第142話

 夜が明け、次の日の朝にコウ達はキャンプの片付けをして3階層の幻影砂漠へと通じているという大きな岩壁に作られていた洞窟を道なりに進んでいた。


 コウ達が休憩している間に何組かの冒険者達が通っているので、少なからず洞窟内に生息していた魔物達はあらかた倒されているようだ。


 ただ洞窟内を進むにつれて時折、奥から吹く風は熱風の様に暑く手など出ている部分の肌がチリチリと焼ける様な感覚を覚える。


 イザベルとライラは2階層のベースキャンプで購入したスリープシープの毛皮で作られた外套を既に羽織っており、フェニはコウの外套の中へと早めに避難していた。


 洞窟内の岩肌も灰色だったのが明るい茶色へと変化していて、足元にもきめ細やかな砂がちらほらと確認できる。


「次の階層からが環境も厳しくなってくるので頑張りましょうね」


 暫く歩いていると出口が見え、外に出てみるとそこは太陽の光が燦々と降り注ぐ場所へと辿り着き、目の前にはそこそこ大きな砂丘が姿を現した。


 砂漠。コウは行ったことはないがテレビやネットなどでは見たことがあるぐらいだろうか。


 3階層幻影砂漠。


 広大な砂地であり、日中は約40度から50度の気温まで上昇し、夜になると気温は真逆へ変化して寒くなるということもあってここからは魔物だけではなく環境も敵になるだろう。


 生息している魔物も今までとはがらりと変わっていて地中に生息するサンドワームや岩のフリをしたロックタートルなど様々である。


 2階層では木々の擦り合うざわざわとした音や森の中で生活している魔物達の音などが聞こえていたのだが、この3階層では風の吹く音ぐらいしか聞こえない。


「う〜...暑いです〜...コウさんの水魔法か氷魔法で何とかなりませんか〜?」


「わかったわかった歩きづらいから引っ付くな」


 ライラがあまりの暑さの為、コウヘ助けを求めるように引っ付いてくるのですぐに引き剥がす。


 ただでさえ足元が悪く歩きづらく、外套の中には先客であるフェニがいるのでこれ以上引っ付かれて歩く邪魔されてはたまったものではない。


 とりあえずコウは指先に5cm程の水球を作り出すとライラの頭上に飛ばし弾けさせる。


 そして氷牢結界を作る要領でドーム状になる前に凍らせると少し洒落ている三度笠さんどがさの様な形で薄く凍りつき、ライラの頭へぽとりと被さる。


 降り注ぐ太陽の光が遮られ、頭の上からは冷気が下に降りてくるのでそれなりに涼しいはずだ。


「多少はマシだろうからこれで我慢してくれ」


「う〜...ありがとうございます〜」


 流石のライラもこれ以上は我が儘を言うことはなくなったが、逆に今度はイザベルが羨ましそうに見ているので同じ様に作って頭の上に被せると「ありがとうございます」と俯きながら小声でお礼を言われる。


 きめ細やかな砂を踏みしめると形を変えコウの足跡のような形へと変化するが、さらさらとしているせいなのか踏み締めて形を変えた場所へ砂が流れ込んで元通りになってしまう。


「とりあえず目の前の砂丘を登って周りを見渡しましょうか」


 イザベルの言うことに同意し、さらさらとした砂を踏み締めながら砂丘を登っていく。


「むぅ...砂が入ってくるな」


 慎重に歩いているのだが、どうしても靴の隙間から中へきめ細やかな砂が入り込んできたため、靴を脱いで足をぱっぱと手で払うが完全には落ちきらず少しだけ不愉快な気持ちになり、諦めて靴を履き直す。


 砂丘の頂上に到着して見渡すと何処を見ても砂ばかりであり、ぽつぽつと岩場があるくらいで休憩する場所を探すのも一苦労しそうではある。


「ん?なんだあれ?」


 砂丘の頂上には謎の黒い石碑のようなものが作られているようで近寄って見てみると見たこともない文字を掘られており、何というふうに書かれているのか分からない。


「私もわからないんですよねこれ。一体誰が作ったんでしょうか?」


「ふ~ん不思議だな」


 コウはなんとなく黒い石碑に近づいて触れてみると、その瞬間に文字の部分が青く輝き、コウの頭の中に様々な声が響き渡って見たこともないイメージが古い映画のように脳裏に次々と浮かび流れ込んでくる。


 そのイメージは一言で表すならば戦争だろうか。


 コウ達と似たような普通の人種と黒い猫のような尻尾やコウモリのように黒い翼がある人種との戦争のようだ。


(■胞■■■■■■奥■で■■■■■―――――)


 そして途切れ途切れだが、誰に向けてかわからないメッセージのような声も聞こえてくる。


「っ!?一体何が...頭が割れるように痛い...!」


「大丈夫ですか!?どうしたんですかコウさん!?」


「どどど、どうしましょう~!」


「キュイ?キュキュイ?」


 頭の中の痛みがどんどんと増していき、コウはその場で頭を抱えながら蹲るとフェニは何が起きたのかわからないため外套の中から出て、近くにいたイザベルやライラはすぐに駆け寄り様子を窺う。


 暫く頭を抱えていると脳裏に浮かんでいたイメージは消え去って痛みが引いていくが、今度は胸の中心部が熱くなってきた。


 胸の中心部の熱さは血が流れるかの如く身体中を巡って火で炙られるように熱く、苦しそうに胸の部分を抑えていると視界はどんどんと暗くなって意識は闇の底へ沈んでいく。


(あぁ――これは駄目だ――)


 そしてイザベルやライラ達の呼ぶ声が遠くなって最終的にコウの視界は暗転し、ぷつりと意識が途絶えるのであった...。


ここまで見てくださってありがとうございます!


そしてブクマや星やハートをくださる方もいつもありがとうございますm(_ _)m

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