第4鮫 ポケットがサメでいっぱい
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SIDE:鮫沢博士
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〈
わしの世界には、そう呼ばれる天才達がいる。
つまり、わしは海洋学者ではなく、本当は100年後の技術レベルで物を造り出せる天才なのじゃ。
そんなわしらの登場は突然であった。
最初は、怪奇現象のような映像が世界中に広まり、大パニックが起きた程じゃ。
しかし、各国の政府機関にその存在を捕捉され、政府の監視対象になるのも早かった。
わしらは全員、所属する国の技術発展を支援するという役割を与えられたのじゃが、結局はその技術をいきなり一般社会に浸透することで起きる問題を防ぐため、天才科学者が何かしら別の研究をしているという形で身分を隠す誤魔化しに過ぎんかったのは間違いないじゃろう。
〈
そして今のわしらは、所属国の政府に言われるがまま、100年後の技術レベルで様々な研究をしているというのが大雑把な立ち位置じゃ。
ただ、その技術が一般社会に適用されることは未だなく、軍事面以外の研究はさせてもらえない。
故に、このわしも研究に不自由が多く、バレなければ何とかなると信じ込みながら色々と不正規なサメ研究をしておるのが現状じゃ。
なお、その具体的な軍事技術となると、実はどの国も巨大な人型ロボットだったり人間を超える兵士たるアンドロイド兵団など、SFの世界でしか聞いた事のないような兵器を多数保有しているだとか、そういう話になるんじゃろうか。物騒な世の中じゃわい。
なお、この技術について補足すると、〈
好きな生物――つまりはわしにとってのサメ。
そう、サメが大好きなわしが所属する日本ならサメ、アメリカはワニ、中国はカニなど、各国の最新兵器はその学者の好みに合わせたものになっておるわけじゃ。
即ち、実は日本の最先端兵器はサメだらけ! やったわい!
B級映画の代表者という印象が強いかもしれんが、そのかっこよさは随一!
そもそも、真偽はともかくサメ映画や露骨なパクリ映画などのお得意様は日本という統計だってあるのじゃから、日本がサメ大国なのは真実じゃ!
ちなみに、わしは海洋学者じゃないように、サメの研究をしているというよりはサメを造る研究をしておる。
なんと言ってもサメの可能性は無限大なのじゃ。
例えば、ひっそり捕獲したネッシーをサメに改造したサメッシー、こいつはUMAなどサメに劣る存在だという証明にもなったぞい。学会ではそもそもネッシーの存在ごと信じてもらえなかったというオチじゃがな。
そして、サメの創造をより手軽するために生まれたのが、あの触れたものをサメにする能力なのじゃ。
原理は簡単で、左右の手のひらへナノサイズにまで圧縮したサメの遺伝子を幾兆とも言える数埋め込んであり、これを〈シャークゲージ〉と呼んでおるのじゃが、ただのサメの遺伝子ではなく、どのような姿になりどのような機能を持つのかをイメージしながら触れた物質や生物に遺伝子を注入することでサメに変質させる事ができるナノマシンならぬサメマシンと言えばわかるかのう?
ちなみに、保有限界量は決まっており、1日に造れるサメにも限度はあるのじゃが、体の機能が休まる睡眠状態時に〈シャークゲージ〉は体内で製造されるため、3時間40分眠れば容量は満タンになるんじゃぞい。
弱点は"強い命を持つモノ"……例えば動物や魚などは死体でなければサメに出来ん。
逆に、植物などは問題なくサメにできるのう。
それに、スタミナと集中力が無ければ大したサメを造ることは出来ず、それこそ寝不足や酒の飲みすぎはわしの天敵となる。
まあ、研究が楽しいので徹夜なんぞ絶対にやめるつもりはないし、酒瓶を手放す以ての外なのじゃが。
これで、わしが世界に誇るサメ科学者のユウイチ・サメザワであることがわかったじゃろう。
魔法が存在し超常現象万歳なこの世界にいる以上、ある程度慎重に行動すれば国の監視とはおさらば。
軍事兵器などにこだわらず、様々なものを自由にサメとして創造できるのは楽しみで仕方がないわい!
それはそうと、この世界でやりたい目標が2つできたので宣言しておきたい。
まず1つは、『この世界のサメについてデータを取り、様々な研究をすること』じゃな。
異世界じゃぞ? きっと陸を走るサメや空を飛ぶサメ、大きいサメに火を吐き出すサメがいると考えると楽しみで仕方がないわい。
あと、
なにせ、わしの大好物はフカヒレチャーハンとサメの刺し身じゃからな。
そして、もう1つは当然……『この世界でしか造れないサメの創造』じゃ。
〈シャークゲージ〉でたくさん造るつもりではあるが、あれじゃとどうしても造ったサメに時間制限が付いてしまう。
なので、直接サメ遺伝子を融合させるための研究施設を確保するのが第一課題になるのう。そうするにも、今後の課題は山積みじゃがな。
***
ドラゴンをメタルドラゴンシャークで屠ってから意識が飛んでいたのじゃが、気がつけば馬車の中じゃった。
そこでは彩華があの不思議な単眼の女性……セレデリナじゃったか、彼女と話をしておったのじゃ。
「ああそうだ、なんだかんだ俺の方の自己紹介がまだだったな。俺は鮫川彩華、旅人ってところだ。それもあって、この辺の常識には薄い。だから、なにか常識はずれな発言があればその時はフォローしてくれると嬉しい」
「名前からして東の国の方から来たのね。鎖国してる国からわざわざ、そりゃあ何もわからないでしょう」
「うん、そうそう、東の国東の国」
彩華は都合のいい嘘をべらべらと喋っておるな。
オレオレ詐欺の手口じゃぞそれ。
なら、そろそろわしも自己紹介と行くかのう。
「わしは鮫沢悠一じゃ、こやつと一緒に旅をしている科学者じゃな。鮫沢博士と呼ばれることもあるぞい。ちなみに旅仲間なだけで別に親子ではないのじゃ」
いい加減誤解を解いておきたいので、今の間に明言しておかんとな。
「鮫沢博士、起きてたのか……びっくりした」
「あ、親子じゃなかったの? それはごめんなさい」
「いや、別に大丈夫だ」
「それより、おじいさんみたいな魔法を使う人は見たことがないわ。詠唱どころか魔法名すら唱えないで触れたモノの変質をあそこまで容易にするなんて、異常よ異常」
どうやら、〈シャークゲージ〉は魔法に見えるようじゃな。
それについては、どこかでちゃんと説明せんとまずいかもしれんのう。
まあ、今は空気的にやめておいたほうが良いじゃろうが。
そんなことを考えていた頃には、彩華が話題を変えて雑談を続けておった。
「そういえば、セレデリナはどうしてあんなところに?」
「此処から少し遠い街でちょっとした仕事があってその帰りね。魚みたいな新種の魔獣が川に出てきたって言うからそれを私のアイレイで焼き払ってきたのよ」
「じゃあ、なんで俺たちがいた森の近くに来てたんだ?」
「その仕事で嫌なことがあって、早く家に帰りたい一心で博打打ちの道を選んだのよ。そしたら、まさかいきなり
ふむ、魚と言えば日本にはわしだけでなく、
いや、シャチは哺乳類じゃが。
あやつはわしに比べて功績が少なくよく嫉妬してきたが、異世界に来た以上は会うこともないじゃろう。
それなら、少しは気楽かもしれん。
……おっと、鯱一郎について考えておったら、2人がそろそろ話す話題を失ってきた様子じゃな。
それなら、せっかくじゃしサメについて彼女に布教してみるぞい。
「そうじゃ、わしの力の根源、サメについて教えてやろう」
「サメ! あのかっこいい怪物のことね! 知りたかったのよ!」
んんん? 興奮している様子じゃが、その言動からしてサメとは何なのかという根本的な所に理解がないように見える。
知っていることを前提にその魅力を細部から伝えてやろうと思ったのじゃが、サメそのものを知らんとなると初心者コースしかないのう。
ならここは、写真を見せてしまうのが手っ取り早いじゃろう。
どうにも興味があるようじゃ、このチャンスを逃すわけにはいかん。
「ああ、それならこういう姿じゃよ」
わしは、白衣の下のズボンに挟んで無理矢理持ち運んでいたタブレット端末を取り出して、馬の御者をしているセレデリナに3m強ある青く透き通った体色が輝かしいアオザメの写真を見せたのじゃ。車の助手席みたいな感覚じゃな。
「へぇ、魔法技術でそんな板を。東の国の技術は凄いって聞くけどそこまでなのね」
こういったモノを科学文明に縁がないかもしれん相手へいきなり見せびらかすのもどうかと思うが、今更な話じゃな。
「これが本来の姿……やっぱりかっこいいわ」
おお、感想としてはかなりの高触感じゃ。
それだけ、サメに心を惹きつけられているというわけじゃな。
これはサメ将来も明るそうなシャークセンスじゃわい。
しかし、彼女のように経験を積んだからこそ力を持っていると読めるような人物がサメを知らないことから、マイナーな魚であると考えたほうがいいかもしれんのう。
「多分この旅、サメから逃れられないんだろうな……」
なんじゃか彩華がぼやいとったが、よく聞こえんかった。
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