第6話 ~守るためにできること~

「目を、覚まさなくなる……?」

 愛美は信じられないという表情で柚原夏菜子を見つめる。

「ええ、というよりジーニズ君の記憶の処理がもう追い付いていない。言葉の通り、限界だ」

「…………」

 愛美は絶句し、結衣は俯く。診察室の丸椅子で座る二人に対して、後ろで立っている鈴と華剛 幸樹も言葉を失っている。


「以上だ。先に来た未来さんに話した内容もそれについてだ。本人にも、目を覚ましたら話しておく」

 彼女が柚原先生の妹でドライだから、未来に何かを言ったのではないか。そんな思念すら四人の頭から吹き飛んだ。


「君達に少しでも出来ることは……彼にその力を使わせないことだ。どうやら竜を還す時にも神経接触を起こしているそうだ。だから……」

 愛美は立ち上がり、診察室を後にする。


「君達も、ゆっくり考えて彼に向き合ってほしい。彼を表立って止められるのは君達だけだ」

 先生がパソコンに向かうと、結衣も席を立ち上がり他の二人も診察室を後にする。



「…………」

 待合室で座る三人は無言のまま。

 そんな三人とは違って、未来は優華と三人の子供をあやしている。


「パパ? おちこんだ?」

 言葉を喋り始めたばかりの一歳半位の橙髪の女の子が幸樹に話しかける。

「大丈夫。どした? よいしょ」

 彼はおもむろに無理をした声色で女の子を抱き抱える。


 結衣と鈴は隣り合わせたまま、無言を貫いている。

 だが、結衣がその沈黙を破る。

「どうして乱威智が鈴ちゃんをいつも気に留めて、行動してるか分かったわ……」

「バカ兄貴はその話に乗っただけじゃない? 兄貴は私のことを放っておけないし、ジーニズの言うことは信頼してるし……断る理由なんて無いと思うわ」

 普段仲がちぐはぐな二人の会話は、いつも通り雰囲気が悪い。


「でも、私はあんたを許してない。あんたはあのタイミングで兄貴を捨てた。命の恩人なのに」

 鈴は強い口調で彼女を否定する。


「そうね……騎士として最低だわ」

「そういうことじゃなくて……はぁ……」

 言い訳がましい結衣に、鈴は溜め息を隠せない。


「今回のことが解決したとしても……兄貴はまた別の方法で無理をしてでもやろうとする」

「そう、ね……」

 結衣は諦めたような口調で溜め息を吐く。


「そうねじゃないから。あんたいつまでウジウジしてんのよ。それを私に言わせてるのが腹立つわ」

 鈴はそう言って席を立ち上がる。


「鈴……? そんなに――」

 優華が気を使って止めようとするも……

「一人でも欠けた位で、私達ってバラバラなんだね……」

 彼女の言葉を遮るように、鈴はそう吐き捨てた。


 現にその通りだった。一人の方向性がズレたら、皆の関係性は最悪になる。


「何の為に頑張ってきたのか分かんない……」

 鈴は自分のスクールバッグを持ち、待合室を去ってしまった。


 自分を変えられない激しい悔しさと後悔。

 結衣は握り拳を強く握り、それでも迷っていた。



 ――数時間後の神の間にて――


 乱威智はワープされた場所が戦場ではなく、神の間であることに気付く。


 ティアスの他に愛美と鈴がいる。

 乱威智は鈴に向かって強く声をかける。

「おい」

「何?」

 愛美が口を挟む。


「あたしが頼んだの。ティアス、神越能力ルーラーが二人もいるってことなら問題ないわよね?」

「えぇ。絶対能力さいのうの特殊な例か、神越能力ルーラーの上位以上であれば問題ない」

 ティアスは即答で条件について詳しく答える。


「死の危険性があるってことが上位以上なのか?」

 俺は気に入らず口を挟む。正直優華ですら任務参加を賛成することはできない。

 だから未来と引き合わせた。


「だが……君は神の化身を纏っているだけであって、どちらの能力も満たしているとは言ってない。私からしたら竜など排除の対象だ。それに待ったをかけたのは君だった気がするが?」

 ティアスは冷たく、この星の決まりに抗っているのは誰なのか話してくる。


「ジーニズ、100%成功させないといけない訳は?」

 愛美がジーニズに向かってその理由を問う。

(お前ら……!)


「能力を悪用された結果がそもそもコレだ。元あるものは元に戻さなければ、それは外の種として歴史に残る。そしてそれを悪用されて戦争が起こる。神の役割は、生み出した物をそれぞれ保護することにある」

 淡々と理由を説明するジーニズも少し怒っているようにも感じ取れた。


「それと殺しても構わない理由にどんな関係があるのよ!」

 愛美もそれに対して筋違いだと反論する。


「殺しても構わないが、それは命の責任だ。誰かに恨まれ、それが竜に知れてまた同じことになったらどうしてくれる?」

「くッ……!」

 愛美もそれを望んだりはしないだろう。


「君も今回のことでいくつかやってはいけない条件を提示されたんじゃないかな?」

 ジーニズが任務に参加する条件について話す。


「ええ、話されたわ……けど竜から守れば良いんでしょう?」

「違う。ティアス、悪い面もしっかり説明したらどうだ?」

 ジーニズはまたしても否定する。正直、他の人間にはこの情報を話してはいけない。

 だから俺はただノーとしか言えなかった。


「この世界の生態に影響を与えてはならない」

「自然災害は?」

 ティアスの言葉にジーニズは食い気味に質問する。


「防いではならない……」

「へ?」

 愛美はすっとんきょうな声をあげる。

 俺は絶対こうなると分かっていた……!

 だからドライな人間以外は断ると決めていた。


「そうだ。過去に行く中で、どんな戦争が起こってようが、大飢饉が起こっていようが、非合法な人体実験が起こっていようが……苦しむ人を助けてはならない。実行者を殺してはならない」

 ジーニズが掘り下げて具体的に説明し、止めを指す。


「な、何よそれ……」

 愛美はその事実に驚愕している。

 人情深い二人ならこんなの耐えられる訳がない。


「これでいいか?」

「ありがとう」

 俺は代わりに説明してくれたジーニズに礼を言う。


「私はそれでもやる」

 鈴から強い視線を感じる。

(そうか……)

 その固めてきた決意が、どれ程のものか思い知らされる。


 鈴は俺の後を追っていつでも近くにいた。

 俺がどんなことを考えて、どうしようとしてるか……きっと気付いてる。


「鈴、俺の言うこときいてくれるか?」

「聞かない」

 彼女は首を振る。


「私のやることは私が決める。だから私の言うことをききなさい」

 妹に指図され、眉を潜める。


「時間よ。どうするの?」

 ティアスに催促されるが答えは決まっている。

「以前と同じ形にしてくれ」

「わかった」


「ちょ! 待ちなさい!」

 愛美に止められたが、止まる理由はない。

 足下に作り出されたホールへ落ち、俺は任務の時代へと運ばれた。


 真っ黒い空間を落ちていき、数秒で過去の世界へと繋がる。



 江戸時代のとある村。賊が人身売買のため村人を襲っていた。

 小さな家に住む十三程の少女は二人組の男に怯え壁にすり寄る。


「嬢ちゃん可愛いねぇ~? 噂は間違いなかったなぁ?」

 横暴そうな太った男が上機嫌に仲間に問いかける。


 男の言う通り、少女は眉目秀麗で可憐な容姿をしている。髪型はふんわりとロールを描くツインテール。

 茶色い髪が月夜に照らされる。


「あぁ、こりゃ桃源郷で高く売れる」

 対して痩せ細った目を見開いた男は嬉しそうににやけ、歩み寄る。

 その側には守ろうとしてくれた両親の死体。


「…………」

 少女はショックからか呆然としている。


「じゃあ連れてきますかぁ~」

 片方の男が手を伸ばした瞬間……


『ドゴンッ!』

 天井から大きな物音が聞こえる。


「生き残りか……?」

「いや、全員殺したがなぁ~」

 太った男は伸ばした手を引っ込めて上を向く。


『ギィィィ……ドンッ!』

 立て付けの悪い玄関が中々開かず、引き戸は力強く開く。


「誰だテメェ……?」

 太った男が玄関……こちらを睨み付ける。


 玄関を開けたのは乱威智で、少女の方を見ながら小声で喋る。

「あれがターゲットか?」

「そうよ。あの娘が龍を目覚めさせるキーよ」

 ティアスの声がノイズ混じりでうっすらと聞こえる。


「オイィ……無視すんなよォォ!!」

 太った男は血だらけの大きなナタを振りかざす。


 俺はティアスと話をしたまま、刀を右手で引き抜く。

 刀はナタの側面を貫き、男の頭部を串刺しにする。


「あっ、やっちった」

 痛恨のミスに腑抜けた声を上げてしまう。


「お前……」

 痩せ細った男は眉を潜めて後退る。


「ティアス、大丈夫だったか?」

「大丈夫じゃない。もう一人は殺すな」

 ドスの効いた声が今度は鮮明に聞こえる。


「誰と喋ってる……!」

「んじゃ忘れてもらうか……あっ」

 男の質問は無視。俺はにじりよろうとするもあることを思い出す。


「と思ったけどぉ~、俺がやったら目覚まさなくなっちゃうんだよなぁ~」

 俺はニヤニヤと笑いながら首をかしげてみる。


「は、は……?」

 男は困惑している。

「…………」

 沈黙のまま何も起こらない時間が数秒過ぎる。


 部屋に黒い異空間ホールが現れる。

 愛美は男の頭を爪具でがっしりと掴む。

「なっ!?」

『パァンッ!!』

 光が弾けるような輝きが男の頭部に走る。


 光が消えた時にはもう男は倒れていた。

 気絶した男の髪の毛は爪の形に禿げている。

(おぉ……おっかないけどビューティフル)


「昨日の朝のことといい忘れないから」

 愛美にギロリと睨まれる。

「てへっ」

 優しくて文句垂れながらもやってくれるから結局甘えてしまう。


「…………」

 少女はまだ呆けた様子でこちらを見つめているが、目に光がない。


「時間かかりそぉ……」

 俺は直感で感想を言ってしまう。

 ここまで精神が壊れた人間を見たのは久しぶりだ。


「はぁ……あんた最低ね」

 また彼女は文句を言いながら、爪具を自動で折り畳む。

 その爪具を腰のベルトについた皮袋にしまう。


 そして愛美は少女の前でしゃがみ、抱き締める。

「よしよし」

 頭を優しく撫でる。


 根は俺達の中で一番良い人なのかもしれない。態度は刺々しいが。


「あれ、おかしいな……」

「…………」

 少女は泣き始めるどころか、静止して呆けたままだ。


「そりゃそうだ」

 俺はそんな漫画のように簡単にいくわけないことも分かっていた。

「あっ! シエラの時はどうしたのよ……」

 愛美は俺が過去に拾った同い年の少年の話をする。


「あー……おんぶしたら寝ちゃったんだ。その後も宿でしばらくは……な。まあ飯食ったり時間経ったら変わったけど」

「そうなんだ……」

 俺は星から出てすぐのことを思い出す。


 戦闘経験の何もない少年がシュプ=ニグラスの被害にあっていた。

 その時、街は壊滅。生き残ったのは彼だけ。

 今は愛美の仲間と共同生活しているらしい。

(ってアイツはやっぱりまだ抱え込んでるのか……。今を生きてるなら良いけど……。)


絶対能力さいのうがどうだとか、言ってたあの頃が懐かしいわ……」

 愛美は少女を撫でながらその時の話をする。


 奴が暴れていた初期は、各地の神々を堕として取り込み、そのエリアの特定の人間に絶対能力を授けるということが起きていた。


「懐かしいな。で、どうすんだ?」

「あんたの任務でしょ」

「はぁ……。かくなる上は……」

 俺だって回復魔法や蘇生魔法のひとつやふたつは使えはしないが……!

 ジーニズの力で似たようなことは出来る。


「なんだよ。寝てたのに」

 ジーニズは、俺のアテが分かっていたのかすぐ反応してくる。

「嘘つけ。声が寝起きじゃない」


 主に俺は竜を相手にする時、星に還すために再帰誕リバースという力を使う。

 現に前回とかは、竜の神経内部から再帰誕を使って記憶を見た。


 竜の神経に潜り込んで触れるか、実際に神経が集中してるところに刀で触れるかしかない。

 だから神経内部なら時間の流れも遅いし安全だ。


 だが再帰誕リバースと言っても、弱いものなら傷を治したり、精神をケアしたりという使い方もある。

 遠隔操作だと力が弱くなる。だから遠くからすれば記憶を見る心配も無し!


 対象の心臓が止まったらこれは使えない。条件さえ満たしてれば全部治せる。人間に限りだが。

 精神面に対してもそれは有効だ。

 だけど、その場を凌ぐだけで完全な解決にはならない。


「待って、私がやる。」

 愛美はこちらに手を向けて自分でやると言い張る。


「えっ、できんの?」

 俺は当然驚いてしまう。


 愛美が成長でモノにした神越能力、神殺キラーとは別に……

 元々持つ絶対能力、想造現壊イメージパスカル

 自分が可能とイメージすれば何でも可能に出来る頭のおかしい能力だ。

 ただしそれはイメージの範囲のみ。想像力次第の能力でもある。


 因みに先程の男に食らわした神経操作や記憶改編。それは神殺ではない。

 あんな悪党が神だったら困る。

 他の受け継いだ神の力に、想造現壊を用いて改造したといったところだろう。


「うーーん、よしよし。うーーん、よしよし」

 俺は彼女の優しい行動を凝視する。

(できないのかよ……)

 まあそんな高度なテクは脳の記憶部分に触れる可能性が高い。


 でもそれでもなぜ彼女は少女を撫でているのか。うっすらと考えが分かってきた。

「おいまさか……」


 これは先程俺が取った行動と同じような気がする。鈴を呼んでいるのだろう。

 愛美は俺が記憶を見ようとしてると勘違いし、あほなことやって時間を稼ぎ……鈴に頼っている図だ。


(そもそも記憶見る訳じゃないんですけど……)

 先程も説明した通り、触れてしまう方法と触れなくても大丈夫な雑多な方法がある。

(てかお前もそれで治しただろ……?)

 現に何度もその力で、鈴がそれをうまく使えるまで治してきた。


 もしくは鈴がいない緊急時……トイレに呼び出し……

(俺ってコイツの何なんだ?)

 妹に言えないからって治させるのも最悪だったし、女子トイレ前で揉めるのも最悪だった。


「ほんとかわいい。よしよし……」

 とりあえずまだ撫でてるし、面白いので放置することにした。

(早く来てどうにかしてくれ……)



 結局鈴までホールを潜ってやってきて、少女とその家族、あと太った男の時を戻している……


「…………」

 鈴は少女達に無言で手を当てている。

 両隣にはその母親と父親と太った男を座らせ、四人は水色のオーラに包まれ時を遡っている。


 切断された肉塊も元に戻っていく。

 俺がやるには生きてなきゃダメだが、彼女なら物質全てに使いこなせる。

 正直、理などクソ食らえだ。

 それでも失ってきた仲間はいるが……


 もちろん許可は取っている。そもそも俺が遅れたせいで死なせてしまったらしい。

(って俺モロ戦犯じゃん)


「ホラ、これがあんたの後始末よ」

「お前がやってるわけじゃないだろ」

「何よ? やるの?」

「やるって何をだ? まさかまた血出たのか?」

「は!? 出てないし!」

 俺と愛美はいつも通りの軽い言い合いをしていた。


「うるさい」

 鈴が淡々とした声で呟く。


 瞬間、俺達は黙った。

(……二人してシスコン丸出しじゃねぇか)

 愛美も鈴のまともな言葉には逆らえないようだ。


 一方、鈴は太った男のみ青いオーラから外す。

 太った男は起き上がるどころか爆睡している。


「呑気ね……運ぶわよ」

「ああ」

 愛美は痩せた男の足を掴んで引きずる。


 俺も太った男を引きずって外に放り出した。


 戻ってくると時を戻すのが終わったのか、青いオーラはもう無かった。


「父上!母上ー!!」

 少女は意識を戻した父親と母親に抱き着く。

「あら……」

 母親らしき人物は少し戸惑っている。


「何がどうなって…… 奴等は!?」

「ここにいると危険です! 追っ手が来る前に早く!」

 俺が率先して父親らしき人物に近付いて説得する。


「君達は……?」

「奴等の敵対勢力です」

 俺は出任せの嘘で、安心できるであろう択を取った。


「待ってますので、今すぐ支度してください!」

「わ、分かった……!」

 俺は話を付け、その一家の家から出る。



 外に出ていると、勿論鈴と愛美も外に出てきた。

 俺は五メートル程離れ、声が聞かれないように警戒した。彼女達も俺に着いてくる。


「なんで頼ったのよ……! あれだけ拒んだ癖に……」

 愛美が俺に問いかけてくる。

 あれだけ拒んでいたんだ。当然のことだろう。


「そりゃ来てほしく無かった。でも……」

「なによ……!」

 己の内を正直に答えるしかないだろう。

 こんなこと言ったらまたしつこく着いてこられるかもしれない。

「使う時、血迷った……。」


「そうよね。兄貴が人を殺すなんて初めてなんじゃ――」

 鈴が分かったような口調で間に入ってくるが……

「初めてじゃない」

 愛美が割って入る。

 こちらを真剣な眼差しで見たままで……


(愛美……)

 愛美の大切な人、焔は俺の最終決断で亡くなった。

 原因は拉致された時に埋め込まれた呪い……

 死期になると呪いは一番身近な誰かに付与される。


 だから……それを埋め込んだ側にどうにかしてもらわなきゃならなかった。


 正直、それまでずっと鈴の能力で先延ばしにしていた。


 だけど……遂にそれも限度が来た。

 鈴の能力は、記憶はそのままで体のみ時を戻すことも可能だ。

 しかし、一人に何十回と使えば耐性が付いてしまう。


「父さんの記憶も見ないで……」


 そんな時に……それを察したのか敵陣から抜け出した奴がコンタクトを取ってきた。

 会ってみれば、それは消息不明の父さんだった……。


 告げられた内容はたった一つ。呪いを持つ体ごとの昇華。

 俺達は話し合った……


 でも時間の一時間前、俺は決断した。

 父さんに頭を下げて頼んだ。

 愛美は必死で頭を上げさせた。泣きながら……

 そして焔は灰へと昇華した……


「あれはコピーだ。自害プログラムが……」

「だとしても……」

 また愛美と口論になりそうになった時……


「なんで私達に嘘吐くの……?」

 鈴から悲しそうな目で問われる。

 目を逸らさずを得なかった。


「私、分かってるよ。あれが本当の父さんだから、頭も下げたし、そういう条件で連絡を取り合った……」

「見たのか……?」

 俺は自分の端末を見たのか鈴に聞く。


「見るに決まってるよ……! あの時から、皆おかしかった……。自分のことばっかりで仲間の気持ちなんか分かろうともしない」

「…………」

 返す言葉もない。


「ごめ――」

「分かってたけど、いいよ……」

 愛美の謝りすらも遮り、鈴は食い気味で許す。


「兄貴のあの嘘は父さんを守る為だから仕方ない。けど、いけないことしてるなら止めるのが家族だと思う」

「そう……だな」


 三年前、俺が一人で星から飛び立つ時。

 愛美の左目を守り切れなかった。

 そのことで許されたいという、自分の理由で動いていたのもバレているだろう……

 今回の拒否についても……


「兄貴。あと、これが片付いたら私達を通すなって――」

「言わない」

「嘘吐いてたらいつまで経っても仲直りしないわ」

 鈴に言われるその言葉は、喉の奥を通り胸に突き刺さる。


「鈴、違う」

 俺は鈴の両肩を掴んで目を見て話す。

「何が違うの?」

「危険が伴わなければ、こんなことにはならなかった……」

 何故俺達は同じ方向に向かっていても、違う意思を持ち始めたのか。はっきりと伝える。


「そんなの確証なんて――」

「ある。現に兄さんや父さんは、一人で星を出た。それが一人じゃなかったら……? 危険だ。心配だ。それが今の俺達の中で連鎖を生んでる。」

「解決するには……?」

 鈴は解決までを急ごうとし、俺に策を聞く。


「まず二人が急いで俺に加勢したら、結衣は危険だなんて思わない。だから優華を元いるべき所に帰した。」

「で眠りのことは知らなかったんでしょ?」

 鈴に答えを急がれる。

「…………」


「鈴。続き、聞いてあげて。」

 愛美が俺のフォローをしてくれる。

「うん……」

 鈴は素直に返事し、俺の話を待ってくれた。


「まず、俺が一人で頑張る。そして最後のホール移動で結衣の近くに出現させてもらう。」

「ゲスね。」

 愛美はにやけながら一言感想を呟いた。


「そうしたら多分……少しは理想の俺達に近付ける気がする」

「じゃあさ……」

 愛美が問いかけてくる。

 これで納得しないということは大体何を言うのか予想もついている。


「バレないように――」

「お前はすぐバレる。」

「なんでよ……!」

「態度がガラリと変わったら怪しいだろ。断られたらイライラしてるのがお前らしい。」

「あんたねぇ……!」

 愛美は散々な言われように不満を隠しきれていない。


「はっきり言って」

 鈴は顔を近づけ、俺に白黒つけろと問い詰める。

「愛美、呼んだら鈴がいつでもこちらに来れるようにサポートしてくれ。一緒に住んでるんだろ?」

「違う」

 鈴に否定され、愛美は頷きもしない。


「はぁ……。今の俺にはお前が必要だ。来てくれ。」

「べ、別に行くなんて言ってないし……」

 鈴はツンデレを発動させた。

「じゃあいいな。」

「ちょっ! そこは止めなさいよ!」

(これがやりたかっただけかよ……)


 愛美がにこやかな微笑みでこちらを見つめている。

 自分だけ助かっていると思ったら大間違いだ。

 彼女にはイラついてもらわないと困る。


「生理中とは思えないな。」

「あっ、兄貴……」

 鈴にすら心配される。


「ふ、ふーん。」

 愛美はイライラしているが、笑顔のまま堪えている。

「お前も優華とどうにかしたらどうなんだ?」

 俺の注意に彼女の顔が引きつっている。


「ええ、こっちもこっちで対応柔らかく――」

「柔らかいといいよな」

 俺は故意的にその言葉を引き抜いてセクハラをする。


「そうね! 色々と柔らかい方がいいわよね!」

 声も段々と力がこもってきている。あと一押しだ。

「色々ってなんだよ」

「ふんッ!」

 雷を帯びた拳が腹に入った。

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