第141話

 第2階層大森林ロートスの深部で1人の綺麗な女性が銀色の長い髪をキラキラとなびかせながら、まるで舞うかの如く、自分よりも何倍も大きい巨人のような魔物を圧倒していた。


 ただ圧倒されている魔物であるサイクロプスもただやられているわけにもいかず、イザベルに対して拳を振るったりするがひらりと躱され、細いレイピアよってに表皮が切り刻まれる。


 しかしそれだけの攻撃では決定打になる筈もないし、自身の攻撃も一向に当たらないせいか更にサイクロプスへストレスの負荷がかかり怒りが募っていく。


 とはいえ怒りが募ったところでイザベルに対して攻撃は当たるはずもなく、寧ろ怒りは盲目の元である。


「さぁこっちですよ!」


 サイクロプスを翻弄するようにイザベルは周りをぐるぐると時計回りに走りながら移動し、風魔法を放って牽制しているとサイクロプスは急に両手を上へ振り上げると一気に振り下ろし地面を殴り付ける。


 するとサイクロプスを中心として全体に岩で出来た槍のようなものが地面から大量に突き出しイザベルへと襲いかかった。


「そんな攻撃は当たりません!」


 イザベルは地面から大量に突き出してくる槍を飛んで躱すが、サイクロプスはその先の行動を読んでいたのかイザベルが飛んだ先へ捉えるように拳を置かれていた。


 これではサイクロプスの拳に当たってしまう――。


 誰もがそう思ったが実際にはサイクロプスの拳はイザベルを捕らえることもなく虚しくも空を切る。


 そして一瞬の出来事ではあったのだがコウは何故、イザベルにサイクロプスの拳が当たらなかったのかを目にしていた。


 それは一瞬...ほんの一瞬だがイザベルは身動きできないはずの空中でふわりと、まるで空を飛ぶように動いたのだ。


「なぁライラ...空を飛ぶ魔法ってあるのか?」


「今のところそんな魔法は聞いたことないですね~」


 ライラに聞いても空を飛べるような魔法は見たことも聞いたことないという。


 ただイザベルは一瞬ではあるのだが、何らかの方法で空を飛ぶということをしたのだ。


 そしてその空を切ったサイクロプスの拳の上へ着地すると同時にイザベルの姿がぶれて、何処に行ったのかサイクロプスはギョロギョロと大きい眼を動かす。


 コウも同じ様に眼を動かしていなくなったイザベルの姿を探すと、いつの間にかサイクロプスの肩に立っていた。


「可哀想ですが視界を潰させてもらいますね」


 イザベルはサイクロプスの肩から飛び降りながら眼をレイピアで斜めに切り裂いていく。


 眼を切り裂かれたサイクロプスは痛みで苦悶の声を上げ、目蓋を閉じて周りが見えないためか荒れ狂う様にぶんぶんと拳を振るう。


 レイピアによって切り裂かれたせいで目蓋の隙間からは血が溢れ、まるで血の涙を流しているようだ。


「さて...動きを封じたのでそろそろ終わりにさせてもらいますね」


 イザベルが終わりにすると一言呟くとコウの後方から一気にイザベルの元へと風が流れ込んでいくのを感じ、その風は落ち葉や砂埃などを一緒に拾い上げ、目に見えて分かる様に1箇所へ塊となって集まっていく。


 暫くすると先程吹いていた風は止み、1箇所へ塊の様に集まっていた風は球体のように凝縮されて中はエアー抽選機の様に落ち葉や土埃がぐるぐると目まぐるしく回っていた。


鎌鼬の旋風ストームバレッジ


 イザベルは手のひらをサイクロプスに向かってかざすと凝縮されて球体のようになっていた風は限界を迎えたのかの様に溢れ出し、風の濁流がサイクロプスへと一気に押し寄せる。


 押し寄せる風の濁流はサイクロプスへと直撃すると吹き飛ばされながら表皮が切り刻まれ、どんどんと全身は自身の血で赤く染まっていく。


 そしてそのまま奥にある大木まで吹き飛ばされ衝突するが、イザベルが放った魔法は止まることを知らないのか大木もサイクロプスと一緒に切り刻んでいき、地面を刳りながらそのまま奥まで進んでいってしまった。


 風魔法は少しづつ収まると最終的に残ったのは抉り取られた地面だけであり、通り道にあった大木などはなく奥まで見通せるぐらいには視界が良好となっていて最奥には山のように大きい岩壁が姿を現す。


 奥にある岩壁には先程イザベルの魔法で吹き飛ばされたサイクロプスが横たわりピクリとも動く様子はなく、近くには縦横3m幅の自然で作られたような大きな洞窟の入り口のようなものがぽっかりと口を開いていた。


「ふぅー...少しだけやりすぎちゃいましたね」


 イザベルはサイクロプスが動いていないのを遠目で確認すると振り返りコウ達の元へと戻ってきた。


「お疲れ様。それにしても凄い魔法だな」


「伊達にAランクじゃないですからね!」


 コウ自身それなりといってはあれだが腕に自信があったのに先程の戦いを見てしまうとAランクにはまだまだ程遠く感じてしまう。


 やはりAランクというのは化け物揃いの様であることをコウは再認識させられた。


 両手を腰に当て自慢気にしているイザベルを見るとそうは見えないのだが...。


「そういえば〜奥に大きな岩壁が見えましたけどもしかして登らないといけないのでしょうか〜?」


「いえいえ。あの洞窟の入り口みたいな場所を通ればすぐに3階層に辿り着けるはずです」


 どうやら先程、倒れているサイクロプスの横にあった洞窟のようなものを進むと3階層に辿り着けるらしい。


 つまりこの長かった2階層である大森林ロートスの探索は終わりということになる。


「ダンジョンに入ってもう4日目か...」


「4日目といいますけどもう3階層なんてかなり早いペースですけどね」


 普通の冒険者であれば5日から6日のペースで3階層に辿り着くのだが、コウ達は4日で辿り着いたこととなる。


 ダンジョンへ潜った経験のあるイザベルがいるとは言え1日短縮できているのはかなり早いペースだ。


 ここまでの道のりで手に入れた宝箱の中身や魔物の素材を考えるともう十分であるほどの利益は得ているだろう。


「まぁとりあえずサイクロプスを回収して洞窟の入口付近で今日は休憩するか」


「そうですね。明日からは3階層ですし体調は万全にしておいたほうが良いでしょう」


 ライラやフェニも休憩を取るのは賛成だったようなので、コウ達は早々に奥の岩壁にある洞窟の入口付近へと移動すると先程イザベルが倒したサイクロプスを回収し、3階層である幻影砂漠に挑むためにキャンプを設置して一時の休息を取るのであった...。


ここまで見てくださってありがとうございます!


そしてブクマや星やハートをくださる方もいつもありがとうございますm(_ _)m

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