第75話
次の日、コウは前回泊まった宿をチェックアウトしたのちフェニとともに白薔薇騎士団の屋敷へと来ていた。
ライラを迎えに来たのだが門の付近にはおらず、まだ屋敷の中にいて準備をしているらしい。
修道服のため着替えは早いだろうが化粧や髪を整える時間など様々なものがあるため待つのは長引くだろう。
暫くコウは門の前で待つことにし、門番と少しだけ世間話をして時間を潰すとイザベルとライラが会話をしながらこちらに歩いてくるのが見えた。
2人は楽しそうに会話をしており、1泊しただけなのだが気が合うことがあったのだろうか。
「すみません〜待ちましたか〜?」
「いや、今来たところだ」
ライラが門の前に立っているコウに気付いたのか小走りで駆け寄り恋人の待ち合わせのテンプレのようなやり取りをする。
「コウさんとフェニちゃんおはようございます!今日からライラさんを頼みますね!」
「ん、しっかり聖都シュレアに送るよ」
「キュイ!」
昨日、別れる際もイザベルは機嫌があまりよろしくなかったが、今日は特に機嫌が悪いような様子も無い。
寧ろ顔はニコニコしており、昨日よりも機嫌が良いようでコウは胸を撫で下ろす。
もし昨日のように機嫌が悪かったら機嫌を取り直さなければいけない。
といっても昨日は機嫌を取り直す方法がわからないのでそそくさとライラを預け逃げ出したのだが...。
今のイザベルを見ると女心と秋の空という言葉がコウの頭に浮かぶ。
「コウさん。もし良ければ聖都シュレアへ向かう良さげな馬車を紹介しましょうか?」
どうやらイザベルが乗り心地の良い馬車を紹介してくれるようだ。
コウとしては今から馬車を探そうと思っていたのでその手間が省けるならラッキーな話である。
「悪いな。助かる」
「いえいえ、気にしないで下さい。私がしたいだけですので!」
何故ここまで良くしてくれるのか?良い事でもあったのか?と疑問が浮かぶが、まぁ機嫌が良いなら別にいいかと思いイザベルの紹介を受け入れることにした。
イザベルの機嫌が良いのにも理由があり、コウがイザベルのことを頼りになる人と言っていたのをライラと会話している中で聞いたため張り切っているのである。
人とは直接に評価を聞くよりは誰かを通じて良い評価を受けた方が嬉しいものなのだ。
しかも少し自分が気になっている人からの評価なので尚更、自分の評価を高めようと張り切っているのであろう。
「では馬車なのですが、すぐに手配しますので王都の門の外で待っててくださいね!あとこちらをどうぞ!」
どうやら王都の門の外まで馬車を呼んでくれるらしい。
そしてコウはイザベルから1枚の引換券のような物を手渡された。
「なんだこれ?」
「それは馬車に乗る際に渡してもらえば1回だけ無料で聖都シュレアまで乗せてもらえる券ですね」
「おぉ...こんなのも貰って良いのか?後で返せって言っても返さないぞ?」
コウは貰った券を胸元に隠す素振りをするとイザベルは「そんなこと言いませんよ」とクスクスと笑う。
「色々とありがとうな。じゃあライラ行くか」
「はい~イザベルさんまた今度お茶をしましょうね~」
コウとライラはイザベルと少しだけ雑談し別れを済ますと王都の門の入口へと歩いていく。
朝の王都はそこまで人が歩いておらず通りにある屋台は昼に開店するためなのか食材の仕込みなどの準備をしているのが見えた。
コウとしては王都の屋台の料理はまだ食べたことがないため気にはなるが準備中ならば食べることも注文することも出来ないので諦める。
そして空いている王都の町並みをのんびりと歩くと王都を出入りする門の前へと到着した。
門の前は朝、冒険者ギルドなどで依頼を受けた冒険者が外に出ていくためなのか混雑しているようだ。
イザベルの手配した馬車は門を出た外のすぐ近くに呼んでいると聞いているので早速、外へ出るべくコウはライラと混雑している列に並び手続きを済ませようとする。
暫く混雑している列に並び手続きを済ませ外に出るとすぐに周囲を見渡しイザベルの手配してくれた馬車を探すと1つだけ装飾が普通より多い馬車が待機しているのが見えた。
更にその馬車の特徴を言えば馬も普通の馬では無いようで額には角が生えており、毛並みは青白く染まっているのが確認できる。
「もしかしてあれなのか...?」
「良さげな馬車ですね~」
コウは装飾が多い馬車に近づき御者に話しかけるとやはりイザベルが手配してくれていた馬車らしいのでそのまま引換券を渡し乗り込んでいく。
馬車の中はそれなりに広くまた座る席の部分には大きめのクッションなどが敷いてあり旅としてはかなり快適そうだ。
イザベルのおすすめの馬車なのできっと走る際の振動なども少ないだろう。
王都から聖都シュレアまでは大体2日ほど掛かるとされており、野宿することがあるだろうが準備はしているので問題はない。
「では聖都シュレアに向けて出発いたします」
御者が合図をすると馬車は聖都シュレアへと向かう道をゆっくりと進み出し2人と1匹の少しだけ短な旅が始まるのであった。
ここまで見てくださってありがとうございますm(_ _)m
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