第7話 ~復讐の炎~
かくして、俺達は見知らぬ少女とその家族を村から連れ出した。
ティアスの指示する街までただただ歩いた。
どうやら街の指定した空き家まで案内すればいいらしい。
どうやらいくらこちらの時間が流れても、現実時間は三時間以内で収まるようになっているそうだ。
「母上、つかれた……。」
子供の体躯ではその距離は中々に厳しいものだろう。
「こら、ふみちゃん……!そんなこと言っちゃ……。」
母親も気を使って注意してくれる。
「あともうちょっとで団子屋なんで、そこで休憩しましょうか」
俺が率先して指示を出すも、少女ふみはその場に座り込んでしまう。
「だ、大丈夫……?」
愛美が心配して声をかける。
俺ですら流石に心配になってきた。昨夜は野宿をしたのだが、その朝からずっと歩きっぱなし。
「お腹すいて力出ない……。」
「もう……あともうちょっとよ?」
母親もしゃがんで、ふみちゃんをなだめようとする。
俺達は旅慣れしているから大したことはないが、経験の無い女性や子供は結構辛いだろう。
「ふみちゃんふみちゃん。」
「なぁに?」
愛美が猫なで声でふみに近付く。
「おんぶしてあげるよ!」
「うん、してして~」
愛美はしゃがんで背を向けると、甘えるふみちゃんを受け止める。
「もう……。」
母親の心配するようなことはないだろう。
「大丈夫ですよ。一番体力ありますし。」
俺は代わりに母親に対しそう説明する。
「なんか言ったー?」
圧のこもった猫なで声で威圧される。
「いや?」
俺は惚けて前に進む。
正直心配なのはそこじゃない。
無事団子屋に着き、一休憩していた時……
「あれあれ、おっきな家族だねぇ。」
団子屋のおばあさんが、端にいた俺に声をかけてくれる。
「俺達は違いますよ。」
「まあそう言わんと。ほれ。」
おばあさんは自分の持っている団子の串で愛美の方を指す。
ふみちゃんと戯れる愛美。団子を楽しそうに食べている。
「お前さん鼻。」
「コホン。」
咳払いをして誤魔化した。
家族には笑顔でいてほしいに決まっている。
鈴はというと夫婦二人と家族の話でもしているようだ。
「あれ見い。」
「ん?」
またおばあさんの串の指す方向は団子屋ののれんだった。
『団子温泉』と書かれていた。
「良い名じゃろ」
「へ……? あぁ、なるほど。」
俺は理解するのにちょっと時間がかかった。
団子で入っていく温泉ということだろう。
「混浴は入りませんよ。」
「何を言っとる。団子じゃ。」
「いやいやいや。」
俺は何を想像している。首を振りながら拒否をした。
「おなごで疲れてろうに……」
「俺は説明――」
「お主が言わなきゃ効果あるまい」
どうやら親二人に気を使われているというのも見透かされているようだ。
「はぁ……」
余計なおばあさんに正論でねじ伏せられる。
「年寄りにはお見通しじゃい」
『時間的には全く問題ない。自由にしなさい。』
ティアスの声が頭から聞こえてくる。
「別に俺らには必要ないだろ……」
俺が説明するのを渋って考え事をしていたら、おばあさんが団子風呂の説明を勝手にし始めた。
愛美はふみちゃんと温泉に入りたかったのか、店に入る家族の後ろ姿を寂しそうに見つめている。
そんなこともどうでもよくなるほど、俺は青い空を見つめていた。
(昔の俺達か……)
もし星に残っていたらと今でも考える。
でもその中に研究施設から助け出した焔やシエラは、勿論含まれない。
間違っているか合っているかなんて考えても仕方ない。
でも結衣と会いたい。その気持ちだけがずっと心に残り続けてる。
「兄貴ー、先入ってるよ~」
「あぁー」
温泉に入ると知らせてくれた鈴の方を向くと、愛美が黙ってこちらを見つめている。
「…………」
目を逸らし、空をまた見上げた。
結衣は本当に助けてくれるのか。心を打ち明けてくれないのでは……。そう思う自分がいた。
現にあの時は校庭に出てきてくれなかった。
「ほい」
おばあさんが団子の乗った皿を差し出してくれる。
「もう食べましたよ」
「わしゃ食べれん。食って気紛らわせい。」
俺は遠慮もせずに団子と皿をもらう。
「女のことか?」
「何でわかるんすか。」
俺は脳死で回答していた。驚くこともなく。
自分にだって分かっている。変なこと位。
「空を見上げるのは誰かを思い出す時って決まっとるんじゃ。」
「そうですか……。」
俺はその名言っぽい言葉ですら、心に刺さるようで掠めもしない。
「お前さん重症じゃな。別れでもしたんか?」
「そういうのじゃないです。」
「喧嘩か?」
「いや。」
正直そんな単純なものでもない。
「じゃあなんじゃ?」
「積もり積もったすれ違いが、俺の原因で爆発した。みたいな?」
俺は雑にあらかたの行き札を話した。
「はぁ……お前さんその後どれくらい放置した?」
「一年くらい?」
「バカじゃの。」
「まあ……」
認めることしかできない。ショックで会いに行こうとすらしなかった。
「お前さんから行かなければ、ずっとその調子じゃと思うがな。」
「そうっすよねぇ……」
分かっている。分かっているけど、どうしたら良いのか分からないし避けられているような気もする。
「よっぽどの恥ずかしがり屋同士ではよくあることじゃ。」
「うっ……」
結衣はともかく俺もそうだったのかと思うと、動揺してしまう。
「忍耐どころじゃな」
おばあさんはそう言って立ち上がると店の中に消えていく。
やはり俺次第なのだろう。そう思うと余計早く帰りたくなった。
その後、休憩のお陰か目的地の城下町までは難なく辿り着けた。
「ついたよ!」
辿り着けた瞬間喜ぶふみちゃん。愛美も嬉しそうにしている。
指定された空き家に三人を案内した。
その場所は……
「壊れてはないけど……掃除が必要そう。」
鈴が俺達に向かって呟く。
「ここまでありがとうございます!」
「本当に助かった……! 今度お礼させてくれ!」
母親と父親に礼を言われる。
俺達の仕事はこれからが本題だから、そんな大したことではなかった。
「いいんですよ……!」
若干寂しそうな愛美はそう答えた。
彼女は屈むと、ふみちゃんの頭を撫でる。
その後は宿で休み、今夜竜が街に降りてくることをティアスからの通信で知った。
今回の作戦内容。
それはまず家族が行った空き家で火事が起きる。
そこに長い蛇のような龍が現れて、雨を降らせて助ける。
その後に龍を星へ還すように促すというものだった。
その龍は勿論、俺達の星からやって来た存在だ。
歴史を修正しなければ、龍は雷に撃たれて人間に殺されてしまう。そういう流れになってしまうそうだ。
ティアスはあるものを全て返さなければ、未だにこの星に住み着き、エネルギーを食っている竜は追い返せないと言っていた。
現にその通りだ。その歴史の修正をしなければ確実に人間は恨まれたままだろう。
だから来る前にティアスが言っていた生死は問わないなんてことは……
俺の真意を見抜き、二人の参加を煽るハッタリなのだと分かった。
五時四十五分。目的の時間までの十五分前に俺達は出掛ける準備をしていた。
「結衣のことで悩んでんの?」
「ん? まあ……」
持ち物の確認をしていると、待っていた愛美から声をかけられる。
「平気よ。あの子はすごい良い子だから。初めて会った時から今でも。」
「そうだよな。」
いい加減心に踏ん切りを付けなくちゃいけない。
トイレから戻ってきた鈴と一緒に街を徘徊する。すると……
「火事だーー!」
街の人間の騒ぐ声が聞こえる。その方向は案内した空き家の方向だった。
俺と鈴は火事の方へ駆け足で進むが、愛美は進もうとしない。
「愛美、行くぞ」
「あたしも行かなきゃダメ……?」
すごく苦しそうな声で答える。
でも既にポツリポツリと雨粒が落ちてきている。
「どうせ俺達がつく頃には雨で助かってるさ。お前が苦しむことはない。あの子には母親と父親がいる。それで充分なんだ。」
俺は愛美の心を直接傷つけるのを避けながら言葉選びをする。
「そう……よね。」
ついでにいてもたってもいられなくなった時の為、おまじないを教えることにした。
「もしやばかったら、信じてる。それだけだ。そう考えてくれればいいから。」
俺だって嫌な予感はしてる。ただそれは見てみないと分からない。
「ええ……」
返事はしてくれたが、あまり乗り気ではないようね。
「不自然なのよ……。」
鈴が悪態を付き、先へ行ってしまう。
それを追うように愛美も着いていった。
(俺ってそんなに信じられないのか……?)
でも
だが、現場に付くと……
火は轟々と燃え、雨が降っても収まる気配はない。
助け出されたふみちゃんの母親が抵抗している。
(母親だけ……?)
俺は父親も助かっていない様子に疑問を感じ、ティアスに通信で問う。
「おい、まず父親も助かる予定なんだろ? 大丈夫なのか?」
『奴よ……。』
「まさか……。」
『そう、亜美よ……。』
不穏な予感は的中していた。
現実時間では一日しか経過していないはず。
「まさかもう……」
態勢を整えてきたのか?
でも催眠攻撃である神経毒を流す程度なら記憶を見ることもない。
いくら多重の能力を抱えていても、奴に対する分はこちらの方が高い。
『ともかく、まず父親を助け出して二人に母親と父親を監視させて。龍が来るまでお前は少女を保護しなさい。』
「了解した。」
「どうしろって?」
鈴が真っ先にどうするのか聞いてくる。
「まず俺が父親を助け出すから母親と一緒に保護してくれ。」
「保護!? 何で?」
作戦内容の大幅な変更に鈴は驚いている。
「ホールを潜る侵入者が現れた。」
「あたしも行くから。」
愛美がピリピリとイラついた様子で家に入ろうとする。
俺は無言でその腕を掴む。
「ダメだ。」
「なんで?」
「交戦じゃなく、交渉するからだ。奴をよく知ってる優華がいない今。奴を逆上させるのは危険だ。」
「はぁ……」
彼女は辛そうに溜め息を吐くと……
「いつもそういう風にちゃんと言って……」
そう言って手を振り払いながら、家の入り口から離れる。
俺はそれに頷けないまま、炎に包まれた家へと入っていく。
一階に誰もいないことはすぐ分かった。
二階に上がるとふみちゃんの父親が背にもたれ掛かって座っている。
足に怪我をしているようだ。
「大丈夫ですか?」
「あの……子を……」
火事のせいか意識が薄い。
「ん?」
電撃の気配が壁からした。恐らく愛美だろう。
父親を抱き抱えると壁が電撃で破壊され、愛美が現れる。
「頼む……」
父親を受け渡す。
「他にやれることは?」
「二階の換気と俺達の監視を頼む。恐らく二人のことは奴にもうバレてるかもしれない。だが、こちらを優先するってことは……」
俺はここで言葉を切る。
これ以上話して、もし聞かれていたら鈴の力が狙われるに違いない。
恐らく奴は鈴や愛美の能力については知らないだろう。知っていたらこんなことはしない。
誘導という可能性も充分にあり得るが……
「分かったわ」
彼女は父親を抱えると電磁浮遊で壁伝いに跳んでいった。
俺は二階の大きな部屋に入る。
その部屋だけ不自然に火が広がっていない。
中央には気絶したふみちゃんの側に立つ亜美。
彼女が何らかの力で火が広がらないようにしたのだろう。
(火耐性は無し……? 睡眠耐性はあるのに?)
「互いに質問したいことがあるようね?」
亜美は背を向けながら問いかけてくる。
「俺に何を聞く必要がある? 俺は竜を止める為に来た。お前とは戦うつもりはない。」
俺は戦意が無いことを伝える。
彼女は振り向くとにやけながら呆れている。
「でもあたしがコイツを火から遠ざけたら? 龍は来ないでしょうね~」
(煽ってるつもりか……?)
彼女の見え透いた煽りにこちらが呆れそうになる。
「そこまでして俺と戦う理由は?」
「ホントに気付いてなかったの? はは、力がある癖に呑気ねあんたは……」
気付いていない? 俺はコイツが何を言っているのか理解できなかった。
「だって……あんたがあたしに催眠毒を流す瞬間、あたしが神経接触をしたらとか考えなかったワケ?」
「は?」
率直すぎる質問で、話が全く見えてこない。
「眠っちゃうんじゃないの? いっしょぉぉさぁ……」
半笑いで俺の情報をたらたらと流している。
しばらく沈黙が流れ、俺は必死に考える。
どうしてジーニズと話す催眠毒や、病院で聞いた眠ってしまう話を知っているのか。
「お前……」
(全部見られている……?)
「乱威智ッ!! 恐らくシュプ=ニグラス側の人間だ! 気を付けろ!」
ジーニズも一早く気付いたようだ。彼女がそれほどの力を持っているのはおかしいと。
「何故そこまで力に
「はぁ? 力があるからこそその場を制す。昨日だって誰があの場を制してたんだ?」
亜美の言う通り。
昨日は、優華の圧倒的な速さと磨かれた技があの場を制していた。
「あっはっはっは……! 笑えるわ……。あぁーあ、でも残念だよ。あいつの情報も前回ので知り尽くしたし、そろそろ殺せるかなぁ~って思ってたんだけど……」
何の話かよく分からなかった。
(前回ので知り尽くした?)
優華のことなら俺はここでなおさら引き下がる訳にはいかない。
「あっ、違うよ? あんな青い化け物あたしの手に負えないからね? ティアスの方よ? そろそろ寿命だし……。あ、でもあの化け物のことは礼を言わなくちゃ――」
「化け物じゃねぇ……優華だ。」
俺は怒りを抑えながら訂正する。
「あら、効いちゃったのかな? あれ? というかあんたら知らないの……? あらぁ……伝えられてないの? 真実を伝えられずに何が仲間なのかしら?」
「何をだ?」
「本人に聞いたら良いじゃない。どうしてそんなに強くなっちゃったの?って。」
彼女は低いトーンで即答する。先程とは打って変わって真面目な様子だ。
「それは……限界まで追い詰められたから強く――」
「そんなヒーローみたいな力があるって証明できんの?」
ドスの効いた声で聞き返される。
「掴む努力をしなきゃ……無理だ。」
「そうだよねぇ? 星を周って能力集めたあんたなら分かるわよね? で、地球で神経接触の手段もなければ……誰から貰うのよそれは?」
いつの間にか彼女のペースで答え合わせをさせられている。
「それを聞いてみたら良いじゃない。誰から貰ったの? って。まあこの星に来る厳重な審査を突破するのを、手回ししてくれた存在って言ったら……大体検討は付くんじゃない?」
正直そこまで言われたら誰が優華をこの星に送り込んだのか。その存在は分かってくる。
宇宙の中枢に当たる、宇宙真星の中枢都市の奴等だろう。
俺達が地球に行く時、正式にティアスに取り合ってくれた存在だ。
「じゃあ……」
彼女は抜刀の姿勢を取る。
「なッ!?」
四の五の言う暇も無く、彼女は居合い斬りをしてきた!?
俺も妖刀村正を抜刀し、刃で受け流す。
強い風圧が響き、芯に籠った力が横を駆け抜けていく。
衝撃波は壁には当たらず消滅してしまう。
(結界か……!)
「感心してる場合じゃないぜぇ!!」
素早い振り下ろしが繰り出されるが、俺は寸で避ける。
細かな技は早く、受け流すか避けることしかできない。
カウンターを仕掛ける間もなく次の薙ぎ払いがやってくる。
しゃがんで避け、背後に回り込むも……
彼女は鞘で後方に突きを入れる。
左右に躱すも、素早い正確な突きが何度も繰り返される。
俺は状況を覆そうと足払いをするも、彼女はジャンプして避ける。
「遊ぶな。」
背後から聞こえた声と共に俺の胴体は宙を舞う。
目先には腰から下が転がっているのに気付いた。
だが、直ぐにジーニズの力で蘇生する。
黒いオーラへと変化し体が形成されたのだが……。
「ハアアァァッ!!」
彼女は再形成を見越して居合い斬りをする。
刀は駆け抜けるだけで、オーラをすり抜ける。
「ほぉ、実体はねぇと……」
聞いた情報しか知らないなら、俺は手の込んだことをして騙すしかない。そう思った。
俺を形成する黒いオーラの一部が分離し、彼女の体に触手のように巻き付く。
「なッ!?」
その巻き付いたオーラは一瞬で彼女の体に溶け込む。
「まさかッ……! くそッ……」
彼女はフラリと体勢を崩すも、何とか大股で踏みとどまる。
「直近で聞いたり見た情報しか知らないなら、違う手を使うまでだ。」
ジーニズに催眠毒をオーラ状にさせて流し込ませた。
これなら耐性が強い奴はすぐ弱体化する。
「俺からの質問だ。」
「させッ……るかッ……!」
彼女は目眩や体の怠さに抗うも、立っているのがやっとのようだ。
「亜依海について話すと、お前は戦闘に集中できなくなる。そうだろ?」
「デタラメ……言うなァッ!!」
彼女は白い光のオーラを纏い、自分を浄化していく。
「何で家族がいるのにこんなところにいる。」
「うるせぇッ!!」
彼女は物凄い剣幕でこちらを睨む。そして両手に赤い炎のような半透明のオーラを灯し始めた。
「いつからこんなことしてる。」
「黙れ……」
彼女は俯き、刀を握る拳を震わせる。
ちょっと触れられただけで過剰に反応する。
中身が子供っぽいなら、結構前からこうしていることだろう。
「分かんだろ。あいつの駒がいくつ酷い目に……。」
「駒じゃねぇ……。」
彼女は空いた左手を背中に回し、異次元のホールから何かを取り出す。
取り出されるソレは……刀。
見間違えることも無い妖刀村正だった。
「お前……」
「そもそもあたしは、自力で奪ってここまで登ってきた。化け物と一緒にされる筋合いは無い……!」
彼女の言っていることが本当なのか。
それ以前に、彼女の憎しみそのものが狂った殺気を放っていた。
悪竜のソレと同じだ。
「許せねぇ……!」
歯を食い縛ると彼女は二刀流の構えを取る。
右手を引き、左手をこちらに差し向けて突きの構え。
脇を閉めることなどしない猛攻の姿勢。
(何の技だ……)
「早く……」
彼女は小さく呟く。
「テメェも本気出せよォォォ!!」
彼女は右の赤い刀で突きを行おうと駆け出した。
纏われた赤いオーラは揺らめいている。
(フェイント……?)
オーラは左右の方向に別れた。
俺は分身系の術であると察し、左右から来るオーラの閃光をジャンプして避ける。
下に逃げた方がはるかに安全だ。
予想通り、赤い閃光がもう一つ。地面から僅か数十センチから斬り上げられる。
俺は妖刀村正で防ぐも、放たれた力は強く簡単に弾かれる。
(力出すぎだろ……!?)
更にそこから高速の猛攻が始まった。
黒い刀のオーラ。彼女の妖刀村正が下から振り上げられる。
俺は鞘を取り出し、自分の妖刀村正を心臓に刺す。
蠢く黒い刀に変化した鞘で攻撃を弾いた。
更に同じ方向から三本同じ閃光が振り上げられる。
一本目は右で外側に、二本目は左で外側へ……
三本目は重ねた二刀で右から左に弾く。
今度は左と右から来る赤い閃光。
両刀で受け止めて打ち消す。
(実体は持たないみたいだな……!)
俺はそのまま両刀をクロスするように下へ振り下ろす。
今度は彼女も二刀を重ねて右から左へ打ち流す。
その瞬間、彼女の姿が消えた。
視界にある自分の腕の影に隠れて移動した。そうとしか思えなかった。
二刀に衝撃が遅れて走る。右側からの衝撃だと気付いた時。
左後ろから激しい痛みが襲う。
俺は斬り刻まれながら壁に叩きつけられる。
「あんた……口だけで下手なのね。」
彼女に一番言われたくない言葉だ。
だが、同じ年頃……いやもっと前からこいつは力を手にしてきたのかもしれない。
特殊な術や磨かれた剣技、ずば抜けた能力。そして何かへの憎しみ。
強くなるには申し分ない材料だ。
でも……心理を突くと感情や力にムラが出る。
「罪悪感に足を取られてる奴に言われたくないな。」
俺は壁から抜け出し、汚れを軽く手で払い落とす。
背中の傷はもう塞がっていた。
彼女はまた眉を潜め、臨戦態勢を取る。
だが、ニヤリと笑っている。
「興も醒めたし、場所変えるわー。」
(気付いたか……。)
俺が不死身な限り、彼女は真っ向に戦っても勝ちはない。
彼女は赤い刀を床に刺し、右手を天に掲げる。
結界が揺れ始める。
こうなると……俺が彼女に有効打を打って止めるしかない。
「やるぞ……。」
俺は覚悟を決める。
「あぁ。」
ジーニズもそれに答える。
二刀を左腰に重ね、居合い斬りの構えを取る。
体を捻り、腰を落として……目を瞑る。
(何でこんなことになったかな……)
鳥が鳴く声がする。
膝枕をしてくれて、泣いている愛美を思い出す。
俺は……。
抜刀し、亜美に飛び掛かる。
『パリィィィィン!!』
聞き慣れた何かの割れる音が響く。
体を逸らして攻撃を中止する。
「クソッ……! 化け物が……。」
彼女はばつが悪そうに吐き捨てた。
恐らく結界が外から破壊された。
愛美が可能だと信じ、
優華がやってきたのか……。
燃え盛っていた火が部屋内に広がり出す。
居合いを逸らしたことで、俺達の立ち位置は逆になっていた。
ふみちゃんは気絶したまま。俺の近くにいた。
だが、その後ろ側の壁全てが壊れ……。
白い龍が現れた。
首を覗かせた龍は一瞬でふみちゃんと共に姿を消した。
俺は急いで外を覗く。
ふみちゃんを抱き抱えた母親が顔を埋めて泣いている。
鈴を見ると安心そうな表情をしている。
そしてこちらにグッドサインをくれる。
だが、恥ずかしがってそれをすぐ隠す。
こんな状況じゃなきゃいくらでも見ていたいが、俺は空を見上げる。
白い龍は緑色に変色し、愛美が電磁浮遊でそれを追っていた。
すぐに振り返ると……誰もいない。
(まずいッ!!)
俺は家から跳び、空中に蹴りを入れる。
透明化していた亜美の脇腹に当たる。
「ぐッ……!」
彼女は鈴にターゲットを変え、地上に下りようとしていたみたいだ。
向かい側の瓦屋根まで彼女を押し付ける。
俺は右拳で彼女の顔面を殴ろうとした。だが、左手で受け止められる。
左足で鳩尾に膝蹴りを入れる。
「ぐはァッ!!」
気絶させるなら今しかない。
眠らせることが出来ないならこれしかない。
彼女の握っていた手を掴み、引き寄せて頭に思い切り頭突きする。
おでこが密着した状態で目を開け、様子を見ると……。
彼女の白目の色が真っ黒に変わり、瞳は赤く変化していた。
強い掌底が腹部に炸裂する。
「ぐふォッ!!」
「はああぁぁァァ!!!!」
彼女は向かい側で赤い覇気を纏う。
(俺が止めなきゃ……!)
亜依海の為にも、本人の為にも……。
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