第87話

「久々の王都だな」


「キュイ!」


 コウとフェニは聖都シュレアから王都へ向かう道を同じく2日ほど時間を掛けて王都へと来ていた。


 ローランにそのまま帰らず王都に寄っていた理由はただイザベルに聖都シュレアで買った髪飾りのお土産を渡そうと思い寄っただけである。


 大体、1週間ぶりに王都の大通りを見るとやはり聖都シュレアより断然に活気があり、人混みが多く大通りが人で埋め尽くされているのが見えた。


 とはいえこの大通りを通らないと貴族街にあるイザベルの住んでいる屋敷にはたどり着けないので諦めて移動するしか無いのだが...。


 コウは多くの人混みの中を縫うように歩き、貴族街まで抜け無事にイザベルの屋敷の前にある門へと辿り着く。


「あれ...いつもの人がいないな」


 いつもの門番が居ると思いコウは門の周囲をうろつくが今日はいないようで、もしかしたら休みか何かあったのかも知れない。


「ちょっと!そこのあなた!この屋敷の周囲で何をしているのかしら!?」


 コウが門の前でウロウロとしていると何処からか大きな声で注意喚起され振り返るとそこには全く知らない女性が門の中で立っており、こちらを不審な目で見ていた。


「いやこの屋敷のイザベルに用があるんだが掛け合ってくれ」


「はぁ!?イザベル様を呼び捨てにするなんてどこの馬の骨よ!成敗してやるわ!」


 目の前の女性はイザベルを呼び捨てにされたのか気に食わなかったのか怒りを表していた。


「やめないか!」


 ゴンッ!と鈍い音が響くと同時に「あいた!」と声を出し目の前の女性は頭を抱えて地面に伏せる。


 目の前の女性の頭を叩いたのはいつもコウを対応してくれている門番であり、頭を抱えて地面に伏せている女性を見てため息を付いていた。


「全く...いい加減にしないか。最近、苦情が多いんだぞ!」


「でもぉ...この子がイザベル様を呼び捨てに...」


「前に私が説明した筈だが?イザベル様には親しい男の子の友人が居ると」


 まるで自分に非がないように怒られた女性は言い訳しているといつもの門番のこめかみに血管が浮き出て更に怒られている。


暫く怒られている女性を見ながら待っていると指導が終わったのかいつもの門番が近寄ってきた。


「ふぅ...うちの新人が済まなかったね。じゃあイザベル様のとこに案内するよ」

 

「あ、あぁ...頼む」


 門の前では先程まで怒られていた女性が正座させられ反省中という文字の書かれた看板を持たされているのが見え少し不憫に思うが触れずにスルーして門番の後ろにへとついて行く。


 いつも通り広い庭園を歩き屋敷に辿り着くとホールの階段を登ってイザベルの部屋へと到着する。


 門番がドアを軽くコンコンとノックすると中からは「どうぞー」とイザベルの落ち着いた声が聞こえてきた。


「コウ君が団長に用があるということなので連れてきましたがドアを開けてもよろしいでしょうか?」


「えっ!コウさんですか!?ドアを開けるのはちょっと待って下さい!」


 前回と同様にバタバタと部屋を駆け回る音が聞こえ、エリスも中に一緒にいるのかイザベルがエリスに向かって何かを色々と指示しているようだ。


 部屋の中から「お待たせしました!」と言われたので門番がドアを開くと部屋の中にコウは入り、門番はいつものように扉を閉め警備へと戻っていった。


「コウさんお久しぶりです!ライラさんは聖都シュレアへ無事も送れましたか?」


「あぁ色々あったけどライラは無事に送れたよ」


 最初にイザベルはライラのことを聞いてきたのでそういえばイザベルとライラは1日でいつの間にか仲良くなっていたことを思い出す。


 コウはソファに座るとエリスが嫌な顔をしつつ紅茶を入れてくれていた。


 どんだけ嫌なんだよとコウは思いつつ紅茶をすすると美味しく作られており手は抜いていないようだ。


「そういえば用ってなんですか?」


「これを聖都シュレアに行ったからお土産として持ってきたんだよ」


 収納の指輪の中からライラに渡した物とは真逆の色をした銀色の十字架の髪飾りをイザベルに軽く投げると受け止めてくれた。


「こんな良いものを頂いてもよろしいのでしょうか...?」


「ん?まぁイザベルの髪に似合いそうだと思って買ったからな」


 イザベルにそう伝えると嬉しそうに頬を少し赤く染め、綺麗な銀色の髪へと髪飾りを付けてこちらに見せてくる。


「ありがとうございます!どうでしょうか?似合いますか?」


 ライラもそうだが、この世界の女性達は物を身に着けたら見せるのが普通なのかとコウは思ってしまう。

 

「俺の見立て通り似合ってるな」


 やはり銀色の髪に丁度良く似合っており、コウは満足する。


「私にはないのかしら?お土産は...」


 エリスが何故、イザベルにはお土産があって自分にはないのかと不満そうにしていた。


 コウとしてはエリスとの最初の出会いの印象が最悪だったためお土産を用意するという考えがなかったのだが...。


 ただ...このまま何も無いですと言うと既に機嫌が悪そうなエリスの機嫌が更に悪くなると思いコウは1つだけ良さげなお土産を思い出す。


「勿論あるぞ。ほらこれでどうだ?」


 コウが収納の指輪から取り出したのは聖都シュレアの屋台で売っていたホットドッグの様な料理であり、エリスへと手渡すと少し不満そうだ。


「むぅ...食べ物ねぇ...悪くはないけど」


 エリスは文句を言いつつコウに渡された料理を一口食べるとエリスは目を見開き黙々と食べだす。


「君にしては中々良いお土産だったわ。今回だけはありがとうと言わせてもらうわね」


 最初は不満そうだったが食べてみるとかなり満足したようで珍しくエリスはお礼を言ってきた。


 エリスへと餌付けが成功したようでコウはホッと一安心する。


「エリス...私も食べたかったのですが...」


「も、申し訳ありません!つい美味してくて!」


 イザベルは残念そうにしており、コウとしても購入したお気に入りの料理のストックはあまり出したくはないが流石に可哀想だと思い追加の分の料理を出す。


「これで最後だからな」


 コウがそういうとイザベルの表情が明るくなるのでエリスに取り出した料理を渡しすぐに切り分けて貰って各々へと配り、コウの旅の土産話を聞きつつ間食を楽しむのであった。



ここまで見てくださってありがとうございますm(_ _)m

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