第146話

「今後の予定はどうするんですか~?」


 魔道具の鑑定が無事終わり宿に到着したコウ達一行は一旦、コウの部屋へと集まり今後の方針を決めようとしていた。


 選択肢としては2つほどあって、1つは再びアルクで準備を整えてダンジョンへと潜ること。


 もう1つはダンジョンへ潜ることを諦めてローランへ帰ることのどちらかである。


 今回のダンジョン探索での目標は4階層まで降りる予定だったのだが3階層で残念な事にリタイヤとなってしまった。


 転移の結晶を失ったという損失はあるが五体満足でしかも有用な魔道具、そして宝石や金品などの多大な収穫もあったので一応、コウにとってはプラスと言ってもいいだろう。


 ただ中途半端な結果に終わってしまった為なのか、少しだけ不完全燃焼な気がしないでもない。


「ん〜...今回はもうダンジョン探索をやめておきましょう」


 しんと静まり返った部屋の中で全員がこれからどうするか考えつつも口火を切ったのはイザベルであり、今回のダンジョン探索はやめようと提案してきた。


「コウさんが倒れた原因は分からずまたダンジョン内で倒れた際に助けられる保証がないです」


「まぁそうですね〜また万全な時に来れば良いですし〜」


 確かにイザベルとライラの言う通りメリットも無いし、また体調が万全な時に来れば良いだけなのだから。


「そうだな...皆の言う通りだし今回は終わりにするか」


 倒れた原因としてはあの石碑を触った結果であってコウ自身は分かっているのだが、それについてはイザベルやライラに話していない。


 何故なら言っても無駄に心配事を増やすことになってしまうだろうし、過去のことなのだから。


 まぁ倒れたこと以外には身体に今のところ何かしらの影響はないので問題はないはずだろう。


 一応、今日の夕方頃にイザベル手配した医者が来るということを聞いており、コウの身体を診てくれる予定となっている。


 本来ならば倒れていた数日の間に来る予定だったのだが、色々とトラブルがあったらしくこちらに来れなかったようだ。


 とはいえわざわざ呼んでもらった医者に今更診てもらっても既に体調は良くなっているので原因不明で終わるような気がしないでもない。


「そうと決まれば私は帰りの馬車を探してきますね!」


「では~私もついて行きます~」


 イザベルとライラの2人はそのままコウを部屋に置き去りにして出て行ってしまった。


 結局、部屋に取り残されたのはコウとフェニのみであり、他にすることもないため夕方に来るという医者を待つのであった...。


◾️

 あれから少しだけ時は過ぎ、部屋の小窓からは茜色の光が差し込みだす時間帯となっていた。


 現在、コウは白衣を着た医師と思われる中年の男性にダンジョン内で倒れてしまった原因を調べるために身体の隅から隅までを診てもらっていた。


 ベッドの周りにはイザベルやライラが真剣そうな顔つきでコウを囲う様に立っており、心なしか部屋の空気が張り詰めている。


「う〜む...君は魔力残留はしたことあるかね?」


「魔力残留?」


 診察が終わったのか装着していた聴診器のようなものを医師は耳から取り外すと1つの質問をコウへと尋ねてくる。


 聴き慣れない単語を聞きコウは首をこてんと横に傾け頭の上に疑問符が浮かぶ。


 とはいえ単語から察するにその名の通り自身の魔力が残って留まることだろう。


 魔力残留という物について話を詳しく聞いてみると、どうやら10歳から15歳の少年少女に最低1回ほど発症するというやまいらしい。


 症状としては自身の体内にある魔力が上手く循環せず体内に留まってしまい高熱にうなされるといったものでコウの症状とは一致するだろう。


 対処法は時間をかけて自身の体内にある魔力を外に排出するまで安静にしていることが一番であるとのことだ。


 わかりやすく説明すると少し症状の重い風邪やむくみのような物である。


 ちなみにこの症状の死亡率は低いためかあまり研究されておらず、何故魔力がいきなり上手く循環せず体内に留まってしまうのかはわかっていないらしい。


「つまりコウさんが倒れた原因は魔力残留ということですか?」


「症状を聞く限りその可能性が高いでしょうしそれ以外はあまり考えられんね」


 イザベルは医師に聞いてみるとその可能性が一番高いと静かに頷き肯定する。


 とはいえ魔力残留という名の近しい症状を医師から判断されたのはまだマシであり、寧ろ原因不明の病として判断されてしまって周りへ更に心配事を増やすよりかはいいだろう。


「とりあえず容態は安定しているのでもう安心していいでしょうな...では失礼します」


 医師は使用した医療器具を白い鞄の中へと手早く詰め込むと軽く頭を下げて部屋を出ていく。


 しかし発症した病が判明したとしても、また発症しないという保証もなく、馬車は手配してあるのでローランへ帰る事に変わりはない。


 病がそれほど危険な物でなかったので張り詰めていた部屋の空気は柔らかなものへと変わり、2人の表情は柔らかな普段の顔つきへと戻っている。


「ふぅ...そこまで重い病気とかじゃなくて助かった」


「本当ですよ〜心配したんですよ〜感謝して下さい〜」


「感謝してるって...今度なんでもしてやるからそれで勘弁してくれ」


「なんでも...?」


 適当に流しながら話しているとライラは顎に手を置き何かを考える様に静かになる。


 そして考え事が終わったのか急に口元がにやけているのをコウは見てしまいすぐに自分が失言してしまったということに気づく。


「しまった」


 ライラに向かって流しながらではあるがなんでもと言ってしまったのがいけなかった。


 とはいえ自分の言ってしまったことを取り消すと不機嫌になるのは確実に見える未来なので武士に二言はないという言葉の通り言ったことを取り消すのはよく無いだろう。


「じゃあ〜1日だけ私と一緒にアルクを観光しましょ〜!」


「なんだ...そんなことならいいけど」


 コウはどんな無理難題が来るのかと身構えていたが、ただ単に一緒に出掛けて欲しいということだった。


 きっと収納の指輪をコウが持っているので荷物持ちとして一緒に来て欲しいのだろう。


 手配した馬車についてもアルクに到着するまで数日は掛かるということであり、時間はたっぷりとではないが観光するぐらいにはあるので問題はない筈だ。


 観光なのでリハビリも兼ねてならば丁度いいぐらいである。


 ライラの喜んでいる姿を見ていると横からイザベルが不満そうな顔をしてベッドの上へ手を置いて前のめりにこちらの顔を覗かせる。


「あの!私も心配していたのですが!しかも緊急時とはいえ転移の欠片も使いました!」


 どうやらライラだけになんでもしてやると言っただけなのが不満だったようでムッとした顔をして、いつもに増して声が少し大きい。


「あーわかったわかった!イザベルもなんでも言ってくれ!」


 諦めるように両手を上にあげて降参のポーズをしながらコウは返事をするとイザベルのムッとしていた顔は輝くような笑顔へと変わっていく。


「では私も1日アルクでの買い物でお願いします!」


「はぁ...お手柔らかに頼むぞ」


 ライラと同じく街を連れ回されることになり、コウは少しだけため息が出るが2人は自分のために色々と頑張ってくれたのでこれぐらいの我儘ならしょうがないだろう。


 まぁ美人2人とデートならコウとしても悪い気はしない。


 とはいえ今日はもう夕方であるためイザベルとライラの2人は「明日からの予定を考えてきます!」と声を揃えてコウヘ伝え自室へ戻っていく。


「フェニは留守番だな」


「キュイッ!?」


 フェニを弄りつつコウは明日からの2人の予定に向けて体力を温存するべく、残り限られた時間をゆっくりと過ごすのであった..,。



ここまで見てくださってありがとうございます!


そしてブクマや星やハートをくださる方もいつもありがとうございますm(_ _)m

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