初調査6
海君は大きく遅れをとっている僕。刑事課時代の捜査では誰よりも熱心にやっていた。なのに今じゃ二十歳を過ぎて高校生の制服を来ていじめ調査をしているなんて誰が想像しただろうか。
「牧野さん、これから女の子の家に行くんですからくれぐれも粗相のないようにして下さいよ」
「そんな僕だって人の家に上がる時のマナーぐらい頭に入ってるよ」
「ならいんだけど」
「ねぇ、それより僕らが行って大丈夫かな?だって僕ら転校生だしそんな奴が突然家に来たらおかしくない?」
僕の問いかけに海君は余裕そうな笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ」
スクールカバンを今時の学生のようにかっこよく持っている海君はそのまま僕の一歩前を歩きインターフォンを押した。
おそらく佐々木麻奈の母親らしき人が出てきた。
「あら、もしかして麻奈のお友達?」
僕らの制服を見て勘付いたように母親の顔が明るくなる。
「そうです。ちょっと麻奈さんに渡したいものがあって」
そう言って彼が出したのは絵を描くキャンパスだ。しかもそのキャンパスには既に絵が描かれた。そんな物いつ用意したんだろう。でもそのキャンパスを出す事により母親の信頼は増しただろう。絵を描く事が好きな娘にイコールで繋がる物を手に持った友人と名乗る男が来ている。そこに疑いの目は一切なかった。
「折角来てもらって悪いんだけどあの子部屋から出て来なくて」
申し訳なさそうに話す母親に彼は諦めなかった。
「あのもし良かったら部屋の前までだけでも話しさせてもらって良いですか?彼にも付き添いで来てもらったんで」
なんとなく僕の存在もアピールし部屋の前まで通してもらう事ができた。
「麻奈、お友達が来てるわよ。」
母親の呼びかけには一切応じようとする気配はなかった。
「ごめんなさいね。最近ずっとこんなで。」
「あ、そうですか。ここで僕らは充分です」
海君がそう言うとお母さんは静かに下へ降りていった。
さてこっからが勝負だ。まさかあんな事件の事をこんな扉越しに話してくれる物なのだろうか。というかまず僕ら自己紹介からスタートの関係性で彼女に何かを話してもらえるのだろうか。
そうこう考えていると海君が彼女の扉をノックした。
「単刀直入に言うけど僕と君は友達じゃない」
あまりにも単刀直入すぎてこの言葉の意味をそのまま使う人が居るとは思わなかった。
「じゃあなんで君の家まで来たのか。理由は簡単だ。君を助けるためだ。」
何だろう。このなんとも言えないし信頼は何処か言葉に芯がある。少しチャラいイメージのある海君だったから余計に意外だった。
少し相手の反応を待ってみたけど一向動く気配もなく、いつまでもここに居る訳にもいかないので
「もし今話せないようだったら後で連絡して、じゃあまたね」
そう言ってドアの床との隙間に連絡先を挟んだ。そのまま帰ろうとした時だった。ガチャっと鍵の開く音がした。まさかと思ってドアノブを捻ると扉が開きそこには部屋着姿の佐々木麻奈が居た。
「正樹君の事だよね」
小さくか細い声で彼女は話した
そして彼女は事件の全貌を殆ど知っていた。彼女の声はどんどん震え目からは涙が溢れていた。そして僕はそんな彼女に何の言葉も掛けてあげる事は出来なかった。きっと海君もそれは同じだっただろう。
彼女は僕らに対して心配な眼差しを向けた。
「お願い、あの3人には関わっちゃダメ。きっと正樹君と同じ目に合う事になる。これ以上周りの人を傷つけたくない」
彼女は僕らの目を見て強く訴えた。
「正樹君もさっきの君と同じ事を言ったの。友達じゃないけど君を助けたいってでもそのせいで私のせいで」
「君のせいじゃない」
自分でもびっくりするくらいに咄嗟に言葉が出た。
「君のせいじゃない。悪いのはあの3人だ。麻奈さんも正樹君も何も悪くない。責める相手を間違えてはいけない。自分を責め続けても前には進めない」
「でも、二人に何かあったら」
彼女の震える手を海君が握った
「大丈夫僕らは絶対。ね、裕」
「うん」
彼女にはこの一件が片付くまでは部屋から出ないようにしてもらった。それが一番安全であると考えたからだ。そして必ずこの件を解決すると約束して部屋を出た。
彼女の家を出ると海君が大きく伸びをした。
「あー、疲れたー」
「お疲れ様」
僕が声を掛けると海君は少し笑った。
「カッコよかったじゃん」
「えっ、あれは」
あの時の自分がどうしてあんな事を言ったのか今でも分からない。でもただ一つ言えるのはあの時泣きながら自分を責める彼女はどこか昔の自分によく似ていた。
「僕にはあんな言葉思いつかないね」
海君は両手をぶらぶらさせながら前を歩いた。
「ねぇ、海君って何歳なの?すっごい制服似合ってるけど」
「えっ、何それ嫌味かなんか?」
少し睨みを利かせたまだ僕を見た
「いやいや!そう意味じゃなくて!」
「今年だ18だよ」
えっ、、、今なんて?警察官って高認とかいらないの?それともなに僕の生きてる世界と海君の世界では年齢の考え方が違うの?
「ちなみに夏も同じだよ」
中ば放心状態の僕を海君はほっといて先に行ってしまった。
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