第6話 超事室の面々3(201号室 相田康夫)

『相田さんは何処にも行くあてが無さげだったし、とりあえず官舎として借り上げているマンションに案内したわ。


匂いに関すること以外は、相田さんの世界と変わらないということだったから、当面の生活費を渡してそのマンションに滞在してもらうことにしたの。


そして、2週間が経った私の非番の日に、デパートへ相田さんの洋服を買いに行ったの。


デパートは、バーゲンをしていたこともあって、大変な賑わいだった。


私達は5階の紳士物売り場で、当面必要な服を選んでいた時のことよ。


相田さんが突然、『おかしな匂いがします!』って言い出したの。


私には何も感じなかったけど、相田さんの言う通り、7階の非常階段まで走って行った。


するとそこには、あの地下鉄の防犯カメラに写っていた男が、踊り場に何かを撒こうとしていた。


『何をしているの!』


私が叫ぶと、その男は驚いたようにこちらを振り向き、そして慌てて手に持った液体のようなものを撒こうとしたの。


その時、いつの間にか男の背後に移動していた相田さんがその液体の入った容器を奪い、男を突き飛ばしたのよ。


階段の踊り場で体制を崩した男は、そのまま階段を転げ落ちて私が立っている踊り場まで落ちてきた。


私は男を現行犯逮捕したの。


その後、デパートの防犯室に連れていき、所轄署に連絡して無事にその男を警察に送った。


私達は一緒に所轄の警察署に行き、その男の尋問を行った。


男は終始ニヤニヤしながら黙秘を続けたの。


駅での一件があったから、私達は留置場の鉄格子に男を鎖と手錠でつないだまま留置したの。


もちろん監視カメラも3台設置して。」


裕子はそこで一呼吸置く。


「まさか逃げられたのか?」


俺の言葉に、裕子と相田さんは頷く。


「そう、あいつはカメラを見てニヤニヤしながら、鉄製の鎖をやすやすと素手で千切って、そのまま空間の裂け目から逃亡する様子がカメラの映像に残っていたわ。」


「そうなんです。すごい力で鎖を引きちぎっていました。


私も以前に比べ身体能力が上がっていましたし、彼も私同様に別の世界から来たのではと思いました。


しかも彼は自由に世界間の移動ができるようなのです。


私が元の世界に変えるヒントが彼にあると思いました。


裕子さんの上司にあたる小暮警視正もこの異常事態に対応するために、異世界からの来訪者である私の協力が必要だということで、私を警視庁に留め置くために、超常現象対策室という新しい組織を作り、私はそこのメンバーとなりました。」


「そうなの。そして初めから関わっていたということで、私が室長となることになったのよ。


この部署の目的は、今回のような犯罪の取り締まりと、新たな異世界人の保護ね。

だからあなたを見つけた時、何が何でも保護する必要があったのよ。」


「私は超事室に来てから、様々な検査を受けました。

視力、聴力、嗅覚、腕力、瞬発力、走力等を調べた結果、嗅覚がこちらの世界の平均の100倍と瞬発力・走力が平均の5倍であることが分かりました。


元の世界では年齢相応の数値だったので、もしかすると、私の元の世界から来た人間は全員このような数値になるのかもしれません。


あと、こちらの世界では匂いの色は見えないそうです。」


「相田さんの世界では匂いに色がついているのですか!私の世界でも見えませんよ。」


「そうなのですか。それでは私と山崎さんでは住んでいた世界が違うのですね。」


「ともあれ、こうして警視庁内に超常現象対策室が設置されたの。

ただ、相田さんは警察組織の人間では無いし、こういった怪事件が一般に公開されるのもまずいのよね。


だから警視庁内でもごく僅かな人間だけが知っているだけで、ほとんどの警察官は知らないのよ。


当然、署内に部屋を構えることもできないから、このマンションを棟ごと借り上げて、事務所兼皆さんの住まいにすることになったの。」


カフェオーレを全て飲み干した裕子は、座っていたソファーから腰を上げた。


「相田さん、ありがとう。山崎さんにお隣の飯干さんを紹介してくるわ。」


「山崎さん、何のお構いもできずにすいません。

また遊びに来てくださいね。これからもよろしくお願いします。」


「こちらこそ、この世界のことを教えてください。よろしくお願いします。」


俺は相田さんに深々と頭を下げて、部屋を後にした。


「さて次はお隣202号室の飯干さんよ。

飯干さんも相田さんと違う世界みたいなの。」


俺と裕子は、隣の部屋の扉も前に立ち、呼びベルを鳴らした。


何度か押してみたが、応答がない。


「あれ、今日はお留守なのかな。また出直しましょうか?」


「そうですね。お留守ならしようがないですね。」


俺達がそこを立ち去ろうとした時、背後に大きな存在がいる気配を感じて俺はその場を飛び離れた。


10メートルは跳躍したであろうか、裕子を置いてきたことを思い出し、慌てて確認する。


「あら丁度よかったわ。山崎さん、こちら飯干さんです。」


裕子が紹介する飯干氏は、身長が2メートル50センチはあろうかという大男だった。

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警視庁超事室(超常現象事案対策室)奇譚 まーくん @maa-kun

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