第572話
リクトンにお願いされた食材を集め、手渡してからというもの数日後。
朝食を食べた終えたコウは小鳥の止まり木という宿の借りている部屋でゆっくりと過ごしていると、部屋の扉からコンコンと複数回のノック音が聞こえてきた。
「ライラか?」
自身に訪ねてくる人物というのは限られており、もしかすると隣の部屋のライラが訪ねてきたのではないかと思いつつ、コウは扉を開けてみると、そこには予想していた人物とは違う、可愛らしい訪問者が立っていた。
その訪問者とは魔食堂の従業員であるリリーであり、何やら片手にメモのような物を持っていたりする。
「リリーか。何の用なんだ?」
「リクトンがこれを渡しに行けって頼まれたです」
どうやらリリーがコウの泊まっている宿の部屋に訪れた理由というのはリクトンからメモを渡すようにとお願いされて来たようで、片手に持っていたメモを差し出された。
「何だこれ?えーっと...」
そしてコウは差し出されたメモをリリーから受け取り、メモに書かれた内容を確認してみると、そこにはお願いしていた料理であるカレーに似た食べ物が出来たという一文が書かれているではないか。
「おぉ出来たのか。じゃあすぐに向かうって伝えておいてくれ」
「分かったです」
そのため、コウはすぐに魔食堂へ向かうという伝言をリクトンに伝えて欲しいとお願いすると、リリーは首を小さく縦に振り、宿の階段を降りていってしまったので、次に隣の部屋でゆっくりしていると思われるライラを呼びにいくことにした。
「おーい。ライラいるかー?」
しかし部屋の扉を何度もノックしてもライラから返事は返ってこないということなので、もしかすると既に出掛けてしまっているのかもしれない。
ちなみにそれはフェニも同様であり、既にコウの部屋にはいなかったりする。
「いないみたいだし俺1人で行こうかな」
ということで、コウは出掛ける準備をさっと済ませると、小鳥の止まり木から出ていき、今回は1人でリクトンが待つであろう魔食堂に向かうことにした。
さて...食後の散歩として街中の大通りを歩き、路地裏を通り抜けると、目的の場所である魔食堂が見えてきたのだが、店先には先ほど会ったリリーが箒を片手に持ち、掃き掃除を行なっているのが見えた。
「店の中に入っても良いか?」
そして店の前に到着するも、店の中へ勝手に入るのは良くないと思い、掃き掃除をしているリリーに入っても良いかを確認すると、問題ないと首を縦に振ったため、コウは休業中と書かれた札が掛けられている扉を開き中に入っていくことにした。
「おーい。リクトンはいるか?」
とりあえずリクトンのことを呼びながら店の中に入ると、独特なスパイスの香りが店の中を満たしており、お願いしていた料理が完成しているということが見なくとも分かったりする。
「おう!来たようだな!待ってたぜ!」
「料理が出来たみたいだな」
「俺様にとって造作もないぜ!こいつが出来上がった料理だ!」
するとリクトンは蓋の付いた鍋を両手で持ちつつ、奥の厨房から姿を現し、コウの近くにあった机まで持ってくると、鍋敷などを使うことなく、直でそのままドンっ!という重たい音を立てながら置いた。
ということで、鍋の蓋を取ると、スパイシーな湯気がふわりと立ち昇り、中身を覗いてみると、そこには茶色でとろみの付いた液体がなみなみと入っていたりする。
それはコウがリクトンに作って欲しいとお願いしていた料理のカレーであり、たったの数日でここまでのものを作れるとは流石一流の料理人といったところだろうか。
「ほら!一応確認として味見してみろよ!」
そしてリクトンから新しいスプーンを手渡されたので、鍋の中になみなみと入っているカレーを掬い、口の中へ運んで味を確かめると、コウが想像していた通りの味がしっかりと作り出されていた。
「おぉこれは美味いな」
「俺様が作ったんだからあったりめぇよ!鍋ごと持っていってもいいぜ!」
「あぁありがとな」
そんなコウの良さげな反応に満足そうなリクトンからは鍋ごと持っていって問題ないと言われたため、感謝の言葉を伝えつつ、収納の指輪の中へと仕舞い込んでいくことにした。
それにしてもこれだけの量があれば、当分は好き勝手に食べたとしてもかなり持つだろうし、わざわざ聖都シュレアに買い足しに行かなくとも良くなったので、暫くはリクトンには足を向けて寝ることは出来ないと言えるだろうか。
そしてリクトンからはここ数日間カレーを作るにあたっての苦労話等々をコウは事細かに聞かされることとなり、暫くの間は魔食堂で拘束されることとなるのであった...。
いつも見てくださってありがとうございます!
次回の更新は7月16日になりますのでよろしくお願いします。
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