第143話
(ここはどこだろう――?)
気を失ったのは記憶にあるが、いつの間にか自身が今立っている場所は街の中であり、今まで行ったことのない場所だった。
煉瓦で舗装された道は所々欠けていたりしていたり、家やお店などはまるで盗賊に襲撃されたのではないかと思うレベルで崩れ穴が開いている。
この場から少し離れた場所からは争いでも起きているのか怒号や金属同士をお互い叩き付ける音が聞こえてくる。
暫くその場から移動もせずに立っていると後方からどたどたと慌ただしく地面を走るような音が聞こえてくるので、振り返るとそこには兵士の格好をした10人ほどの隊列を組んでいる男がこちらへと向かってきたのだ。
「魔族があちらにいるらしいぞ!急げ!」
コウも最初は見つかった!と思い身構えたのだが、兵士たちはコウの身体を幽霊のようにすり抜けてそのまま真っすぐに走り去っていく。
そしてコウは兵士たちが自分の体をすり抜けたことよって1つのことを思い浮かべる。
ここは夢の中ではないか?
ただ夢の中と言っても自身の意識はあるし、自分自身が夢を見ていると判断できるという事ならば、これは明晰夢ではないか?
いや違う。明晰夢ならば自身で夢をコントロールできるということなのだが、実際には自分の好きなように出来ないので明晰夢ではなく何かしらの夢の様なものを見せられているといったほうが正しいだろう。
一体何にこの夢のようなものを見せられているのかは分からないが、目が覚める気配がないので見届けるしかない。
そして今度は場面が変わり先程の10人ほどの兵士が戦っているようだ。
兵士達が戦っている相手は人種と似たような見た目をしており、黒い蝙蝠のような翼が生えた者や黒い角が生えた者など様々であって魔族という言葉が似合うような風貌である。
先程の兵士たちが言っていた"魔族"という存在なのかもしれない。
魔族と呼ばれている者たちは人数が少なく魔法を操って兵士たちを倒しているが多勢に無勢のようで続々と現れる兵士達の処理に間に合わず斬り殺されていってしまう。
そこらの道端には女子供も血を流し倒れているので人間対魔族の戦争かもしれない。
更に場面は変わり、今度は屋内へと周りは変化していく。
次の屋内は謁見する場所の様でかなり豪華な内装となっており、足元には大理石が敷き詰められ奥には柔らかそうな椅子にどっしりと構えた1人の老人が見える。
老人の見た目は肩に届くくらいの白髪でオールバックにしており、目つきはかなり鋭くこちら側を見据えていて、格好は全身ゆったりとした黒ずくめの服を着ている。
(この爺さん人じゃないな...)
夢とはいえ圧倒的な存在感を出しており、すぐに目の前の老人が只者ではないと本能的に理解してしまう。
暫くするとコウの立っている後ろの大きな扉の奥からどたどたと慌ただしい大量の足音が近づいてくるのが聞こえてきた。
「この部屋だ!急げ!」
バタンッ!と勢いよく大きな扉は開き、先ほど街で魔族と戦っていた格好の兵士達が雪崩の如く数十人も入り込んでくる。
「いたぞ!魔王オルグスだ!奴の首を取れ!」
他の兵士達よりも1人だけ違う格好をした兵士が圧倒的に存在感を出す老人に長剣の剣先を向け首を取る様に指示を出す。
すると数十人もの兵士たちは一気に走り出し、目の前の老人へと腰にある長剣を構え向かっていく。
「全く...無礼な者達だ...」
周りの兵士達の怒号が響き渡る中、老人はため息混じりに小さく呟くのだが、そんな小さな呟きが怒号にかき消されること無くコウの耳の中へ不思議と入り込んでくる。
老人は迫りくる兵士達に向かって片手を前に突き出すと障壁のような透明な壁が作り出され、兵士たちは透明な壁へ次々と衝突していってしまう。
「やはり魔王は一筋縄ではいかんか!」
周りの兵士に指示を出した兵士隊長は歯軋りしながら悔しそうに魔王と呼ばれている老人を睨め付け、壁に衝突した兵士達はすぐに武器を構え直し、体制を整えていく。
「人族とは厄介な者達よな。数も多く勇者などという存在も現れる」
ふぅ...と目の前の老人は一息つくように頬杖を付いて目を閉じると座っている椅子の下に巨大な魔法陣が描かれ大地が縦に揺れるように振動する。
兵士達はその縦揺れに立っていられずその場でしゃがんでいたりした。
「我ら魔族は人族と共存は出来ぬようだ...だから我らは安寧の土地へと移動させてもらうことにするぞ」
老人は座っていた柔らかそうな椅子から立ち上がると老人を中心として真っ白な光が辺りを包み込んでいき、兵士達やその場に立っていたコウも同じように光に飲み込まれていく。
あまりの眩しさに目を閉じ、手で目を遮っていると老人の放ったであろう光は小さくなっていくのが目蓋の裏から感じられたので目を開けるとそこは自分の知らない天井が目の前に現れる。
「今度はいったい...ってなんだ!」
急に謎の物体がコウの顔へと覆いかぶさり視界が金色に染まるので、顔に覆いかぶさったものを両手で引き剥がすとそれはとても喜んでいるフェニであった。
「キュイ!キュイキュイ!」
「なんだフェニか...ってもしかして現実か?」
「キュイ?」
先程まで見ていた夢と混濁し、現実か夢かわからなくなっていたが、フェニがいるということは今回は現実のようである。
周りを見渡すとなんの変哲もない普通の部屋であり、寝ているベッドの隣りにある小窓は開かれているので白いカーテンをめくり外を見てみるとダンジョン都市アルクの町並みが遠くまで見渡せた。
どうやら倒れる前までいた幻影砂漠ではないようだ。
「フェニちゃんどうしたんですか~?」
近くにある扉の奥からライラの声が聞こえ、騒いでいるフェニに気になったのかドアノブが回り扉が開かれると小窓を通して風が一気に吹き抜け、白いカーテンがふわりと舞い上がる。
「ライラおはよ...うっ!」
久々にライラの顔を合わせたので目覚めの挨拶をするとライラの姿が一瞬ぶれて先程のフェニと同じ様にコウは抱きつかれ今度は視界が真っ暗に染まった。
「コウさん心配しましたよぉ~!起きてくれてよかったですぅ~!」
「っ!!!!!」
ライラのふくよかな胸がコウの顔を包み込み密着するので息が出来なく必死にライラの背中を叩き自身が苦しいことを伝えると気づいたのか抱きつきから開放される。
「ぷはぁっ!死ぬかと思った!」
「すみません~!嬉しくって~...」
ラッキーな出来事ではあるのだが、胸で窒息死とか笑えもしない。
ライラの目を見ると目尻には涙がいっぱいたまり、ポロポロ溢れ出して顔を伝って涙が流れる。
「まぁ...いきなり倒れて悪かったな」
「いえ〜無事でよかったです〜!あ〜イザベルさんにも起きたことを伝えてきますね〜!」
顔を伝っていた涙を拭くとライラはそうだ!と思い出した表情を変え、慌ただしくぱたぱたと駆け足で開かれた部屋の扉を出ていき、コウはフェニと共に取り残されてしまった。
「あ〜...まぁいいか」
本当なら何日寝ていたのか?どうやってアルクへ戻ってきたのか?など聞きたいことはあったのだが、結局聞けなかったので諦めて2人が戻ってくるまでフェニと一緒に待つのであった...。
ここまで見てくださってありがとうございます!
そしてブクマや星やハートをくださる方もいつもありがとうございますm(_ _)m
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