第73話

「くそっ!なんでこんな道にフォレストウルフが居るんだよ!」


 車輪が高速で回転し、土埃を上げながら馬車は急いで前へ前へと走っていた。


 馬車の後ろには狼の様な見た目をした魔物、フォレストウルフが4頭程追ってきており、御者は叫びながら馬へと鞭を入れ馬車の速度を上げようとする。


フォレストウルフはその名の通り森などに生息している魔物だ。


 見た目は深い緑色をした毛質で基本的に獲物を見つけたら先回りをして茂みなどに隠れ襲うと言った魔物であり、この様に追われているのはかなり珍しいだろうか。


「おい!坊主!あいつらをなんとか出来ないか!?」


 御者台からフォレストウルフ達をなんとかしてほしいと言われコウは渋々、膝に乗っているフェニを隣に下ろし重い腰を上げ荷台の後ろから顔を出す。


 コウは魔力を練り水球を4個程作り出すとフォレストウルフ達に向かって放つ。


 水球がフォレストウルフ達に向かって飛んでいくが相手はウルフ系の魔物のためか簡単に左右にステップをして避けられてしまい避けられた水球は進んできた道へ当たり抉れ4箇所穴が開く。


「これから通る人が可哀想だなぁ...」


「んな呑気なこと言ってる場合か!早くしてくれ!」


 コウは自分が放った水球で抉れてしまった道を見て呟くと御者に聞こえていたのか背にある御者台から早く対処してほしそうな声が聞こえてくる。


「そんな事言われてもなぁ...だって避けられちゃうし...」


「そこを何とかするのが冒険者ってもんだろ!」


 先程のフォレストウルフ達はコウが水球を放った為か少し距離を離し、警戒しながら付いてきていた。


「う~ん...どうせ俺の魔法避けられるしなぁ...」


 腕を組みながら追ってくるフォレストウルフ達を見ながらどうしようか考えると1つだけ避けられず又、足止めできる方法を思いつく。


「ちょっとだけやってみるか」


 コウは次に水球ではなくそのまま水を魔法で作り馬車の後ろから垂れ流すとそのまま地面は水で濡れていく。


 勿論、フォレストウルフ達の足場は水で濡れて行くのだが、そのまま水球のような攻撃魔法に見えなかったのか無視して走ってくる。


「よし、凍れ!」


 コウが凍れと言った瞬間に今まで水を垂れ流してきた道が全て凍っていく。


 フォレストウルフ達の足の裏も凍ってしまったようで身動きが取れずにそのままどんどんと馬車との距離が開いていき暫くすると見えなくなっていた。


「流石クルツの英雄だな!助かったぜぇ!」


 フォレストウルフ達を撒き平和な馬車での移動が戻ってくると御者はコウを茶化してくる。


 コウは御者に対して少しだけ腹が立ったが無視をし再びフェニを膝の上に乗せ毛づくろいをするかのように撫で始めた。


 暫く馬車はガラガラと車輪が軽快な音を鳴らしながら平和に走ると御者から「少し止まるぞ!」と言われ馬車はスピードを落とし停止する。


 何かと思い外に出て御者台の方へ歩いていくと道の上で倒れている修道服を着た女性がうつ伏せで倒れているのを見つけた。


「なんでこんな道にシスターが...?」


 御者が馬車を止めたのも道の真ん中に倒れているからだろう。


 コウは生きているのか死んでいるのかわからないシスターに近づき肩を揺らすとぐぅぅぅっとお腹の鳴る音が聞こえてくる。


「お...」


「お?」


「お腹空きました~...」


 シスターもコウに肩を揺らされて気がついたのか小さな声を漏らしたので耳を傾け聞き直すとお腹が空いたという事を言い出す。


 どうやら空腹で倒れていただけなようで「はぁ...」っと小さくコウはため息をつくと収納の指輪の中からローランで大量に買い占めた串焼きを出し、シスターへと近づけるとガバっと起き上がりシスターはコウの出した串焼きへとかぶりつく。


 まるで犬だなとコウは思いつつ餌付けを続け串焼きを15本ほど食べたら満足したのかこちらに抱きついてきた。


「貴方は命の恩人ですねぇ~!ありがとうございます~!」


 シスターは着痩せするタイプなのか抱きつかれた際にコウは修道服に隠れていた胸へと沈み込み包まれ息ができなり藻掻く。


 後ろの御者からは「いいなぁ」と呟かれるが息ができないのでそれどころではない。


「っぷはぁ!死ぬかと思った!」


 ようやくシスターの抱擁から解放されコウは新鮮な空気をようやく吸うことが出来た。


「私は~聖都シュレアで孤児院のシスターをしているライラと申します~」


 目の前のシスターはのんびりとした喋り方で自己紹介をし、どうやらコウの向かう聖都シュレアでシスターをしているようだ。


 見た目はかなり顔立ちはよく碧眼、髪は金髪で腰のあたりまで伸ばしており、キラキラと一本一本が輝いて見える。


 修道服の隙間から時折見える肌は白く日焼けなどを一切していないようであり、先程も言ったとおり身体のラインは修道服に隠れているが豊満なお姉さんだ。


「はぁ...呑気だな。俺はコウ、肩に乗っているのは相棒のフェニだ」


「その~お金が無く申し訳ないのですが馬車に乗せていただいてもよろしいでしょうか~?」


 どうやら馬車に乗りたいようだ。


「いいぜ!金ならそこの坊主が払ってくれるからな!」


「はぁ!?なんで俺が払うんだよ!」


 何故かコウがお金を払うことになっており、御者へと反論すると馬車の荷台へいつの間にかライラが乗って呑気に「ありがとうございます~」などと言っている。


「全くなんなんだ!」


 コウは馬車に乗っているライラの分のお金を払うことを諦めてこれは人助けだと思いこむように暗示をかけつつ、馬車の荷台へと乗ると再び馬車は王都に向って走り出すのであった。



ここまで見てくださってありがとうございますm(_ _)m

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