第88話

「おっと...もうこんな時間か」


 ついつい話が弾み時間を気にせず話し込んでいると気づいたときには既に外は茜色の夕日が輝き窓からは橙色の光が差し込んでいた。


「もう帰っちゃうんですか?」


「そうだな。Cランクの試験報告も早くしたいしな」


 イザベルはコウが帰ろうとしているので少しだけ残念そうにするがコウにも色々とやることがあるためしょうが無いと思い割り切る。


 といっても別に王都からローランまではそこまで遠くないため会おうと思えばいつでも会えるのだが...。


 コウは座っていたソファを立ち部屋のドアの前へ行ってドアを開けるとそこにはいつもの門番が立っていた。


「イザベルじゃあな。また暇なとき遊びに来る」


「いつでも私はコウさんをお待ちしてますね!」


 イザベル達に別れを告げ部屋の外に立っている門番へ外の門まで連れて行ってもらうと先程、門番に怒られた女性がまだ反省中という文字の書かれた看板を持っており、しくしくと泣いている。


「ありがとうな。えーっと...」


 そういえばいつも案内してくれているだけで気にしてはなかったがこの門番の名前はまだ聞いたことがないとふと思い詰まってしまう。


「そういえば名乗ってなかったね、私の名前はミルサという。これからもよろしく頼むよ」


「ミルサね...覚えた。また来たときもよろしく頼む」


 ミルサとも別れを告げコウはフェニを肩に乗せ夕日に照らされた貴族街を歩く。


 まだ宿を取っていないのをコウは思い出しそこらにある宿に入り、泊まれるかどうかを聞き歩くがどこもかしこも既に満員のようで泊まれずにいた。


「しまったなぁ...何処も部屋が空いていない」


 これでは最悪、野宿になってしまうだろうか。


 まぁ野宿といってもコウは見張りが必要にならなくなる便利なランタンや魔道具のトイレなどを持っているため特に問題はないのだが、まだ寝袋を持っていないので外ではあまり寝たくはないがしょうが無いのだろう。


「しょうが無い。このままローランに向かうか」


 コウは貴族街を抜けまだそれなりに人通りの多い大通りを歩き王都を出入りする城門へとたどり着く。


 やはりというかローランに向かう馬車は無く、これはもうローランには走るか歩いていくしか無いようだ。


 城門を出るために手続きを軽く済ませ、外に出るとまだまだ王都に入る人達が多くおり、多くの人々が列を成していた。


 流石、ここらで一番栄えていると言われている王都といったところだろうか。


「さて少し走るからフェニは飛んでくれ」


「キュイ!」


 フェニに伝えると肩から羽ばたき空を飛び、金色の羽を動かすたびに夕陽が跳ね返ってキラキラと輝いている。


 コウはストレッチをし終わるとローランへ向かう夕陽に照らされた道を1人と1匹は走り出すのであった...。


 どれだけ走っただろうか?


 先程まであった夕陽は既に東の大地に沈み空には丸く輝く夜月が昇って薄暗い夜道を照らしている。


 夜のためか魔物は活性化しており、走っている最中は色々な魔物を目にすることが出来た。


 ただそれらは走っているコウ達を襲おうにも追いつけないためかすぐに諦めて別の獲物を探し出す。


「休憩するか」


 走りながら一緒に並走してくれているフェニに伝えるとそろそろ休憩したかったのかゆっくりとスピードを落としていく。


 近くに岩場があるのでそこに腰を下ろすと収納の指輪の中からすぐに虫除けと魔物避けのランタンを取り出し、まだ残っているオークの魔石を中に入れると薄い結界が周囲に張られる。


 結界の境界線を見るとはじき出された見たことのない虫達がもぞもぞと動いており、少々気持ち悪いが結界の中には入ってこれないようになっているのでそのうち散っていくだろう。


 膝の上には既にフェニが鎮座していつも通り自分の羽の手入れをしていた。


 ローランまでの距離は後半分ぐらいであり、このまま今のペースで走り続ければ到着するのは深夜になるのでコウは今夜はこの場所で夜を明かそうと思っている。


 コウとフェニは適当に食事を取った後、ゆっくりしていると岩場の後ろからカサカサと小さな音が聞こえ振り向くと片手剣を振り上げた男が今にもコウへと振り下ろそうとしているのが見た。


 振り下ろされるのと同時にコウは反射的に回避体勢を取り、特に怪我はなかった様だが、目の前の男は残念と言うような表情をしている。


「うっそだろ!避けるのは上手だな!兄ちゃんこいつで間違いないか!?」


 目の前の男は振り返ると足音もなくもう1人後ろから別の男が出てきた。


 コウは気を抜いていたのもあるが今のように足音が魔道具かそれとも目の前の男たちの技術かはわからないが足音は聞こえないらしい。


「間違いない。依頼された標的だ」


 どうやらコウは何者かに狙われているらしいく出てきたもう1人の男は口が軽いのかペラペラと情報を喋ってくれていた。


 依頼されたということはコウに恨みを持っている人の仕業だろう。


「何だお前らは...今、引けば見逃してやるぞ」


 ゆっくり休憩していたのにいきなり邪魔をされて少々だがコウは苛立っていた。


 そして目の前の2人組の男に警告をすると、コウは足元からは少しづつ魔力を放出し相手の足場に魔力を溜めいつでも攻撃できるよう準備をしていく。


「ぶはっ!兄ちゃん!こいつ俺らを見逃すとか言ってるよ!」


「まぁ笑ってやるな。子供の言うことだ」


 どうやら目の前の2人組みはコウを侮っているらしく引く気はないようだ。


 せっかく警告してやったのに...とコウは思いつつ相手の足元に準備した魔法を起動すると目の前の男2人組の足が一瞬で凍りつく。


「は?」


 目の前の男2人組は最初に何が起きたのか理解できていなかったらしくコウが手で下を指差すと状況が理解できたらしく強張った表情になっていくのが見えた。


「さて尋問の時間だ」


 コウは目の前の二人組から更に情報を聞き出すべく下半身が氷漬けになった男2人組に近寄っていくのであった...。



ここまで見てくださってありがとうございますm(_ _)m

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