第92話

 冒険者ギルドへと到着し木の扉を開け中に入ると多くの冒険者達が掲示板に貼られている依頼書とにらめっこをしていた。


 依頼書を漁っている冒険者の大半はE~Cランクの冒険者であり、Bランクの冒険者もいないことはない。


 Aランクの冒険者ともなると掲示板に貼られている依頼書を見なくとも依頼は舞い込んでくるのでわざわざこの様な朝の時間にはおらず大体は重役出勤だろう。


 コウの身長はそこまで高くなく掲示板の前に立っている体格のいい冒険者達の背中しか見えないため、むさ苦しい男の匂いがする隙間を縫って依頼書が貼ってある掲示板の前に辿り着く。


 そしてよく見ると掲示板には多くの依頼書が貼ってあり、Cランクの依頼もまだまだ残っていた。


「これにするか」


 コウは1枚の依頼書を掲示板からビリっと雑に剥がし手に取ると受付まで歩いていくと受付にも多くの冒険者が並んでおり、手には各々が良いと思った依頼書を持っている。


 暫く並ぶと順番が受付の前に着くと今日は昨日、受付していたサーラではなくサーラの同期のミラが受付をしていた。


「あら?コウ君久しぶりね。Cランクになったってサーラから聞いたわ」


「あぁ久しぶりだな。Cランクになった感覚は全然ないけどな...あとこれ」


 コウは1枚の依頼書を机の上に出しミラの前に出すとミラは手に取り依頼書の内容に目を通していく。


「トレントの討伐なら大丈夫そうね。トレントは死の森と隣接してる森に生息しているから奥に行きすぎないように注意してね」


「わかった。じゃあ行ってくる」


 コウは依頼の受付を無事に済ませると受付を後にし、冒険者ギルドの外へと出てローランの外へ出るために門へと向かう。


 やはりというか門の前にも冒険者達がそこそこに並んでおり、門を担当している門兵達が忙しなく動き働いていた。


「お待たせしました!身分証明できるものを提示お願い致します!」


 待っているとようやく門兵が駆け寄ってきて受付の対応をしてくれコウはそのまま銀色になったばかりのギルドカードを手渡す。


「はい!確認取れましたありがとうございます!ではお気をつけて!」


 門兵はぴしっとコウに向かって敬礼をし、次の冒険者のところへ駆け足で走っていく。


 門をくぐり外に出ると今日も快晴のお陰か風が心地よく冒険日和といったところだろう。


 今日の向かうところはミラが言っていた死の森に隣接している森であり、そこにトレントは生息していると言っていた。


 トレントと普通の木の見分け方は知らないがきっとなんとかなるだろう。


 そんな事を思いながらコウは舗装された道をフェニとともに走り出すのであった。


 周囲の景色は草原になり、いつものように走っているといくつかの馬車とすれ違った。


 馬車の向かっている方向はコウ達とは真逆でありきっとローランへと向かう予定なのだろう。


 小さな丘を超えるとようやく大規模に広がる森が見えこの場所に来るのも久しぶりだとコウは感じる。


 小さな丘を下り足首ほどまで伸びている草原を進むと、森と草原の境界線に辿り着つき外套に魔力を込めて森の中へと入っていく。


 森の中は葉っぱ同士が風に吹かれて擦れ合う音が聞こえてくるだけであり、鳥などの鳴き声は聞こえないのが不思議だ。


「どれがトレントでどれが普通の木か全くわからないな」


 きっと何処かにトレントは居るのだが周りをぐるりと見渡してもただの木であり全くの違和感も感じない。


「とりあえず魔法で攻撃してみるか」


 コウはすぐに氷槍を作り出し目の前の木に向かって放つと何事もなくそのまま木へ当たり木は折れてしまった。


 どうやら目的のトレントではなかったようでそんなには甘くはなかったようだ。


「むぅ...他の木も何の反応もないしここら辺にはいないのか?フェニはなにか感じるか?」


 魔物通し何かしら感じるものがあるかも知れないと思いフェニに聞くが特に何も感じないらしく首をかしげている。


「まぁ流石にわからないか...しょうが無い少しだけ森の奥に行くか」


 そのまま森の奥へとどんどん進んでいくにつれて太陽の光が木の葉で遮られ周囲はどんどん薄暗くなっていく。

 

 ここまで森の奥まで来たのに動物はおろか魔物も存在していないのはおかしいと薄々感じていた。


 更に森の中を歩くと空気がひんやりとしてきてコウは背中に何か視線のような違和感を感じ後ろを振り返るが特になにもない。


「気のせいだよな...?」


 気のせいだと思いつつ前を向き再び一歩踏み出すと地面から木の根が飛び出し、コウを捕まえようと飛び出してきた。


「なっ―――!?」


 コウは避けようと地面を蹴り空中にジャンプし回避するが追尾してきて、コウの足を掴みそのまま空中へと引っ張られぶら下げられるような感じになってしまう。


「ちっ!厄介だな!」


 すぐにサンクチュアリを元の姿に戻し、足に絡んでいる根っこを切り飛ばすと地面へ着地しすぐに周囲の木を確認する。


 すると5本ほど木の表面がビキビキと音を鳴らし顔のようなものが現れこちらを凝視しており、まるで獲物が罠にかかったような顔をしていた。


 そう...ずっとトレントたちは待っていたのだ。獲物が森の奥まで来るのを...。




ここまで見てくださってありがとうございます!


そしてブクマや星をくださる方もいつもありがとうございますm(_ _)m

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