第376話

 虫、虫、虫。目の前に広がっている黒い津波の正体は数百もの群れを成すイビルホースフライであり、虫が嫌いな人が見れば卒倒したりしてしまうレベルである。


「うへぇ〜背中がゾクゾクします〜...」


「あまり見たくない光景ですね」


 流石にこの世界で産まれ、色々なものを見てきたであろうイザベルやライラ達からしても、かなり気色の悪い光景ということで、嫌悪感を抱いているようだ。


 コウ自身も虫はあまり好きではないので、目の前に広がる光景は流石に背筋がゾッとしてたりする。


「そういえばコウさん。さっきの魔法は規模を大きくしても出来ますか?」


「魔力に余裕は全然あるし出来ると思う」


「わかりました。では私にもう一度合わせてくれませんか?」


「分かった。俺はいつでも良いぞ」


 先程、イビルホースフライ達を倒した際の魔法は規模を大きくしても使えるかどうか聞かれ、コウは2つ返事で頭を縦に振ると、イザベルは手のひらに小さなつむじ風をすぐさま作り出し、迫りくるイビルホースフライに向かってフリスビーを投げるかのように腕を横に振るった。


 すると小さなつむじ風はイザベルの手のひらから離れていき、先程と同じ様に地面の砂や石などを巻き込みながら巨大な竜巻へ成長しようとしていく。


「コウさんお願いします!」


「あぁ任せてくれ」


 そんなイザベルの作り出した成長途中の小さなつむじ風に向かってコウは自身の周りに大量の水を作り出して浮かばせ、勢いを無くさないようゆっくりと注ぎ込み、混ぜ合わせていく。


 すると小さなつむじ風だったものは巨大な竜巻へと変化していくのだが、コウが魔法で作り出した水も一緒に巻き込みながら変化しているためか、先程違って新たな姿である巨大な水竜巻となっていた。


 そしてその巨大な水竜巻は成長しきったのか、前方へ徐々に進んでいき、こちらに向かってくるイビルホースフライ達の群れ全てを飲み込んでいく。


「これで終わりだ!凍れっ!」


 全てのイビルホースフライ達の群れ全てを飲み込んだと思ったコウはタイミング良く水を凍らせると、そこに出来上がったのは巨大な水竜巻の氷像であり、自然界ではありえない光景ということもあって美しい光景となっていた。


 また水竜巻の氷像の周囲はコウが凍らせたことによって氷の氷原となり、水竜巻の中に巻き込まれていたイビルホースフライはときが止まったかのように凍りついている。


 そのままコウが指をパチンと鳴らすと、水竜巻の氷像全体にヒビが入っていき、暫くすると、ガラガラと大きな音を立てつつ、地面を揺らしながら崩れ去っていく。


 そして追加は来ないのか?と思い、水竜巻の氷像が崩れ去った奥を確認するも、縄張りとしていたイビルホースフライ達は全て排除することが出来たということなのか、追加としては現れないので、全員はその場で息を吐き出し、腰を下ろす。


「それにしても凄いですね〜あんないっぱいいた魔物を倒せるなんて〜」


「私1人では無理でしたしコウさんのお陰ですね」


「俺もイザベルがいないと無理だっただろうからこれはお互い様だな」


「キュイキュイ!」


 ともかくこれで邪魔をする魔物達はいなくなったということなので、ようやく今回の目的であるピィアリの実を取りに行くことができるだろうか。


 暫く休憩した後、シャリッ...シャリッ...っと凍った氷原を踏みしめながらコウ達は進んでいき、小高い丘にあったレイニーウッドの麓まで到着すると、そこには屋久島にある縄文杉を何倍もの太さにした木の幹が目の前に現れた。


「近くで見ると大きさがよくわかりますね~」


「昔の人はこの木を世界樹だと思ってらしいですよ」


「まぁ勘違いしてもおかしくはないよな」


 そんな巨大なレイニーウッドの上を見ると、青空を覆い隠すかのように大量の枝が分かれ、一枚一枚の葉が重なり、殆どの陽光を遮っている。


 そしてその枝や葉の中にはハートの形をした様々な色の大きな果実が幾つもみのっており、事前に詳しい話をイザベラから聞いていたため、その果実がピィアリの実だというのは一目で理解できた。


「あれがピィアリの実だな。流石に高いしフェニに任せるか」


「キュ!」


 ただかなり高い位置にあるため、手は届かず、魔法を使ったとしてもピィアリの実を傷つけてしまう可能性があるので、ここは安全策としてフェニに取ってくるのは任せることにした。


 そしてフェニにお願いすると、やる気満々のようでコウの肩から元気よく飛び立ち、ピィアリの実の根本を小さなくちばしで千切って傷つけないように持ってくる。


 そんなフェニが持ってきたピィアリの実は完熟した桃のような強く甘い香りがし、手に持ってみると、しっかり中に果肉が詰まっているのかズッシリとした重さを感じる。


 とはいえフェニがピィアリの実をせっせと運んでくるので、じっくりと観察している暇はなく、収納の指輪へ急いで仕舞い込んでいく。


「こんなもんかな。もういいぞフェニ!」


「キュイ!」


 ある程度、晩餐会に必要と思われる量のピィアリの実を確保できたということで、コウはフェニに十分だと合図を送ると、おまけで更にもう1個だけ確保し、こちらへ戻ってきた。


「よし...じゃあ結構な量を収穫出来たしそろそろ帰るか」


「そうですね。長々といるとまたあの魔物に襲われそうですし賛成です」


「今から帰れば夜には着きそうですね~」


「キュ!」


 そしてコウ達一行はこの場所にはもう用が無いということもあり、元着た道を戻りながら白薔薇騎士団の団員が待っているであろう馬車に向かって急ぎ足で戻るのであった...。



いつも見てくださってありがとうございます!


評価やブクマなどをしてくださると嬉しいですm(_ _)m


次回の更新は6月20日になりますのでよろしくお願いします。

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