第8話 サメになるまでの話

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SIDE:???

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 俺はメッシー・ミート、この物語の主人公だ!

 金髪にロングストレートな髪がチャームポイントのヒト種さ!

 趣味は何かを探すことだ。これは、本当に好きで好きで堪らない。

 それで、なにかこの性格を活かせる職業はないかと悩んでいたところ、考古学者に行き着いたわけさ。

 当然、ただ考古学研究をするナードみたいな仕事じゃあねぇ!

 国の兵士として新たに発見された遺跡の調査をする誇らしく、それでいてアウトドアな仕事なわけよ。

 気分はさながらトレジャーハンターで最高! 稼ぎも上々! とまさしく天職だぜ。


 もちろん俺一人の活動じゃあない。

 部下のカンチ・サーチに、俺の彼女でありフレヒカ1位の〈ビーストマーダー〉ことクワレンヌ・エッサーを護衛に添えた3人チームでの活動がメインだ。

 クワレンヌはスタイル抜群な美人、こんな彼女と仕事まで共に出来る俺はこの世界で一番恵まれてるぜ!


 え? 何? 主人公はあの頭のおかしいジジイなんじゃないかって?

 気のせいだよ気のせい!

 それで、今日は最近王都内に〈女神教〉っていう、記録の少ない謎の組織が建てた教会の跡地に来ているんだ。

 時期的には、ジジイ共がサラムトロスに来る3日前ぐらいだな。

 お国様からは、今回はあくまで施設としての奥行きを調べるための初期調査しか任されていないが、どうせならお宝を見つけてやるつもりだっっぜ!




***


 でだ、教会はスラム街の奥にあり、外がボロボロすぎて何かの教会だって判断することは不可能な外観だったんだ。

 面白みがないと感じてすぐ中に入ったんだが、外の光が通っていて明かりを用意する程でもない薄暗さ。

 椅子が並んで教壇があったりと、部屋の作りは如何にもな教会に見える。

 だけど問題は、周囲に飾られている石造りの彫刻にあって驚いたぜ。

 その彫刻は数十個と台の上に立てられるように並んでいるんだが、どれもこれも見たことが無い生物が人を襲っているという薄気味悪い代物で、見てるだけで吐きそうになる。


「兄貴ぃ、この彫刻だけはなんか違うでげす」


 気が滅入りそうになっていたところ、カンチの奴がなにかに気づいたようで、指さす彫刻を見てみるとそれだけは本当に違った。

 大きな甲羅にハサミのような腕がカッコよく目立つ新種の甲殻類らしきモノと

 その2種の生物が人間達を背にして何かと戦っている彫刻があった。

 これに関しては、薄気味悪さも何も感じず、ただただ美しい彫刻だと心から思えたぜ。

 それから、しばらく彫刻相手に見惚れていたんだが、クワレンヌが教会の奥に人が入れるぐらい大きい穴を見つけたことで状況は切り替わる。


「メッシー、この穴がなんだと思う?」

「おお、これこれ! こういう穴を潜るのが俺たちの仕事! 王都にあるって言うのに今まで誰も存在を公にしなかった教会の奥にある洞窟……考古学者魂に火がつくってもんよ!」


 てなわけで、穴を見つけてテンションMAXになった俺は、皆を先導して穴の中へ入っていった。



***


 穴の中は岩を削って彫った一本道な人工の洞窟って感じなんだが、足場が下り階段になっていて、どこかへ通じる地下通路に見える。

 だが、これは暗すぎて何も見えやしない。

 明かりが欲しいところだぜ。


「『我が魔の力よ、探求者達を照らし給え』セカンド・ライト!」

「おお、明るくなった」


 そんな暗い道も、カンチの光源魔法が俺達を照らせば問題なしだぜ。

 おかげで、洞窟階段の全容が見えてきたんだが……。


「何か壁に文字が刻まれているということも無い……ただの階段だなこりゃ」

「私はどこまでいっても護衛で専門外だが、確かに何も無いな」


 まさかまさかの、本当に何も無い階段ってオチだった。

 とはいえ、その先に何かがあるんじゃないかと階段を降りていったんだが、本当に殺風景で正直つまらない。

 気がつけば、みんなべらべら喋り始めたぐらいには。


「なぁ、次のデートはどこに行くよ、クワレンヌ」

「今は仕事中、そういう話はまだお預けよ」

「へへ、クワレンヌはオフの時以外兄貴に厳しいでげすねぇ」



***


 それから30分ほど階段を降りる状態が続き、いつになればゴールにたどり着くやらと諦めを感じ始めた中、カンチの奴が何かに気づいたようで雑談しながら歩く俺達の足を止めやがった。

 こいつは誰よりも五感が研ぎ澄まされている。特に、音と匂いには敏感なんだ。こういう時はしっかり話を聞いておかなければならない。


「……みんな、静かにしてくれ。」

「おいおいどうした? なにか聞こえてきたのか?」

「耳を澄ましてみろ、水の音が聞こえないでげすか?。それに、潮の匂いもするでげす」


 興奮のあまり、俺はカンチの肩を叩いた。


「カンチ、それが本当ならこの先に海があるかもしれぇ。教会の地下にあるってのは不気味だが、こいつは面白いことになりそうだなぁ!」


 逸る気持ちを抑えることなどできず、俺達は先へと走っていった。


「おい、あくまで調査が目的だ! メッシー、お前はリーダーなんだからちゃんとまとめろ!」

「なーに言ってるんだ、物事は効率優先だろ? どんどん前に進んじまうのが今の最高効率だぜ!」


 もう誰も俺達を止めることは出来ねぇ!

 出口と思わしき扉が見えると、すぐ様に蹴破ってその中を拝見した。



***


「マジかよ、この遺跡は大当たりだ!」


 扉の先に広がっていたのは、大きな砂浜に大きな海……完全なビーチそのものだった。

 目視できる範囲では先が見えない程奥行きがあり、周囲は削られた岩が壁になっていて天井に浮いた大きな光の玉のおかげか太陽が登っているかのように明るい。

 どこかの観光名所に通じる抜け穴という訳ではなく、教会から直接繋がった大部屋と考えられる。

 つまり、ここが非常に不可解な場所であるのは間違いない。

 だが……。


「ヒュー! 最高じゃないか。こんな怪しい匂いしかしない海ってのもそうないよなぁ」

「とりあえず泳ごうでげす!」

「こらまて、まずは周囲の調査を……と言っても聞かない奴らか」


 俺達は考古学者だ!

 こういうのを見たら、まずははしゃぐのが鉄則! 砂浜の方に何か大きい彫刻があった気がするが、そんなのあとだぜ!

 そういう訳で、海底調査も兼ねて泳ごうとカンチと共に勢いよく突っ走った。

 クワレンヌもやれやれと頭を抱えているように見えたが、仕事なので仕方がないと割り切ったのか俺達と一緒に走り出す。


「よーし、潜るぞー! 何が落ちているかもわからない。こういうところにお宝ってのはあるんだ」

「おっと、泳ぐ前にまずは魔法を使っておくべきでげす。『我が魔の力よ、我らにうおの力を与え給え』セカンド・スイミィー!」


 そうだ、水に潜る前は準備運動と事前の魔法が大切なことを忘れていたぜ。

 スイミィーは魚のように海を泳ぎ、水中での呼吸を可能にさせ、水圧への耐性を得られる魔法なんだよな。

 これで溺れる心配はない。

 俺達は、覚悟を決めて潜っていった。



***


 早速と水中を見渡した所、魚らしきもの見当たらない上に海藻なども見当たらず階段に似て殺風景だった。

 しかも、ありえないほどに深いときた。

 海底は全然見えず、水深も目視じゃわからない。

 ただ、こういう場所にこそお宝が眠っているジンクスを信じ、俺はカンチに調査を怠るなと指示を出した。


「しかし、これは底まで潜ってみないとわからなそうでげすね」

「うむ、わたしも同感だ。護衛は任せてくれ」


 こういう時、クワレンヌは俺達の護衛に徹するために前に出るが、護衛が仕事故に探索の手伝いまではしない。監視と魔獣の討伐が目的なんだから当然ではあるが。

 その分、彼女がいる以上は水中に何がいようと安心そのもの。

 状況にかまけて、10分ほど下へ下へと潜り続けた。

 だが、目立ったものが見当たらない上に本当に何も無い水中というイメージもぬぐえなくない。

 ため息をつきながら、ここにはなにもないのだと諦めかけていたその時、事件は起こった。

 

「ん、クワレンヌが見当たらないでげす」

「なに?」


 クワレンヌには基本先行してもらい、その後ろ周辺を泳いで探索という状態だったために彼女を視界に入れていなかった。

 まさかとも思いながら、いざクワレンヌのいる位置を視界に映すと彼女の姿が見えない。

 嫌な予感がして、俺達はクワレンヌを探し始めた。それはもう必死に。

 ⋯⋯だが、やはり彼女は見つからない。

 これは異変が起きていると判断し、急いで水面に体を引き上げた。


「なぁ、何かの冗談だろ? おい……」


 そこには、右腕と左足が断面から血を垂れ流しながら浮かんでいたのだ。

 俺の恋人であり、魔獣を殺すエリートたる〈ビーストマーダー〉のクワレンヌが死んだ。

 嘘だろ。俺は信じない。

 しかし、現実逃避をしても時間が止まることはない。


「兄貴……水面が揺れてるでげす……」


 先に察知したカンチの報告からすぐ、俺もその事に気がついた。

 だが時既に遅し。"ソレ"は、その体格からは考えられないスピードで水中から飛び上がってきた。

 大きさにして15m、一見すると魚の様だが、図鑑で見た覚えがない未知の生物。

 全身は黒く、目と思われる部位と腹回りだけが白い配色で、獰猛な牙を持ち、身体中に発光する点で紡がれた線のような傷が無数に刻まれている。

 体に対して水平に付いた尾びれも独特だ。


『SYAAAAACHI!!!!!!!』

 

 大きな鳴き声をビーチ中に響かせた"ソレ"は、カンチの頭上へと襲い掛かった。


「兄貴ぃー! 死にたくないでげすー!」


 ――そして、一瞬にして丸呑みにした。


「カ、カンチー!」

 

 もはや名前を叫ぶのが精一杯だった。

 こんな化物に勝てる奴なんて存在しない。

 そもそも魔獣を倒すために同行していたクワレンヌが死んだんだぞ! どうしたらいいんだ!

 カンチが呑まれた瞬間、俺はただただ逃げようと必死に泳いで沖を目指した。

 そう、あともう一歩の距離で助かるはずだった。


「ハハハ、今日は厄日だぜ」


 だがしかし、瞬きをしたその一瞬で、視界が真っ暗になっていた。

 ああ、わかっちまった……ここ、怪物の口の中だわ。



***


 こうして、女神教教会調査隊は全滅した。

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