第144話

「おはようございます。お久しぶりですねコウさん」


 先程、ライラがイザベルを呼びに行くと言って5分後ぐらいフェニを手元において柔らかい羽毛を撫でながら待っていると、開かれたままだった部屋の扉から美しい銀髪の女性がひょっこりと顔を出す。


 銀色の美しい髪にはコウが過去にプレゼントした銀色の十字架の髪飾りが少しだけ小窓から入ってくる太陽の光に反射してきらきらと輝いている。


「あぁおはよう。久しぶりって俺はどれくらい寝ていたんだ?」


「えーっと大体3日間ぐらいでしょうか」


 イザベルの久しぶりという言葉にコウは少しだけ違和感を覚えたので聞き返すと、どうやら3日間もの間をベットの上で寝ていたらしい。


 この世界では点滴などもないため3日間も意識を失って身体は大丈夫なのか?と思ったのだが、似たような代用品がこの世界にもあった。


 点滴の代用品としてはコウの収納の指輪の中に入っているポーションというものであり、それは傷を癒やすだけの用途以外にも色々と使われていたらしく元の世界で言う点滴の役割なども担っているようだ。


 使い方も簡単で点滴のように血管へ針を刺す必要もなく全身に振りまくだけでいいらしい。


 他にも身体を清潔に保つための生活魔法などもあるため、わざわざ身体を濡れた布などで拭く必要もなくポーションや魔法とはかなり便利なものである。


 唯一、人の手間がかかるといったところは排泄物の処理ぐらいだろうか。


「そんな長く寝ていたんだな。手間をかけて悪かった」


「ライラさんと一緒に心配したんですよー?黒い石碑に触れたら急に倒れるんですから」


「何なんだったんだろうな。あの黒い石碑は」


 顎に手を当てて先ほどまで見ていた夢を頭の中で思い出すのだが、何故か記憶から少しずつ失われていくような感覚を覚える。


 とはいえ別にこれはわざわざイザベル達へ話す内容でもないだろう。


 どうせ過去に起きた悲惨な出来事なのだから。


「どうしましたか?なにか気になることでもありましたか?」


「いやなんでもない。しかしどうやってアルクまで戻ってこれたんだ?」


「あぁそれはですね...これのお陰ですよ」


 どうやって戻ってこれたのかと聞くとイザベルの腰についている収納の小袋へと手を入れて何かを取り出す。


「なんだこれ?」


 取り出されたものは真っ白に濁った1つの宝石であり、それをコウの目の前に出されるがどんな物かわからないので首を傾げる。


「これはですねー"転移の断片"というものです」


 転移の断片。


 イザベルの話を詳しく聞くとそれはアルクのダンジョンに入る際、白い塔の頭頂部で光り輝いている巨大な結晶の欠片だそうだ。


 使い方としてはその欠片に魔力を注ぎ込むと発動するものであり、名前の通りとある場所に転移出来るという物である。


 魔力の注ぎ込む量は現在いる地点の階層と転移する人数によって必要量が変わるようで今回はそこまで魔力の消費はしなかったようだ。


 そして転移出来る場所は限定されていて大本の転移の結晶がある塔のみとなっており、自分の望んだ場所に転移することは出来ない。


 普通の冒険者であれば同じ様に階層を登り最終的には最初に乗ったゴンドラに乗って帰ってくるのだが、これを使えば一瞬でアルクにあるダンジョンの入口の塔へと戻ってくることが出来るのだ。


 本来ならば光の輝きを放っているのだが今は使用したためか真っ白に濁っていて、しかも1度しか使用できないので貴重な物となっていたりする。


 ちなみに入手方法はアルクに多大な貢献をした者かダンジョンで功績を残した者へと送られる物らしい。


「そんな貴重な物を誰にもらったんだ?」


「実は過去にマリファスさんから貰った物なんです。大切に取っておいて正解でしたね」


「マリファスに感謝だな。さて...ずっと寝ていてもしょうがないか」


 コウは体を起こしてベットの下においてあるスリッパに足を入れ立ち上がろうとすると3日間も寝ていたせいか、ふらつき足が縺れて転びそうになってしまう。


 とはいえ横に立っていたライラが転びそうになるコウをすぐに支えてくれたので転ぶことはなかった。


「すまんライラ。助かった」


「いえ~トイレにでも行くんですか~?」


「いやリハビリがてら少し歩こうかなって」


 3日間も横になっていたのでコウとしては少しでも体力を取り戻すために散歩がてら身体を動かそうと思って重い腰を上げたのだ。


「良いんじゃないんですか?ずっと寝ていても身体に悪いですし動くのは大事ですから」


「あ~確かにそうですね~あっ!ダンジョンで手に入れた魔道具でも鑑定しに行くのはどうですか~?」


 ライラは思いついたように手をぽんっと叩くとダンジョンで手に入れた魔道具を鑑定を頼みに行くのはどうかということを提案してきた。


 確かにそれぐらいならば散歩としては丁度いいぐらいだろうし、ライラにしてはまともな提案である。


「それいいかもな。悪いけど案内を頼んでもいいか?」


「勿論良いですよ。ではコウさんの着替えが済んだら行きましょうか」


 コウは部屋の隅っこに畳んでおいてある服一式と靴を手に取ると手早く着替えを済ませイザベル達と一緒にダンジョンで手に入れた魔道具を鑑定してくれる場所へと向かうのであった。


ここまで見てくださってありがとうございます!


そしてブクマや星やハートをくださる方もいつもありがとうございますm(_ _)m

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