第21話 ヤリチンは憎しみ深く




  【小野ゆうver】



 放課後、水希くん、いえ女の子の時は優月ちゃんだっけ、その優月ちゃんから業者さんが怪しいって情報聞いて、なんとなく事件の全貌が見えてきた。まだ推理の段階だけれど、多分合ってると思う。優月ちゃんにはもう話したけど、生徒会の人達には明日話してみようって事になった。これであのモヒカン先輩の疑惑も晴れるといいんだけど。あの先輩、ちょっと怖いけど本当はいい人っぽいし、なにより水希くんのお友達だもんね。


 水希くんって言えば、ホント不思議な人だなあって思う。子供みたいに純粋だったり、やんちゃ坊主みたいだったり、男の子だと思ったら女の子になっちゃったり。不思議っていうよりもはや変態よね?でもあり得ない事でも彼だとさほど不思議じゃなくなっちゃう感じ。やっぱり不思議だ(笑)

 

 私、昔あった出来事から、あんまり目立つのが苦手になっちゃって、ずっと1人で日々静かに過ごしてた。出来るだけ目立たないようにして、イジメられてはいなかったけど、友達って言える人もいなかった。

 そんな私の日常に突然彼(彼女)が割り込んできて、最初は凄く戸惑ったけど、ああこの人は私を深い水の底から押し上げてくれる人なんだって思った。

 だから私も隠さず素を出すようにした。自分でもびっくりしたけど、私ってこんなSな部分もあったのね。あの子をイジるのがホント楽しい。


 あの子のお陰で世界が広がりそう。実際、クラスメイトだけどあんまり話した事も無かった平山さんと仲良くなれたし。彼女ってば小動物みたいでとっても可愛い。後、もしかしたらモヒカン先輩や生徒会の宗田さんとかとも仲良くなれるかな?人と接するのまだ苦手な部分もあるけど、ちょっとすつ変わり始めてるなって思う。


 それで、今は優月ちゃんとちょっとしたデートしてる。こうして友達と学校帰りにお茶するなんて、考えた事もなかったなあ。彼女、本当に純粋だからちょっとからかっただけで反応が凄くいいんだよね。

 

 と、二人でフードコートでお茶してたら、突然、綺麗な女の人が飛び込んできた。


「ちょっ、アンタ等なにしてんのっ⁉」

 

 えっ?なんか、勢いが凄い。誰?って、よく見たら優月ちゃんによく似てる。


「え?ねえちゃん?」

 って、優月ちゃんもびっくりしてる。ああ、やっぱり優月ちゃんのお姉さんなんだね。


「あ、あのー、初めまして。小野悠おの ゆうっていいます」

 とりあえず挨拶しないとね。お姉さんは何故かアタフタしてる。


「あ、あぁはいはい、小野さんね?弟から……妹から聞いてます。あたし、姉の葉月。よろしく」

 お姉さんはすごくハキハキした、迫力のある人だ。


「小野さん、コイツの秘密知ってるのよね?」

 葉月さんが、そう聞いてきた。


「あ、男の子になったり、女の子になったりする事ですね?知ってます。男の子の時は水希くんで、女の子の時は優月ちゃん、っていうのも聞きました」


「そっかあ。こんな変態って知ってて仲良くしてくれるんだね。ありがとう」


「いえ、とんでもない。こっちこそ人見知りでボッチだったのを仲良くしてもらって、すごく嬉しかったです」

 

 私とお姉さんがそんな会話してたら、優月ちゃんがいたたまれないって顔してる(笑)


「でもさあ、いきなり変な行為に走ったりしたら駄目だよ?」

 

 変な行為?なんだろう?


「ねぇちゃん、何言ってんの?何だよ、変な行為って?」

 優月ちゃんが困惑した様に言う。


「だからさぁ、その、体操着プレイ?とか」


「はあ?体操着でプレイって……野球とか?」


「プレイボールじゃねぇわ。それ普通過ぎるだろ?」


 プッ、何言ってんだろ?この姉妹。話しのズレ方がとんでもないww


「だからね、女の子同士でパンツ脱いじゃったりとかぁ」



『お姉さん、もしかして私達の会話、聞いてたんじゃない?』

 私がそう優月ちゃんに耳打ちしたら、彼女目を見開いてる。


『えっ、まさか盗聴器とか?あっ!』

 彼女何か自分のおっぱい睨みつけながらブツブツ言ってる。

 この光景、たまに目にするんだけど、おっぱいに何かあるのかな?絶対、何か隠してるよね?


 

 結局、優月ちゃんと私で今日の出来事をお姉さんに報告して、無事勘違いは解けたみたい。


「そっかあ、ごめんねーっ、あたしてっきり、体操着盗んでいけないプレイしたり、小野ちゃんがパンツ脱いだりするのかと思っちゃったよ〜。ほんっと、あのチ○コ許すマジ」


 え、?今、チ○コって言いました?


「チ○コ……ですか?」


「いやいや何言ってんのかなあ?小野ちゃん。あたしがチ○コなんて言う訳ないじゃん?」


 今、はっきりと言いましたけど?


「そ、そーだよ、小野さん。チ○コなんて誰も言ってないって?」


 ホント似てるなー、この姉妹。すごくわかり易い。


「そう?私の聞き間違いかな?」


「「うんうん」」


 二人して頷いてる。


「ふーん、……




あーっ!チ○コーっ!」

 私はそう叫びながら、優月ちゃんの胸元を指さした。無論これは引っ掛けだ。




「「えっ、えっ、えーっ!」」

 まんまと引っ掛かった二人は飛び上がりながら、胸元を確認してる。すると、何かが優月ちゃんの胸の谷間からひょこっと顔を出した。


「?」

 なんだかわからないものは、胸の谷間でキョロキョロしてる。どうやら姉妹を引っ掛けるつもりが、このへんなのも引っ掛けちゃったみたい。

 


 店内のBGM『secret base ~君がくれたもの~』が流れる中、変な沈黙が続いてる。



「……」


「……」


「……」



 固まってる上城姉妹、唖然としてる私、そんな面々を見回しながら、その変なのは確かにかこう言った。






「見つかっちゃ…った」









 ……あの日見たチ○コの名を私はまだ知らない



















  【モモ香ver】



 冷蔵庫風の秘密の扉を開くと、そこには地下へと続く階段があった。


「えーっと、もしかしてこの下に研究所があったりします?」

 カスミが呆れたように聞いてくる。


「そうだよ?」


「……なんて安易な……」

 もうツッコむのも面倒なのか、カスミはそう呟くだけだった。


 なんだ、コイツ?マッドサイエンティストの研究所だから、おおかた富士山の麓とかにあるイメージしてたんだろう。


「だいたい、あたしがなんでこんなボロアパートに住んでると思ってんのよ?」


「えっ?家賃が安いからじゃないんですか?」


「アンタ、元ヒーローを馬鹿にしてない?この建物は地下を含めて、全部教授の所有物だからよ」


「へえ、知りませんでした。じゃあ、また地球がピンチの時にすぐ復帰できるようにって事ですか?てか今、正に私達が地球をピンチにしようとしてますけど」

 

「いや、ヒーロー復帰なんて考えてないし。家主知り合いだから、タダで住まわしてもらってるだけ」


「うわぁ、さいてー」

 カスミがドン引きしてる。


『うむ、節約術が実に合理的である。感心、感心』

 

 コイツは何故か所帯じみてるし。







  ◇





 階段は果てしなく地下へと続いていく。


「コレどこまで降りるんですかねぇ?」

 カスミがウンザリしたように聞いてきた。


「うーん、前に来た時はもっと短かったよーな気がする」

 

 間違いなく教授が勝手に広げたんだろう。良くは知らないけど、建築基準法とかガン無視じゃないの?マッドサイエンティストとはいえ、自由過ぎるわ。



 15分位下ったら、ようやくドアが見えてきた。


「ふぁあ、やっと着きましたねぇ」

 カスミが安心したようにため息ついてるけど、それは甘いなあ。

 むしろここからが本番だと思うんだよね。あの教授の事たから、絶対なんか仕掛けてる筈だもん。


 ドアを開くと案の定、薄暗い通路が延々と続いている。


「ええ?なんですか、ここ?」

 

「なんだろ?すっごいイヤな予感はするけどね」


『ふむ、前から何かが近付いてきてるぞ?』

 そうビーチくんが警告してくる。あたしは今はブラもシャツも着てるんだけど、それでもこのおっぱいは異変を探知できるのか。いったいどんな仕組みしてるんだろうね?


  確かに前方に何かいるのが、ぼんやり見える。あんまり大きくない、幼児くらいの大きさだ。ネズミかと思ったけど、色が茶色っぽいし、大きな尻尾らしき物がある。


「えっ、あれ栗鼠じゃないですか?可愛い〜♡」


「栗鼠だねぇ」

 リスにしてはかなりデカイけど、でもなんでリス?


 見てると栗鼠はちょこちょことあたしらの足元を通り過ぎて行き、5㍍くらい離れた所でくるっとコッチに向き直った。いつの間にか手に何かを持っている。なんだろう?


「何か持ってますね?うわっ」


 突然、栗鼠が持ってた物を投げつけてきた。咄嗟の事によけきれず、その野球のボールくらいの玉があたしの生足に当たった。


「うっ、いってぇ⁉」

 当たった場所に鋭い痛みが走る。無数の棘が刺さったような痛み。


「イガグリじゃん⁉あいつイガグリ投げてくる!」


 狂ったようにイガグリを投げつけてくる栗鼠。どういう訳だか、投げても投げてもイガグリは無くならない。


「うわっとぉ⁉」


「きゃーっきゃーっ‼」


 あたしとカスミはイガグリを避けまくる。


「なんで⁉なんで栗鼠が栗を投げてくるんです?どーゆーわけ⁉クリとリスが攻めてくるって⁉なんでクリとリス⁉ねえ、なんで!⁉」

 カスミが叫ぶ。つか、コイツわざと言ってるんじゃないか?


「きりがないからとにかく逃げるぞ!」

 あたしとカスミは前方に走った。クリとリスがちょこちょこと追い掛けてくる。


「クリとリスが追っかけてきますよ⁉クリとリスが!」

 いや、わかったから連呼するなよ。


 しばらく走ってると突然、ガンっという鈍い音とともにオデコに衝撃が走った。目の前にマジで火花が散って、あたしはその場にうずくまった。


「いってぇ⁉なんだぁ⁉」


「あれ?ここに見えない何かがありますよ?ブロックみたいなの」

 カスミがなにもない空間を触りながら驚いたように言う。


 見てると突然、何も無い空間から何かが生えてきた。


『おおっ、キノコだ!パワーアップキノコだぞ!カスミ、それを食べるんだ!』


 ビーチくんが興奮したように叫ぶ。


「キノコ?」

 カスミが近くによってそのキノコを、見ていて突然、「いゃぁーっ⁉」と叫んだ。



「無理です、無理です‼食べれません‼だってこれ、キノコじゃなくて……




チ○コです‼」





 通路にカスミの悲痛な叫び声が響いた。























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