第576話

「そこのあんたちょっといいか?」


「ん?僕のこと?どうしたんだい?」


「ちょっと冒険者ギルドへ一緒についてきて欲しくてだな」


「あ...もしかして依頼をしたいのかな?暇だし良いよ!一緒に冒険者ギルドに行こっか!」


 とりあえず街中を眺めている金髪の青年に話しかけてみることにしたのだが、コウ自体の見た目が幼いためか、今のところ冒険者ギルドに何かを依頼をしたい子供だと思われてしまっているようだ。


「いや...一応俺は冒険者でギルドマスターにあんたを探して来てくれって言われてるんだ」


「冒険者ならもう少し大きくならないとなれないと思うよ!じゃあ冒険者ギルドまで案内するからついてきてね!」


「勘違いしてるけどまぁいいや...」


 そのため、コウは誤解を解くために自身は冒険者であり、ギルドマスターのジールからお願いされていることを説明してみるも、金髪の青年は聞く耳を持たず、からからと笑いながら歩き出した。


 まぁ金髪の青年は何やら勘違いをしてしまっているが、本人が自分の足で冒険者ギルドに向かうのであればコウとしてはいちいち何かを言うこともせずに済むため、このままの状態で放置しておいても問題はないだろうか。


 ということで、コウも金髪の青年の後ろを付いていくように歩き出し、逆に案内されるような形で冒険者ギルドへ向かうこととなった。


 さて...そんな冒険者ギルドへ向かっている間に少しだけであるが、金髪の青年が自身のことについて話してくれたりもした。


 まず名前についてはディーンといい、年齢は今年で19歳とコウよりも歳上らしく、馬車に乗ったり、歩いたりと長旅を経てローランに訪れたとのこと。


 ちなみにローランへ訪れた目的は中継地点として立ち寄ったようで、次の目的地である聖都シュレアまで一緒に旅をしてくれる仲間をついでとして探しに来たらしい。


「冒険者ギルドに着いたよ!さぁ中に入った入った!」


「押すな押すな」


 そんな話を聞いていると、いつの間にか冒険者ギルドに到着することとなり、コウはディーンに背中を押されながら建物の中へと入っていく。


「おう!無事に探し出せたようだな!」


 すると酒場の方向から聞き慣れた野太い声が聞こえ、そちらに視線を向けると、そこにはコウにディーンを探して連れてきて欲しいとお願いしてきた張本人であるジールが酒が入っていると思われる木製のジョッキを片手に持ちながら待っていた。


 なんというかギルド職員達は忙しそうに仕事しているというのにギルドマスターであるジールがこんな時間から酒を飲んでも良いのかと疑問が出てきたりはするのだが、他のギルド職員は咎める様子すらないため、きっと平常運転なのだろう。


「ジールさん。約束通り連れてきたぞ」


「ご苦労さん!また何かあったら頼んだぞ!」


「いやそこは別の人に頼んでくれよ...じゃあ俺は行くからな」


「ちょちょちょ!君は冒険者ギルドに依頼をしたかったんじゃないの!?」


 そしてコウはジールと一言二言、口を交わすと、目的を達成したということで、そのまま冒険者ギルドから出て行こうとするも、ここまで一緒に来たディーンから肩に手を置かれ、依頼をしにきたのではないかと引き止められた。


「いやだからジールさんにディーンを連れて来るように頼まれてたんだって」


「あの話は本当だったの!?じゃあ本当に君は冒険者なの!?」


「本当だって...ほらこれが俺のギルドカードな」


 そのため、コウはちゃんとディーンの誤解を解くために収納の指輪から自身のギルドカードを取り出し、分かりやすいように目の前に出して見せていくことにした。


「Bランク冒険者...?」


 そんなギルドカードを見せられたディーンは、ぽかーんと大きく口を開けながらコウの顔とギルドカードを交互に見つつ、信じられないような表情を浮かべていたりする。


 まぁコウとしては日頃からよく勘違いされることのため、ディーンの反応自体には慣れており、何も言うことはない。


 とりあえずディーンは驚きのあまり放心状態ではあるのだが、無事に誤解も解けたと思われるので、改めてコウは冒険者ギルドから出て行くことにし、暇もある程度潰すことが出来たため、泊まっている宿である小鳥の止まり木へ帰ることにするのであった...。



いつも見てくださってありがとうございます!


次回の更新予定日は7月24日になりますのでよろしくお願いします。

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