第377話

 ピィアリの実を無事に収穫し、レイニーウッドから馬車で移動して約4時間。


 来た道を戻る際、盗賊達が襲いかかってきた場所も通ったのだが、その場に残されたであろう盗賊達の死体などは既に魔物達に喰われてしまったのか、綺麗さっぱり何の痕跡もなかった。


 そして今現在のコウ達の場所はというと、王都が目前の距離となっており、馬車の窓からも王都の街並みは見え始めている。


 また時間帯は既に夕方頃となっており、茜色の夕陽が王都に立ち並ぶ建物達を色鮮やかに彩っていた。


「まもなく王都へ到着致します!」


 白薔薇騎士団の団員兼御者である女性が馬車についている御者席が見える小窓から間もなく王都へ到着する旨を伝えられたので、コウ達は背筋を伸ばし、座っていた際に凝り固まった身体を解していく。


「やっぱり王都は人が多いですね~」


「まぁここら辺で一番大きい都市だから当たり前だよな」


 そして西門へ到着すると、誰も並んでいない特別入口から王都内に入り込み、人混みの多い大通りをゆっくり進んでいき、貴族街に差し掛かると、ようやく白薔薇騎士団の拠点である屋敷の正門が見えてきた。


「そういえばイザベラさんに報告しにいかなくて良いのか?」


「あー多分イザベラお母様ならこの屋敷でのんびりしていると思いますよ」


「そうなのか?」


「イザベラお母様はそういう方ですので」


 依頼主であるイザベラにピィアリの実を無事に採ってきたということを伝えなくて良いのか?とイザベルに聞いてみると、白薔薇騎士団の屋敷でゆっくりしているだろうとのことであった。


 まぁわざわざイザベラが住んでいるであろう屋敷へ向かい、今回のことを報告するのは面倒だったので、どちらかといえば有り難いことである。


 そして正門を通り抜けて屋敷の前へ到着し、馬車から降りると、そこには花壇へ水やりをしているイザベラの姿があり、こちらに気づいたのか手を止めて近づいてくる。


「もう少し時間がかかると思ったけど意外と早かったわね。成果はどうかしら?」


「結構な量のピィアリの実を採ってきたぞ。とりあえずこのピィアリの実はどうすれば良いんだ?」


 コウは収納の指輪の中から採ってきたばかりの新鮮なピィアリの実を取り出して目の前に出すと、何処に納品すれば良いのかを聞くことにした。


「そうね...鮮度も保ちたいし私の屋敷に晩餐会の当日の朝に持ってきて欲しいわね」


「ん...わかった」


 どうやらピィアリの実の納品については晩餐会の当日の朝までコウの持つ、収納の指輪の中で保存しておいて欲しいとのことであった。


 別に収納の指輪の中はまだまだスペースはあるので、コウとしては問題はない。


「じゃあ今回の報酬としてこれを渡すわね」


 イザベラは胸元から封蝋でしっかりと閉じられた3枚の小さな封筒を取り出すと、そのまま手渡されるが、コウはそれが何なのか分からず、首を斜めに傾ける。


「これは?」


「それは晩餐会の招待状よ。そんな堅苦しいものにするつもりはないから美味しいものをいっぱい食べに来ると良いわ」


 手渡された小さな封筒は4日後に開催予定である晩餐会の招待状であり、3枚渡されたということは後ろにいるイザベルとライラの分もだろう。


「へぇ...3枚ってことは俺達全員を招待してくれるんだな」


「1人だけ招待するつもりなんてないわよ。晩餐会なんて人がいればいるほど良いんだから」


「まぁ美味しい物が食べれるなら良いけどな。ありがとな」


 コウとしては美味しい食べ物達を無料で食べることが出来るので、楽しみであるのだが、1つだけ問題があった。


 それは晩餐会に出るための服が無いということであった。


 身分の高い貴族などがその晩餐会に来るのであれば、今身に着けている冒険者の格好ではなく、多少なりともまともな格好をしないといけないだろうか。


 しかしそのことについてはあえてこの場で口にはしない。


 何故か?その理由は後ろにいる2人がもし晩餐会へ着ていく服がないことを知ってしまうと、翌日に王都内の服屋を巡り、着せ替え人形のようになってしまうことが目に見えているからである。


 ここはとりあえず黙っておいて、明日の朝から1人でこっそり買いに行こうと思いながら振り返ると、イザベルとライラの2人が2人はにまーっと口角を上げ、こちらを見ているではないか。


「なんだよその顔は?」


「そういえばコウさんってこういうのに出る際の服って持って無いですよね~?」


「大丈夫です。私達に任せて下さい」


「あらあら!楽しそうね!私も混ぜて頂戴!」


 どうやら2人はコウが晩餐会に着ていく服がないということを最初から分かっていたのか、逃げ道は最初から無かったようである。


 そしてイザベルとライラ...更にはイザベラまでもが、話に混ざって明日に行く服屋は何処にしようかと、相談をし始めているので、これはもう諦めるしか無いのだろうと思い、コウは深いため息をつくと、明日を諦めるのであった...。



いつも見てくださってありがとうございます!


評価やブクマなどをしてくださると嬉しいですm(_ _)m


次回の更新は6月22日になりますのでよろしくお願いします。

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