第74話

 ライラを馬車に乗せた後は何事もなく平和に進み王都へ到着するのも後、少しの距離となった。


 結局、ライラの分の乗車賃はコウが立て替えたが、聖都シュレアに到着したら払ってくれた分は返すと馬車で乗っている間に口約束をしたが実際には返してくれるのかはわからない。


 ただ修道服を着て神を信仰している聖職者がそんな小さな嘘を付くとは思えないので安心はしていいだろう。


「おっと、もう少しで王都に着くぜ!」


 御者台から王都にもう少しで王都に到着するといわれ、馬車に付いている小窓から外を見ると広い町並みの王都が見えてくる。


 このまま聖都シュレアまで行きたいが既に空は茜色に染まっていたのでコウとしては王都で1泊した後に向かおうと考えていた。


「そういえばライラはこのまま聖都シュレアまで行くのか?」


「いえ~私は王都で1泊してから明日から移動しようかと~...夜は危険ですからね~」


 ライラも夜は危険ということは理解しているのか王都で一息付いてから次の日の朝、出発するとのことだった。


 といってもライラは路銀すら無いのでコウとしては何処で1泊するんだと思い呆れる。


「1泊すると言ってもお金がないんだろ?」


「あら~そうでした~どうしましょう~...」


 ライラはこんなのんびりとした性格でよくここまで旅を出来たものだろうかとコウは思う。


 このままライラを見捨てることも出来るのだがコウはそんな事を出来るような人物ではない。


「はぁ...しょうが無いな。1人だけ頼りになる人がいるからそこに頼んでライラを泊めてもらうか」


 コウの頼りになる人というのはイザベルの事であり、あそこの屋敷ならば女性で聖職者でもあるライラを断ることはないだろう。


「何から何までありがとうございます~」


 そんなやり取りをしていると先程まで走っていた馬車の揺れが少しづつ小さくなっていくので馬車の中にある小窓から外を再度覗くと、既に王都の門への長蛇の列の最後尾が見えていた。


「少しだけ仮眠でもしようかな」


「あ~膝枕でもしましょうか~?」


 長蛇の列を見て王都へ入るのには最低でも1時間は掛かるだろうと予想し仮眠しようとするとライラが膝を使うかなど聞いてくる。


「いや大丈夫。というか聖職者がそんなこと言ったら駄目だろ...」


「冗談ですよ~」


 コウはライラの冗談に軽く付き合った後に少しだけ目を瞑り仮眠を取るといつの間にか馬車は門の入口へと到着していた。


 目を擦り馬車から降りるとライラが門兵へと自分の身分を証明するためにギルドカードとは少し形の違うカードを門兵へと見せているようだ。


「次は君の番ね」


 門番にそう言われコウも冒険者ギルドで作られたギルドカードを門兵に見せる。


 特に問題は無かったのかすぐに「はい、ありがとうございます」と言われギルドカードを収納の指輪の中へとしまい門をくぐっていく。


 馬車の御者はコウが手続きしている間に手続きを済ませ別れの言葉も無く何処かへ行ってしまったようで周囲に姿はもうない。


「よし、じゃあ泊まれる場所に行くか」


「はい~お願いします~」


 コウはライラを白薔薇騎士団の屋敷に泊めるために歩き出しカフェ街に差し掛かったとこで遠くからコウの名を呼ぶ声が聞こえ、周囲を見渡すと小さなカフェでイザベルが1人でお茶をしていた。


「先日ぶりだな。急に悪いがイザベルに相談があるんだけど良いか?」


「えぇコウさんもお久しぶりです。で...相談の前に隣りにいる綺麗な女性は誰かしら?」


 わざわざ屋敷まで行き手続きをしなくてよかったと思いイザベルに挨拶し話しかけると何故か不機嫌なようで隣のライラについて質問をしてくる。


 勿論、コウはイザベルが少し気が立っているような感じがし、ここで間違ったような事を言えばなにか悪い事が起こるのでは?と警鐘をガンガン鳴らしていた。


「そのだな...隣にいるのはライラといって空腹で道端に倒れていたのを救ったというか...」

 

「ライラさん本当かしら?」


 コウの話を聞くと間髪入れずにライラへと質問をしていく。


 まるで既婚者が他の女性と偶々一緒にいる時、嫁に見られ浮気を疑われたような感じである。


 修羅場――まさにその様な感じの雰囲気が先程まで穏やかだったカフェを包み込みコウは冷や汗をかく。


「え~っとそうですよ~空腹で倒れていたところを串焼きをもらい救っていただきました~」


 ライラはいつもの如くのんびりとした口調で質問に答えるとイザベルは納得したのか先程までの威圧感はなくなり穏やかなカフェの雰囲気へと戻った。


「すみません、疑ってしまって!ところでコウさん相談というのは?」


「あぁ、隣にいるライラはお金がなくて泊まる場所が無いからそっちで泊めてもらえないかなって...」


「勿論、良いですよ?」


 イザベルは快くコウの相談を引き受けライラを白薔薇騎士団の屋敷へと泊めてくれるようだ。


 もし泊めてもらえなかったら宿代が2倍になってしまう所だったのでコウとしては一安心する。


「良かったなライラ」


「本当に助かりました~ありがとうございます~」


 ペコペコとお辞儀をし感謝の言葉を述べるたびに腰まである金色の髪の毛がキラキラと舞う。


 そして襟元からはライラの大きな胸がちらちらと見えるのでコウはすぐに目を逸らすとイザベルがジト目しているのが目に入る。


「じゃあ明日の朝、イザベルの屋敷に迎えに行くから」


「わかりました~聖都シュレアまで一緒にお願いしますね~」


 コウはイザベルのジト目から逃げるように明日の朝、屋敷まで迎えに行くとライラへと一言だけ残しそのまま自分の宿を探すべく夕日が差す街の中を歩いていくのであった。




ここまで見てくださってありがとうございますm(_ _)m

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