第573話

 さて...リクトンから料理の苦労話について色々と語られたりはしたのだが、暫くすると無事に開放され、魔食堂から出たコウはローランの街中を暇そうにぶらぶらと歩いていた。


「どこに行こうかなぁ...」


 そんなコウはこれから何処に行くかについて悩んでいたのだが、今のところ行く先が思いついていなかった。


 とはいえ、折角外に出たのであれば、ついでとして何処かへ寄って行きたいところではあるのだが、行きたいところが今のところ全く持って思いつかない。


 また他に何かしたいことがあるのかと言われると、別にそういったこともないので、更に頭を悩ませることとなっていた。


 というわけで、頭を悩ませながらぶらぶらと目的もない状態でローランの街中を歩いていると、結局辿り着いたのは冒険者ギルドである。


「まぁ暇だったし入ってみるか。サーラがいるならちょっかいでもかけるか」


 そのため、コウは暇つぶしのために冒険者ギルドの中へ入ると、やはり朝から時間は経っているということもあってか、中には冒険者はおらず、閑散した状態となっていた。


 そして冒険者ギルドで働いている職員達はというとここ最近、依頼や冒険者達の増加により、処理する書類が増えたため、忙しなく働いていたりする。


「あれ?サーラはいないのか?」


 そのまま受付に視線を向けてみると、ちょっかいをかける予定のサーラは座っておらず、また同僚であるミラすらもいないことに気が付いた。


 もしかすると席を外しているのだろうかとも思ったりしたのだが、全く知らない受付嬢が座っているため、もしかすると今日は珍しくお休みだったりするのかもしれない。


 とすると、ここにはコウの話し相手になりそうな人はおらず、唯一いるとするならギルドマスターのジールなのだが、暇つぶしで相手してくれるほど多分暇じゃないだろう。


「うーん...やっぱ何の依頼もないな」


 そのため、次に掲示板を見始めたのだが、冒険者が増加にしたことによって掲示板に貼られていたであろう依頼書は根こそぎ無くなっており、掲示板には1枚も依頼書が貼られていない状態となっていた。


 まぁコウとしては依頼を受けに来た訳ではないので、別に何も問題はないのだが、折角暇つぶしとして訪れたというのに何も無いのはなんだか味気ない。


「...ここにいてもしょうが無いし宿にでも帰ろうかな」


 何もないということで、コウは帰ろうか考えながらその場で振り返ると、冒険者ギルドの入り口から誰かが入ってきた。


 その人物とは装飾された綺麗な白い鎧を身に纏い、腰には白銀の鞘をぶら下げた金髪の青年であり、コウがこのローランで冒険者として活動し始めてからというもの見たことがない顔のため、ここ最近冒険者の増加によって他所から新しく訪れた冒険者なのかもしれない。


「んー...仲間を探しに来たんだけど今は冒険者がいないのかな?」


 そんな金髪の青年は冒険者ギルド内をぐるりと見渡し、顎に手を置きながら何やら仲間がどうのこうのと呟くと、すぐに引き返すかのように冒険者ギルドを立ち去って行ってしまった。


「新人の冒険者なのか?それにしては身に付けてるものが良さげだったけど...」


 もしかすると、先程の金髪の青年は新人の冒険者であり、パーティーを組んでくれるような仲間を探しに来たのではないかと思ったのだが、新人にしては身に付けている装備は見た目からして上等な物に見えた。


 まぁコウも冒険者に成り立ての時は様々な魔道具を身に纏っていたので、人のことはとやかく言えたりはしないのだが、珍しいと言えるだろう。


「声でも掛けてあげるべきだったか...?」


 そして立ち去って行ってしまった金髪の青年に何かしら声を掛けてあげればよかったとも思ったのだが、今更そんなことを思ったところでもう遅い。


 そんなことを思っていると、入れ替わるかのように図体の大きい人物が冒険者ギルドに入ってきた訳なのだが、顔をよく見てみると、それはコウのよく知る人物であるギルドマスターのジールであった...。



いつも見てくださってありがとうございます!


次回の更新は7月18日になりますのでよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る