第599話
ライラが部屋を片付ている間、コウはとある考えごとをしていた。
その考えていたことは何なのかというと、自身のことについての話をライラにするべきか否かということであった。
パーティーを組んでからというもの、それなりの時間が経過し、仲間として信頼はしているのだが、どこまで話をしてもいいのか判断がつかない。
どこまでかというと、例えば自身が他の世界で死んでから魂の状態でこの世界に訪れた話や人族であるハイドと魔族であるリーゼの間に出来た子供の身体をベースとして作られた身体に入ったという話、そして死の森という場所で生活し、この世界のことについて学んだことなどの話だ。
流石に全てを話すわけにもいかないし、果たして理解してくれるのか?という不安もあったりする。
「部屋の掃除が終わったので入っても良いですか~?」
「んー...まぁ入っても良いぞー」
そんなことを考えていると、部屋の扉がコンコンと鳴り出し、ライラから部屋の中に入っても良いか?ということを聞かれたため、考えがまとまっていなかったが、とりあえず部屋の中に入れないのはあれなので、コウは入っても良いという返事を返していく。
「ふぅ~疲れました~!」
すると部屋の扉は開き出し、そのままライラが部屋の中に入ってきたのだが、コウが座っていたベッドの隣に腰を掛けると、疲れたと言いながら後ろに引っ張られるかのように倒れた。
「こんなところで寝るなよ」
「良いじゃないですか~数日ぶりですし私の話でも聞いて下さいよ~」
ライラがコウの部屋に訪れた理由はどうやらここ数日間、顔を合わせなかったため、少しだけでも話をしたいとのこと。
「まぁいいけど...じゃあライラは俺がいない間は何をしてたんだ?ダラダラしてたっぽく見えたけど...」
「ふふ~ん!実はダラダラしてただけじゃないんですよ~!これを見て下さい~!」
そのため、コウはここ数日間、何をしてたのかと聞いてみると、ライラは何だか自信満々の様子で腰にぶら下げていた収納の袋に手を突っ込むと、何かを取り出した。
その取り出した物とは、小さな小袋であり、中からはジャラジャラとした音が聞こえてくるので、きっとお金か何かが詰まっているのだろう。
「誰から巻き上げたんだ?」
「違いますよ~!依頼を受けて稼いできたんです~!」
どうやらライラはコウがいない間に幾つかの依頼を冒険者ギルドから受けて仕事をしっかりとこなしていたようで、真っ当な手段でお金を稼いでいたらしい。
「へぇ...凄いじゃないか。頑張ったな」
「ふふ~ん!そうでしょうとも~!」
そんな依頼をこなして自身でお金を稼いだライラに対して褒めてみると、目を細めながら満足気にしていたため、求められていた対応はきっとこれが正しい筈である。
「あっ!話は変わりますけどコウさんは帝国の話は知ってますか~?」
「魔族が帝国で暴れたってやつか?噴水広場で聞いたな」
「そうです~ロミちゃんが無事だと良いんですけど~...魔族の人達はなんでそんなことをするんですかね~?」
「無事だと良いよな。まぁ...魔族についてはさっぱり分からん」
次にライラから魔族が帝国で暴れたということについて話を切り出され、予想通りというか、子熊の穴蔵という宿の受付で働いていた少女であるロミが心配な様子。
それにしても自身の身体に流れている血も半分は魔族であり、この様な出来事が立て続けに起こっていると、魔族の印象が増々悪くなっていくため、更に自身の秘密について打ち明けづらくなっていくし、色々と複雑な気分になってしまう。
「それにしてもコウさんはいつもより元気が無いですけどどうかしましたか~?」
そしてここ数日分出来なかった会話をライラとしていると、コウが元気が無いということに薄っすらと気付いたのか、心配しながら顔を下から覗き込んできた。
一応、父親が死んでしまったことを胸の奥底に仕舞い込み、顔や態度に出さないよう意識して気を付けていたのだが、何とも察しが良いものである。
「いや...何でもない。他になにか話は...「私に話せないことなんですか~?」
しかしこんなところで気が沈むような話をする訳にはいかないと思い、コウは話をずらすため、他に何か話題はないかと振ろうとすると、ライラが真剣そうな瞳をこちらに向け、被せるように口を開いてきた。
「はぁ...じゃあ少しだけ聞いてもらってもいいか?」
そのため、コウは小さなため息を吐きつつ、とりあえずは帰省した際に自身の父親であったハイドが死んでしまっていたということについて、溜め込んでいた悲しみを吐き出すかのように隣に座っているライラにぽつりぽつりと話し出すことにするのであった...。
いつも見てくださってありがとうございます!
次回の更新予定日は多分9月11日になりましたのでよろしくお願いします。
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