明治三年


―――


 何が正しいとか何が間違っていたかなんて、俺にはわからない。


 ただ、大切な人を守る為に己れの力を尽くした。


 ただ、居場所がなかった自分を包んでくれたあの場所にずっといたかった。


 それだけだったのに……




 俺はたくさんの人の未来を奪った。


 そしてたくさんの人を不幸にした。



 俺は普通の人と違う。誰かと対峙する度に、そう思っていた。


 まるで自分が虚像にでもなったかのようで。


 世界が歪んで見えそうで怖かった。



 それを紛らわそうと、まるで血を求める吸血鬼のように人を狩った。




 もし生まれ変われたら、なんてそんな事考えるのは無意味だ。


 だって現実にはあり得ない事だからだ。



 でもこう思ってしまうのは、俺が生きているから。


 生き残ってから。


 きっと逝ってしまった彼らたちは、俺みたいには思えないだろう。


 志し半ばで散っていったあの人たちは、自分の人生をそんな簡単に諦められないだろう。



 俺の剣を信じてくれた人がいた。


 俺の心を信じてくれた人もいた。



 俺は一体彼らに何が出来たのか。


 守ろうと思っていたのに守れなかった。


 散り際さえも見届けられなかった。



 ……もし来世などというものがあるのなら。


 俺はお礼が言いたい。


 そして今度こそ、この左手に握った剣で守りたい。




 いなくなった人には、いくら願っても届かない。


 どんなに話しかけようと、振り向かない。



 だったらこちらから会いに行こう。


 いつになるかわからないけど、俺の命が尽きるその時まで。



 誰も生まれ変わらないでいて欲しい、と思う。



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