第64話

「それにしてもあのダグエルとかいう爺さんは何者だったんだ...ハイドのことも知ってたし」


 コウは試合会場から自室へと帰る際、考え事をしていた。


 それはハイドとダグエルの関係についてだ。


 ハイドと共に生活していて所作や言動、所有している物品からハイドが元貴族ということにコウは薄々気づいていたのだが、何故あのダグエルという人物がハイドの事を知っていたのかそしてどの様な立場の人間だったのかも謎である。


 元貴族であるハイドを知っているのならば立場としては同じ貴族の可能性が高いと思ったが名字は無かったのでその線は消える。


 もし名前の部分だけで闘技大会に参加しているのであれば話は別であるが...。


 そんな事を考えていると前から歩いてくる人物に気づかずコウはぶつかりそうになるが目の前の人物がクルリと身体を回してぶつかるのを回避してくれた。


「おっと...すまん前を見ていなかった」


「にゃはは!気にしなくていいにゃ!おろ?確か君は次の対戦相手かにゃ?」


 ぶつかりそうになった相手はどうやら2回戦目ダンと戦って勝った獣人の女性のようだ。


 見た目としては薄い茶色の髪色をしたショートカットで頭には豹柄の耳が付いており、健康そうな小麦色の肌、人間のような耳は付いていなくお尻からは猫のようなしっぽが生えていた。


「あぁコウだ宜しく頼む」


「にゃは!あたしはツェリって言うにゃ!それにしても君は獣人には嫌悪感を示してないにゃんて珍しいにゃ!」


 コウは握手のためそっとツェリの前に手を出すと手を掴まれぶんぶんと握手をされる。


 この世界では獣人はあまり良い扱いを受けてはいない。


 ただアルトマード王国では獣人に対しての差別や嫌がらせは禁じられているのだが、中には快くない者もおり、言い分としては肉体に獣部分が混ざっていると魔物の血を引いているとかなんとか...。


 しかし別の世界から来たコウにしてみればちょっと自分と変わっているぐらいで寧ろ耳や尻尾を触ってみたいと思うぐらいだ。


「あたしはご飯の時間だからそろそ行くにゃ!次の試合は楽しみだにゃ!」


 嵐の如くツェリという獣人は去って行くとコウも昼時のためお腹が空いたのか ぐぅぅ...と催促をする音が聞こえてくる。


「試合...というか運動したからお腹は空いたな。フェニも待ってるだろうしすぐ戻ってご飯でも食べよう」


 こうしてコウは一旦自室に戻り収納の指輪にある食事を出して次の試合までに昼食を取るのであった...。


 昼食を取り自室でフェニとゆっくりしていたらコウはそろそろ次の試合だと言われたので再び入場口まで来て準備運動をしていた。


 ただ前試合が続いており、試合会場の中心ではフルフェイスの銀鎧を着た男と全身黒ずくめの男が戦っているので試合は拮抗しているようだ。


 暫く観戦していると急にフルフェイスの銀鎧男が首を片手で押さえ苦しみだし、膝から崩れ落ちガシャンと銀鎧が音を立てながら倒れる。


 唐突な試合の決着...。


 審判や観戦者からは何が起きたのかは分からず先程まで歓声で盛り上がっていた会場が唖然とし静まり返ってしまった。


「さ...3回戦!1戦目勝者セロ!」


 審判はすぐにフルフェイスの銀鎧男を声を掛けながらゆすり反応を確認するが目覚める気配がないので試合の勝者を決める。


 試合会場を見渡すと黒ずくめの男はいつの間にか試合会場から消えており、その試合は後味が悪く薄気味悪い試合となった。


(魔法って感じはしなかったけど...どうやったか知らないが毒の可能性が高いな)


 毒はこの大会では禁止されているがあの男は毒針などを使っているような気配はない。


 これからフルフェイスの男を治療し身体を調べてもこういった大会なのでバレないように対策していることだろうか。


(まともな大会だと思ったけど急にきな臭くなってきたな...)


 まぁコウの身体はハイドが貴族だった頃の経験上で毒などの耐性を持ったほうが良いと思い設計されているので毒は効かないのだが、コウ本人はハイドからそんなことを聞いていないので全く知らない。


 そのためコウは毒への対策を考えるが無駄だったことを知るのはまた少し先のお話...。


「お待たせしました!では3回戦2試合目コウ対ツェリ入場!」


 これからの毒への対策を考えていると準備が終わったのか入場の合図が審判から掛かったので試合会場の中心に歩いていく。


「さっきぶりだにゃ!言っとくけど手加減はしにゃいにゃ!」


「あぁよろしく頼む」


 試合会場の中心でお互いに少しだけ話すと握手をしてから離れお互いに愛用している武器を構えだす。


 ツェリの両手に持っている武器はどうやら短剣のようで2本持って構えており、獣人らしい武器となっていた。


「では...3回戦2試合目コウ対ツェリ試合開始!」


 こうして審判の合図と共に先程の試合を忘れるかのごとく歓声が上がり3回戦2試合目が開始するのであった...。




ここまで見てくださってありがとうございますm(_ _)m

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る