第352話
「コウさんライラさん!今日はありがとうございました!」
「色々と勉強にさせてもらってありがとうごいざいました」
「あぁ今日はお疲れ」
「いえいえ~私もいい経験になりました~ありがとうございます~」
そして受付から少し離れ、冒険者ギルドの外に出ると、入口前でルビィ達から頭を下げられながらお礼を言われた。
コウ達からしてみれば、冒険者ギルド側からただの依頼として受けただけであり、そこまでお礼を言われるようなことはした訳ではないが、こうも素直にお礼を言われてしまうとなんだかむず痒い。
「あの~相談があるんですけどいいですか~?」
そんなお礼を2人から言われている途中で、ライラから相談があると小さな声で耳打ちされ、何だろうと思い、コウは耳を傾けることにする。
「もしよかったら今日の夜にでもお祝いでもしないですか~?」
ライラの相談というのはどうやら今回、ルビィ達が初めて冒険者として依頼を達成したということで、お祝いでもしないかということであった。
確かにライラの案は意外と悪くないかもしれない。
だとするならばお祝いするのにコウは丁度良い店を知っているので、もしルビィとトゥリッタが夕食を共にしてくれるならその店になるだろうか。
「では失礼します!」
「あー待ってくれ」
「ほへぇ?」
「はい?」
とりあえず2人がこの場から離れようとしたため、コウは引き留める様に声を掛けると、まさか声を掛けられると思っていなかったのか、気の抜けた声を出しながら2人は足を止めてこちらに振り返った。
「ライラの提案なんだけどもし良かったら今日の夜にでもご飯に行かないか?」
自分から誘うのは流石に度胸がコウにはなかったため、ライラからの提案だということを伝えながら、食事を誘ってみると、目を丸くしながら2人は顔を見合わせる。
「まぁ2人がいいってならだけど...」
「是非お願いします!トゥリッタさんも良いですよね!?」
「私も問題はありません」
どうやらルビィとトゥリッタの2人は夕食を共にすることに関しては特に問題ないようで、寧ろ何だか嬉しそうにしており、意外と食いつきが良かった。
もしかしたらライラからの提案ということだからなのかもしれない。
「じゃあ日が暮れる頃の少し前ぐらいに小鳥の止まり木って宿に来てくれ」
「わかりました!」
「ではまた夜よろしくお願いします」
とりあえず夜に食事をするということを約束したコウ達はその場で解散することにし、一旦各々泊まっている宿に戻って日が暮れる少し自前の時間になるまでのんびりとした時間を過ごすのであった...。
■
そして数時間後の夕方頃。日が暮れる少し前の時間になったということで、コウ達は小鳥の止まり木という宿から外に出ると、事前に話していた通り、ルビィ達が入口付近で待ってくれていた。
そんなルビィ達の格好は年相応の可愛らしい服を身に纏っており、冒険者として活動しているようには見えず、どちらかと言えばどこかの看板娘をしているのではないかという印象を受けてしまう。
「待たせたな」
「お待たせしました~って...わぁ~!可愛らしい格好ですね~!」
「うー...なんだか恥ずかしいですけどありがとうございます!」
「あまり褒められたことないのでなんだか恥ずかしいです」
そんな2人はライラに褒められると少しだけ恥ずかしそうにしているが、内心は嬉しいのかニコニコとした表情で笑っている。
「よし。じゃあ行くか」
「あれ~?フェニちゃんはいいんですか~?」
「部屋にいなかったし今もどこかで飯を貰ってるんじゃないか?」
ライラにフェニは連れて行かなくて良いのかと言われるが、部屋に戻ってもフェニは帰ってきていないので、どこかしらで勝手にご飯を済ましているのだろう。
本当は2人にフェニのことを紹介ぐらいはしておきたかったがいないのならしょうが無い。
そしてとりあえず立ち話も程々にしてコウ達は目的の場所に向かって橙色の夕日で照らされたローランの街中を歩き出すことにした。
今現在、コウ達が向かっている丁度良い料理屋というのは以前マッドロブスターという魔物の料理を作ってもらったリクトンが開いている魔食堂だ。
そんな魔食堂は店の外観や立地は悪いものの、内装や料理の味に関しては大通りにある料理やに引けを取らないし、値段もそこまで高くないので、ルビィ達が初めて冒険者として依頼を達成したことについてお祝いをする場所にとっては丁度良い店の筈である。
「本当にこの店って大丈夫なんですか...?」
「うー...変なものは出てこないんですよねー...?」
暫く橙色の夕日が照らされた大通りを歩き、途中で路地裏へ入って、入り組んだ道を通り、結果として辿り着いたのは立て付けが悪く、全体的に斜めになったボロボロの建物であり、店の入口と思われる場所には
そんな目の前にあるボロボロの建物を見たルビィとトゥリッタの2人はまさか先輩冒険者であるコウ達にこんな所へ案内されると思っていなかったのか、若干顔が引きつっている。
「まぁ最初はみんなそう思うよなぁ...まぁここは騙されたと思って入ってみてくれ」
「私はコウさんのこと信じてます!」
そんなルビィはコウのことを信じると言いながら、勇気を持ってガラリと扉を開けると、そこは店の外観と真反対である良い雰囲気の店内の光景が広がっており、それを見た2人は店の外観と店内を交互に見ては驚き出した。
「おっ!コウじゃねぇか!さては俺様の料理を食べに来たんだな!?だったら好きな席に座りな!」
そして丁度良いタイミングで奥の厨房からリクトンが顔を出し、店の入口でコウが立っていることに気付いたのか声を掛けられ、中に入るように促されたので、早速店の中に入ると広めのテーブル席へ移動していく。
少し早い時間に魔食堂へ到着したということでなのか、今のところ客はコウ達だけとなっているが、少し時間が経てば多くの人が訪れるであろうか。
「今日は何が食いてぇんだ!?」
「そうだなぁ...2人は嫌いなものはあるか?」
席に座ると、リクトンがわざわざ注文を取りに来てくれたようで、手に小さな用紙と羽ペンを持っていた。
一応注文する前にルビィとトゥリッタへ嫌いな食べ物はあるかどうか聞いてみるも、好き嫌いはないようで、首を横にふるふると振っていた。
特に嫌いなものがないのならば、いちいちメニューを見て悩むより、リクトンにおすすめ料理を頼んだほうが楽かもしれない。
「じゃあ今日のおすすめを頼む」
「おう!じゃあ少し待ってな!腕がなるぜ!」
今日のおすすめの料理で頼むとリクトンに一言だけ伝えると、元気そうな返事を返し、そのまま片腕をぐるぐると回しながら奥の厨房へと入っていってしまう。
また机の上にはいつの間にか8割ほどの水で満たされたコップが置かれているので、きっとこの店の従業員であるリリーが置いていってくれたのだろう。
そして暫くすると、厨房の奥から食欲を誘うような匂いが漏れ始め、徐々に店の中を満たしていき、そんな匂いのせいで腹が空腹を訴え始める。
そんな腹を空かせたコウ達は早く料理が出てこないかなと思いつつ、ルビィ達がどうして冒険者を目指したのかという話を聞き、空腹を紛らわせながら料理が来るのを待つのであった...。
いつも見てくださってありがとうございます!
評価やブクマなどをしてくださると嬉しいですm(_ _)m
次回の更新は5月3日になりますのでよろしくお願いします。
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