第353話
暫くすると、いつの間にか魔食堂内の席にはちらほらと他の客が訪れ始めたのか座っており、従業員の1人であるリリーが接客のためか、あちらこちらを走り回っていた。
そして多くの料理が乗せられたワゴンをリクトンは両手で押し、ガラガラと音を鳴らしつつ、こちらに向かってニコニコとした顔で歩いてくる。
「待たせたな!こいつが今日のおすすめだぜ!しっかりと味わってくれよな!」
コウ達の元へ到着すると、リクトンはワゴンに乗せられた白い湯気が立ち昇る出来立ての料理を手慣れた手つきで、次々と机の上に並べていく。
そんな机の上に並べられた料理はどれもこれも見た目は美味しそうであるのだが、リクトンからどのような料理なのかについての説明は一切されていない。
ただ立ち昇る白い湯気がコウ達の鼻の下をふわりと通り過ぎると、腹の虫が今の料理を食わせろと言うように主張しだすので、例えどんな料理なのかの説明をされたとしてもあまり頭の中に入ってこないだろう。
「今日は初めての依頼達成おめでとうございます~!」
「よく頑張ったな。奢りだから好きなだけ食べてくれ」
「わぁー!凄く嬉しいですー!ありがとうございますー!」
「コウさんライラさん。ありがとうございます」
お祝いの言葉を伝えると、ルビィとトゥリッタは嬉しそうにし、机の上に並べられた料理に手を付け始めるので、早速コウ達も食べ始めることにした。
そんなコウがまず最初に手を出した料理は肉料理であり、何の魔物なのか分からないが、七面鳥の丸焼きと似たようなものであった。
とりあえずもも肉と思われる部分をナイフで切り取り、豪快に
そして口の中で
「ふぅー...やっぱりこの店は美味いな」
「来て正解でしたね〜」
「裏路地にこんなに美味しい料理店があるなんて知らなかったです」
「ふんふん!」
どうやら誘った2人も魔食堂の料理が気に入ったようで、特にルビィに関しては手を休ませることなく、黙々と料理を食べており、誘って良かったと思えた。
「これはなんだろう?」
そして鶏の丸焼きをある程度食べ終えたコウが気になったものは机の中心部に置かれた
どんな料理かは知らないが、これも他の料理同様に食欲を誘う匂いがしたので、とりあえず食べて見たいと思ったコウは木製の取り皿に取り分けるため、試しにフォークで刺してみることにした。
「おぉ...角煮よりも柔かそうだな」
塊肉にフォークの先端が刺さると、抵抗なくそのまま肉の中へ沈み込んでいくので、これは上手いこと取り出さないと、すぐに崩れてしまいそうである。
そしてなんとか崩れないように取り皿へ移すことが出来たということで、コウはフォークに乗せながら口に運び、じっくりと味わう。
そのしっかりと煮込まれた肉は口の中でほろほろと繊維が解け、角煮のように濃い味が染みているためか、かなり美味しい。
コウとしては、とても気に入った味の料理だったため、暫くの間、その煮込み料理だけを黙々と食べていると、何故か頭がぼーっとし、全身をふわふわとした感覚が包み込んでいく。
「あー...?ライラ達が2人...?」
そして目の前に座っているライラやルビィ達を見ると何故か2人に分身しているように見えるが、あまり頭が働かず、
「もー...コウさんは何を言ってるんですか〜?...ってコウさんお酒でも飲みましたか~?」
「お酒は無かった筈ですー」
いきなり訳のわからないことを言い出すコウをライラは見ると、目がとろんとしており、身体がゆらゆらと揺れ、半分ほど夢うつつ状態であった。
「そうですよね~コウさんって何を食べてましたっけ~?」
「確かその寸胴に入った料理を食べてたと思いますが...」
疑問を抱いた全員はコウが食べていた机の中央に置かれた寸胴に入っている料理を思い出し、中を覗き込むと、殆ど食べられてはいたが少しだけ残っていたので、取り分けて一口だけ味見として食べてみると、全員は料理の中からほんのりと酒の味を感じ取った。
つまりコウが何故、この状態になってしまったのはこの中央に置かれた酒料理のせいということではないか?ということをすぐに理解する。
「も~コウさんはしょうがないですね~」
「そろそろお開きにしますか?」
「ん~そうしましょうか~」
あらかた出された料理は食べ終わっているし、お酒に酔ってしまい夢うつつ状態のコウをこのままにしておく訳にもいかないため、トゥリッタの言う通り、今回の
「よいしょっと~...さて~コウさんの代わりに支払いますか~」
ライラは夢うつつ状態のコウを背負って、従業員であるリリーを呼び出し、腰に取り付けている収納の袋からお金を取り出して支払いをすると、そのまま全員は魔食堂の外へと出ていく。
「ごちそうさまです!美味しかったです!」
「ご馳走様でした」
「いえいえ~どう致しまして~2人ともこれから冒険者として頑張ってくださいね~」
そしてルビィとトゥリッタの2人から食事についてお礼を受け取ると、ライラも応援の言葉を送り、その場で全員は解散することとなった。
そんなライラも酒で酔ってしまったせいで既に熟睡してしまっているコウを背負いながら夜のローランをゆっくりと歩き始め、今泊まっている宿である小鳥の止まり木に向かうのであった...。
いつも見てくださってありがとうございます!
評価やブクマなどをしてくださると嬉しいですm(_ _)m
次回の更新は5月5日になりますのでよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます