」


 気がつけば、アーマード・シャークは5mある巨大な怪物を相手になど恐れることなくあっという間に大きな口で首筋に噛みついていた。


「Gyaoooo!?!?」


 だが、それだけではない。

 首筋に噛みついた状態の中、跨っていた鮫沢博士は腕でホールドするようにドラゴンの首を絞めだしたのだ。

 すると、アーマード・シャークは顔面から始まって、ドラゴンの体全体を

 その光景はまるで、ミンチ機に肉の塊を取り込むかのよう。

 噛み付いてからはほんの一瞬の出来事で、ドラゴンの体はアーマード・シャークの胃袋(?)へと消えていた。


「なんて化物と俺は一緒に飛ばされてきたんだ……」


 だが、ドラゴンはもう1匹残っている。

 目の前で仲間が不可解な死に方をしたことで困惑している様子も見せているものの、それでも仲間を殺されたのは事実だ。

 すぐに頭を切りかえてアーマード・シャークに襲いかかろうとした。


「本番はここからじゃぞ!」


 対し、鮫沢博士がそう叫ぶと、アーマード・シャークはシルエットだけはっきりとわかるような形で光りだしたのだ。

 そして、光のシルエットはサメの姿から一変、どんどん大きくなりドラゴンと同じ形に変質していく。

 シルエットの姿が定まると光は消え、その姿はドラゴンと瓜二つの姿! しかしてその体は鎧を着込んでいるかのように翼、胴体、爪などが鉄におおわれ、頭部はアーマード・シャークになっていたのだ!

 当然、鮫沢博士はその背に跨っている!


「Gyaoooooo!?」

「どうじゃ! 異世界サメ第4号"メタルドラゴンシャーク"!」


 「どうじゃ!」ではない。

 その前代未聞のサメを前に、俺もセレデリナも、そしてドラゴンでさえ驚きのあまり大きな口を開けたまま困惑していた。

 鮫沢博士、あんたは本当に何者なんだ。


「往くぞ! 必殺の鮫電粒子砲さめんりゅうしほうじゃ!」


 鮫沢博士がそう叫ぶと、メタルドラゴンシャークは大きく口を開けた。

 すると、その口からは海のように青く、それでいて煌びやかな粒子が散っていてる光線が発射されたのだ。

 こうして、直撃した最後のドラゴンは原子に帰るように消え去った。


「ふぅ、いい汗かいたわい」


 鮫沢博士の声が響く中、戦いを終えたメタルドラゴンシャークは地面へと着地していく。


「これが……サメなのか……」


 困惑続きの戦いがようやく終わったかと思うと、最後にメタルドラゴンシャークはボロボロと肉が削ぎ落ちていき、その姿を崩す。

 更には、体を構成していた500mlにも満たない水と盗賊達の鎧、そしてドラゴンだったのであろう大量の血液を地面にぶちまけていった。

 

「流石に10分睡眠じゃとこれが限界じゃな……また寝かしてもらうわい」


 結果、鮫沢博士がその中心で立っている状態で全てが終わる。

 だが、同時に彼の疲労も相当な模様。

 何せそれからすぐ、ドラゴンの血液にまみれて地面で眠り始めたので急いで駆けつけておんぶする羽目になったのだ。


 正直、魔法なんかよりも非現実的な力を見せられて怖いが、彼は俺と共にこの世界に飛ばされてきた縁がある以上恐怖の対象として向き合う訳には行かないだろう。

 そう思いながら、セレデリナの元へと戻って行った。

 血液から感じる鉄の臭いが不愉快極まりないが、それも我慢だ。

 こうなってくると、宿を確保して鮫沢博士を安全な環境で寝かせてやりたい所。

 であれば、ついでにせがんでおこう。


「セレデリナだったか、すまないが安い宿を知ってたりしないか?」

「私達、お互い様に命の恩人な関係よ? 断る理由はないわ。私の家にある客人用の宿泊部屋を貸してあげるから、ひとまず馬車に乗りなさい」

「ありがとう!」


 セレデリナは、妙に機嫌がいい表情で宿を提供すると答えてくれた。

 嬉しい反面、俺自身は結局何も出来ていないのだから、タイミングを見て彼女にも、鮫沢博士にも、感謝の気持ちを伝えなければ行けない気持ちもまた強くなる。

 そうして、俺達の馬車へと乗り込み、王都へ向かっていった。

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