第145話

「それにしても中々に対応の良い宿だったな」


「まぁそれなりに良い宿を選びましたので」


 コウ達一行は泊まっていた宿屋を後にし、ダンジョンの塔の近くにあるという魔道具を鑑定してくれる場所へと向かっていた。


 今回、コウが倒れた際に泊まっていた宿はそこそこな所で有り難い事にイザベルが宿代を建て替えてくれたそうだ。


 とはいえ女性に宿代を出してもらっているのは流石に男として情けないため早く返したいところではある。


 まぁ今回のダンジョン探索で手に入れた幾つかの宝石などを宝石商等に売ればすぐに返せたりするであろう。


 暫く雑談しながらアルクの街並みを歩いていると白い塔へと到着したので入り口部分からぐるりと裏側へ向かう様に歩いていくイザベルの後ろへ付いて行く。


「あっ見えてきましたね。あちらが魔道具を鑑定してくれる場所になります」


 イザベルが足を止め指を指し示した方向を見るとそこには小さな木造で出来た古い店が見え、既に先客として5組ほどの冒険者パーティが列をなしていた。


 良く言えば古く趣がある店。悪く言えばボロい店である。


「意外と人がいるんですね〜」


「まぁダンジョンを出てすぐに鑑定する方もいますからね」


 コウ達も同じ様に列へと並ぶと意外にも早く前へと進んでいき、鑑定の終え店から出てきた冒険者達とすれ違う度に一喜一憂の表情をしていて様々である。


 魔道具にはコウの持っている1級品の物からまるで何の役にも立たない物まであるので落ち込んだりしている冒険者はハズレでも引いてしまったのだろうか。


 ダンジョン探索というものはそんなものだろう。


 とはいえ大当たりを引くこともあり、一攫千金の可能性もあるためダンジョン探索には夢があるのだ。


 そんな冒険者達の一喜一憂の表情を見ているといつの間にか店の入り口まできており、もうすぐで自分達の番となっていた。


「次の奴ら入っていいぞー!」


 店の中から入っても良いという声が聞こえてくるので入っていくとこじんまりとした木で出来た小さなカウンターあり、老人は少し高い椅子の上に胡座をかいて座っていてその横に少女が立って待っていた。


 老人の見た目は約1m30cm程の小柄な体系、髪の毛は白色で後頭部にしか生えておらず片眼鏡をしており、クルクルっと丸まった髭がチャームポイントである。


 そして少女は老人よりも20cm程身長が高く、黒い前髪で目を隠していて紐の様なもので後ろ髪を結っており、緊張しているのかおどおどしていた。


「んん...?おぉイザベルちゃんじゃねぇか!久しぶりだな!」


 どうやら小柄な老人なイザベルの事を知っているらしくニカっと白い歯を見せてながら笑顔を向けてきた。


「お久しぶりです。お元気そうで何よりです」


「おう!まだまだ元気よ!ところでお前さんの後ろの奴らは新しい仲間か?」


「そうですね。今回のダンジョン探索のパーティです」


 基本的にイザベルは男をパーティなどに入れる事はないので珍しいと感じたのか目の前の小柄な老人は目を細めチャームポイントの髭を指で撫でながらコウを品定めしてくる。


「ふぅむ...おっと自己紹介が遅れた!ここで鑑定士をしているメルドで隣に居るのは娘のメイだ!」


 目の前の小柄な老人の名前はメルドと言い、その横に立っているメイと紹介された少女は接客に慣れておらず緊張しているのか無言でぺこりと軽くお辞儀をする。


「俺は冒険者をしているコウだ。よろしく頼む」


「同じく冒険者のライラと申します〜」


「キュイ!」


 各々が自己紹介を軽く済ますと今回の目的であった魔道具の鑑定という本題に入っていく。


 といっても鑑定するものは多く無いのですぐに終わってしまうだろうか。


「うちも商売だから1つの魔道具の鑑定には金貨1枚貰うが大丈夫か?」


「ん?あぁそれぐらいなら問題ない」


「よし!じゃあ鑑定してほしい魔道具を出してくれぃ!」


 1つ目に出したのは銀色の指輪であり、宝石などの装飾は無いが指輪の表面には刻印が全体的に彫ってある物であってそれ以外には特徴的な物もない。


 1回だけ自分の指へ試しに嵌めてみたのだが、何の効果もなく魔力を込めても反応がなかったのでよくわからない物である。


 2つ目に出したのは約30cm程の薄い肌色の石で出来た無骨な6球体関節人形であり、胴の中心部には小さな丸い穴が開いていて何かをはめ込むように出来ているようだ。


 そして元々宝箱の中に人形の数は7体入っていた物なので、次々と収納の指輪の中から出てきて小さな机の上へと並べられていき、置くスペースがぎりぎりになっていく。


「まぁ人形はどれも見た目は同じでセットとして出てきただろうし、指輪の鑑定と合わせて金貨2枚でいいぞい」


「いいのか?こっちとしてはありがたいけど...」


「なぁ~にイザベルちゃんと知り合いみたいだし特別料金だ!じゃあ鑑定していくぞい」


 コウは自身の収納の指輪の中から金貨2枚を出し机の上へ置くと「まいどあり!」と言いながら受け取って隣に立っている娘のメイへと手渡していく。


 だが鑑定していくと言っても机の上には何もなく、昔というほどでもないがハイドに鑑定をしてもらった際は巻物を使用していたのを思い出す。


 コウはどうやって鑑定するのかをじっと見ているとメルドは机の上に置いてある指輪を手に取り、掛けている片眼鏡へ近づけていくと片眼鏡の縁がぼんやりと白く光りレンズの部分に複雑で小さな魔法陣が現れた。


「メイ!羽ペンと書くもんをくれぃ!」


 隣に立っているメイへと手早く指示を出し、こくりと頷きすぐに近くの棚に置いてある羽ペンと小さなメモ古紙を持ってきて片手ですらすらと鑑定した結果を書いていき、次に人形を手に取ると同じ様に鑑定していく。


 暫く待っていると古紙に書いている手が止まってメルドはぐるりと首を回し、鑑定が終わったのか深く息を吐く。


「ふぅ〜...ほれ!これが鑑定結果だ!」


 鑑定結果の書かれた古紙をメルドから渡されるのですらすらと目を通していくとようやくダンジョンで手に入れた魔道具達の効果が分かった。


 まず銀色の指輪の名称は"変魔の証へんまのあかし"といって魔物に装着させると効果が現れるものとなっているようだ。


 効果としては簡単に言うと自身が服従させている魔物へと装着させると魔物が自在に大きさをある程度変化させることが出来る。


 現状、フェニはある程度成長してしまってコウの外套に入ってもキツくなるし、頭の上ではなく肩に止まる様になったフェニにとっては大当たりの部類の魔道具であろうか。


「フェニ。お前にとっては当たりだな」


「キュイッ!キュイッ!」


 フェニに噛み砕いて説明をすると、かなり喜んでいるのか自身の翼をばさばさと広げて喜びの表現をしている。


 まぁ成長してしまった時にフェニは自身の身体が大きくなってしまってコウの頭の上に乗れなくなってしまったのを残念がっていたし、今後の成長を考えるとまだまだ大きくなりそうなので手に入れて損のない魔道具だろう。


 ただ一般的に魔物を服従や調教している人は少ないのであまり高値では売れなさそうな気がしないでもない。


「よし...じゃあ次の魔道具だな」


 次に古紙へ書いてある人形の名称は"小さな巨人リトルゴーレム"という物のようだ。


 つまりは自動人形である。


 起動させた者の指示などにある程度動き働く魔道具であり、起動方法は胴体の中心部に魔石を嵌め込む穴が空いているのでそこへ嵌め込み自身の魔力を流すと起動するようだ。


 また嵌め込む魔石の種類や品質によっても性能が変わる様で戦闘も出来るためそれなりに便利なものとなっている。


「うーんイザベルとライラはこれいるか?」


「私はそこまで必要ないですね」


「コウさんがいるので要らないです〜」


「いや俺はライラの人形じゃないが...」


 全員に聞いてみるが特に必要が無さそうであり、コウとしても戦闘面は問題なく何か働かせたりすることもないのであまり必要が無い。


「どうする?うちで買い取ってやってもいいぞ!」


 買い取ってくれるとメルドが言うが、少しだけ何かに使えないか腕を組み思考を巡らせると1つだけこの魔道具が役に立つ場所を思い出した。


「あーいや大丈夫。使い道を思い出した」


「そうかい。んじゃこれで鑑定終わりだな!またうちに寄ってくれや!」


「ん...またダンジョンに潜って魔道具を手に入れた時は寄らせてもらうよ」


 そして小さな机の上に置いてある鑑定済みの魔道具を収納の指輪の中へ仕舞い込むとメルドの店を後にし、泊まっている宿へ戻るのであった...。


ここまで見てくださってありがとうございます!


そしてブクマや星やハートをくださる方もいつもありがとうございますm(_ _)m

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