第69話
「今回の優勝者はなんと!新人Dランク冒険者コウ選手となります!」
観客席からは拍手が鳴り多くの人から優勝したことを祝福されコウとしてはむず痒い。
入場口からコウの側には医療班が来ており、コウの傷を治療するために手をかざすと魔法なのか光が降り注ぎ、自身の魔法で凍らして開かないようにしていた傷の部分がじわじわとだが回復していく。
目の橋では壁際で気絶しているシスにも医療班が付いており、折れた腕の部分を治療しているのが見えた。
「それでは優勝者へ"イザベル・フォン・リディカート"様からトロフィーの贈呈となります!」
コウはイザベルという名に反応し入場口へ目を向けると白薔薇騎士団の団長イザベルが普段と違うドレスのような格好でこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
イザベルの手には金色の小さいトロフィーが抱えており、顔を見ると少し気恥ずかしそうにしている。
「優勝おめでとうございます。こちらが優勝のトロフィーとなります」
優勝のトロフィーの形は金色の盾の中心部に短剣のようなものが掘り出されているものとなっており、手に持つと小さいながらもずしっとした重さが感じ取れる物だった。
「優勝者には何か私にできる範囲でお願いを聞いているのですが何かありますか?」
どうやら優勝者にはトロフィーと何かしらお願いを聞いてくれるらしい。
少し自分の希望するお願いを考えていると気絶していたセスが目を覚ましこちらに歩いてきてコウとイザベルの間に割り込むように入ってくる。
そしてイザベルに向かって「イザベル聞いてくれ!」と大勢の観客の前で言い訳をするように喋り始めた。
セスの発言を掻い摘んで説明するとコウが卑怯な手で優勝した事、もう一度戦わせて欲しいとの事、勝ったら結婚をして欲しいという事であった。
イザベルはそれを聞いた上で軽蔑の眼差しをシスへと向ける。
「貴方はコウさんに負けたのですよ?何故チャンスを与えないといけないのですか?」
「そんな...僕は君の婚約者だよ?」
「"元"ですけどね。というか卑怯な手を使ったのは貴方でしょう?」
イザベルはシスがしていた事を全て明かしていく。
白薔薇騎士団を参加させないように受付に指示をし暗殺ギルドの人間を雇い毒を使わせ試合を有利に勝とうとした事、大会参加者を棄権させようと賄賂を使ったことなど様々だ。
観客の前で全てをバラされてしまったのでシスへとブーイングが起こり闘技場から出ていけ等のコールが始まる。
シスは観客に対して観客をバカにしたような発言をすると火に油を注ぐ形となってしまい更に会場からは非難の声が上がった。
「っ――!」
これ以上は分が悪いと思ったのかシスはすぐに入場口へと走り逃げて行ってしまいイザベルはシスに怒りを向けている観客達を声を掛けて宥める。
「では改めましてコウさんは何かお願いはありますか?」
観客達の怒りを宥めた後に再びコウへお願いをイザベルは聞いてみた。
コウは先程からお願いを考えていると1つだけ叶えて欲しい願いを思いつく。
それはダンジョンへ行ってみたいということだった。
ダンジョンとはソロで入ることはあまり推奨されておらずパーティーを組んで挑むのが一般的なのである。
コウとしては人柄として信頼でき強い味方というのは現状、白薔薇騎士団のイザベルぐらいしかいなく一緒に行ければ良いなと思い願いを決めた。
「う~ん...あっ!"俺と一緒にダンジョンへ行かないか?"」
コウが一言イザベルに向かって自分の願いを言うとイザベルは硬直し顔が赤くなっていく。
「そ、そ、そ、それはちょっとお返事を待ってもらうのはよろしいでしょうか!?」
イザベルが赤面したのにも理由がある。
その理由とはこのアルトマード王国では娯楽が少ないため童話や物語が人気であり、その中の1つに貴族の令嬢が冒険者と駆け落ちするような物があるのだ。
内容としては婚約済みの貴族の令嬢が冒険者の主人公と恋に落ちるものであった。
そして、その中の主人公とヒロインが貴族の追手から逃げるべくダンジョン内に駆け落ちするというものなのである。
さらに駆け落ちする前の愛の言葉が"俺と一緒にダンジョンへ行かないか?"というコウの一言でありイザベルも現在その本の内容とシチュエーションが現在と似ていたので自身と重ねてしまったのだ。
勿論、コウはそのような気持ちで行ったわけではなく純粋に一緒に行ける相手がいないため言っただけなのであるのだが...。
まさか自分がこの様な場所で愛の言葉をイザベルに言ったことを理解していないのでコウの頭にはクエスチョンマークが浮かんでしまう。
「ん?あぁ別に返事はいつでも良いけど...」
「でっ...では私はこれで失礼します!」
イザベルはそそくさと入場口へ歩き会場を出ていってしまった。
「なんだったんだ?また後でイザベルの屋敷に行って返事を聞けばいいか」
そんな脳天気な事を言いながら無事に優勝したコウの表彰式は終わりを告げるのであった...。
ここまで見てくださってありがとうございますm(_ _)m
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